【漢詩】いろいろ

【宿建徳江】孟浩然
移舟泊煙渚
日暮客愁新
野曠天低樹
江清月近人

「天低樹」からの「月近人」…
高いはずの天が枝越しに低く感じられ、遠いはずの月は水に映って近い。一人旅をしているのかな? 孤独が作者の魂を世界の秘密に肉薄させていくところ…かもしれない(違うかもしれない)。

【芙蓉楼送辛漸】王昌齢
寒雨連江夜入呉
平明送客楚山狐
洛陽親友如相問
一片氷心在玉壺

一行目が「寒い雨」で寒々しく始まって、最後の行で「氷の心」が玉の壺にカランッ…と冷たい音を立てて落ちていく。一つの感情に貫かれている…と思う。

【錦瑟】李商穏
錦瑟無端五十絃
一絃一柱思華年
莊生曉夢迷蝴蝶
望帝春心託杜鵑
滄海月明珠有淚
藍田曰暖玉生煙
此情可待成追憶
只是當時己惘然

[錦の弦楽器にはなぜか五十綋もあって、その一つ一つから、あの麗しい日々が思い出される。
荘子は夢の中で胡蝶になって戸惑った。望帝(失恋で亡くなってホトトギスになって血を吐いて鳴いた伝説の人)はホトトギスになって恋心を鳴き続けた。
海に月光が明るく降り注ぎ、真珠(人魚の涙という伝説がある)が涙のように光る。藍田(玉の産地)に暖かい日が降り注ぎ、玉から煙が上がる(煙になった伝説の女性がいる)。
この恋心をいつか未来に思い出すことができるだろうか。失恋の時、あまりにも呆然としたこの思いを。]

失恋によって尋常でなく動揺している人の心の中で、複数の不穏なイメージが激しく乱舞してるのが伝わる。
作者の李商穏は唐の終わり頃の人で、南朝の艶詞や民間の恋愛の歌を洗練させたような恋愛詞を書く人、と解説されてる。

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