【漢詩】白居易


【漢詩】白居易

漢詩に興味があると編集者さんにお話ししていたところ、来月漢詩に関わるお仕事をいただきました。しかしまだ詳しくないので、予習しています…。
別のSNSに書いたことをこちらにまとめています。
まず白居易という詩人について。

【春中輿盧四周諒華陽覲同居】白居易
性情懶慢好相親
門巷肅條稱作鄰
背燭共憐深夜月
踏花同惜少年春
杏壇住僻雖宜病
芸閣官微不救貪
文行如君尚憔悴
不知霄漢待何人

「春、盧周諒(友人)と華陽観(下宿?)に住んでいる」
[どちらもズボラな性格で、相性がいい。
静かな路地だから、隣どうしで住むのにも良い。
一緒に灯に背を向けて月を眺めたり、花びらを踏みながら過ぎゆく若い日を愛し惜しんだりしている。
杏壇の住まいはざわめきから離れていて、養生するにはいい。でも秘書省のお勤めは地位が低く、貧しさから救われない。
教養のある君でさえ、そのせいで憔悴してしまっている。朝廷はどんな人材を求めているのだろうか。]

友人と同居している若い不遇の時代の詩かと思いつつ、
背燭共憐深夜月
踏花同惜少年春
があまりにも耽美なので、BL的にも読めなくもない…? ブロマンス的…? と思った一編です…

これは壮大な世界のロマンではなく「二人の限定空間のロマン」という印象が強いです。

【八月十五日夜禁中獨直對憶元九】白居易
銀臺金闕夕沈沈
獨宿相思在翰林
三五夜中新月色
二千里外故人心
渚宮東面煙波冷
浴殿西頭鐘漏深
猶恐清光不同見
江凌卑濕足秋陰

「中秋の名月の夜、宿直し、月を見上げて元久(友人)を思う」
[宮中の立派な建物が夕闇に厳かに照らされている。一人で役所に宿直しながら、君のことを思う。
中秋の名月に、二千里離れた古き友の心が映っているみたいだ。君のいる江陵の水辺の靄と波…私のいる長安の宮廷に響く鐘の音…
君のいる場所は秋は曇りが多いから、私が見ているこの月の光を、君はいま見られずにいるかもしれない。]

(↑ちょっと違うかもです)
白居易の友人の元久(詩人)は三月に左遷され、遠くにいるから会えないらしい。
三五夜中新月色
二千里外故人心
の部分が日本でも有名になり、『源氏物語』でも光源氏が「二千里の外 故人の心」と言っているとのこと。

作者の白居易は皇帝と楊貴妃の恋愛物語「長恨歌」で有名になった、とあるので、やはりロマンの人なのかな…?(まだわからない)(予習、かなり手探り)(不安…)

別の詩を読むと、白居易のほうも江州に左遷されていました。別の土地に左遷されて、大陸は広いからなかなか会えない…

【夜雪】白居易
己訝衾枕冷
復見窗戶明
夜深知雪重
時聞折竹聲

雪降る冬の夜の寒さを歌ってるのだけど、最後に「寒さで竹が裂ける音がする」というのが、聞いたことのない音の概念で、はっとさせられました。
どんな音かはわからない。「わからない」という事実を美しく感じます。

風景描写は、通常、人の心を映していることが多いです。(小説の場合はそうです)
たとえば、
風が冷たく感じるのは、心細い気持ちでいるから。
春の訪れが目に入るのは、希望を感じているから。
花と蜜蜂が仲睦まじく見えるのは、恋をしているから。
など。
でもこの詩の場合は逆だと感じます。
主人公は、きっと不安を感じていたわけではない。外の寒さ、雪の降る静けさ。布団の冷たさ。
そこで竹が裂ける(雪の重さで?)。
その音が響いて、はっとする。心の奥に隠れていた不安や寂しさが少しずつ押し寄せてくる。
風景描写が先で、感情が掘り起こされる。
というふうに感じるので、この詩がすごく好きかも。

詩の最後で「竹の裂ける音」がして、そこから主人公の感情の動きが始まる。でも詩はもう終わっているから、言葉はもうない。見えない余白で不安な心が震え続けている…
と感じるのかな?

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