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#02THE GUILD勉強会レポート:どの様なデザイナーがこの先必要とされるのか

本記事は2018. 6. 21(木) に開催された#02 THE GUILD勉強会「Design in Tech Report 2018 を読み解く」の参加レポートです。

「Design in Tech Report」とはジョン・マエダ氏が2015年から毎年SXSWで発表しているレポートです。
ジョン・マエダ氏はアーティスト、かつサイエンティストであり、テクノロジーとデザインとビジネス(TDB)の融合を、90年代から試みている人物です。
レポート内で彼は、TDBが融合し始めたこの時代において、デザイナーは今後何を求められるようになるのかについて、考察しています。

今回Takramが、ジョン・マエダ氏と直接コンタクトを取り、「Design in Tech Report 2018」を日本語に訳しました。この勉強会は、その日本語訳がリリースされたタイミングで開催されたものです。
このレポートがどの様なもので、デザイナーは今後どういうことを考えればいいのか、考えるきっかけを作ることが、この勉強会の目的だそうです。

登壇者はこちら(敬称略)
佐々木康裕 (Takram / @yasuhirosasaki
松田聖大 (Takram / @shotamatsuda
深津貴之(THE GUILD / @fladdict

Takramは、デザイン・エンジニアリング・ビジネスの2つ以上の領域に精通するプロフェッショナルの集団です。
また、THE GUILDの深津さんはフルスタック型のデザイナーであり、かつpiece of cakeのCXOでもある、デザインとビジネスの境目を超えて活躍されている方です。
TDBが融合した世界を説く「Design Tech Report」を解説するのに、これ以上ないくらい、ふさわしい方々だったのではないでしょうか。

ちなみに、スタートの深津さんの質問によると、会場にきていた人たちは、デザイン系:テクノロジー系:ビジネス系=8:1:2くらいでした。

まずは「Design in Tech Report」が発表される様になった背景が、2015年のレポートを用いて説明されました。
ちなみに2018年版は、2015-2017年レポートの集大成の様なもので、様々なコンテンツの寄せ集めになっており、なかなか分かりづらいそうですよ。

企業によるDesignの重要性の認知と、デザインファームの買収

まずはバズったというこのスライド。
ここ数年、独立系のデザインファームが買収されまくっています。

買い手の企業は主に3種類。 

・Tech企業
・コンサル系
・金融(銀行)系

この買収の大きな流れは、appleがデザインドリブンになったのに対抗して、googleなどのTech企業が自社にデザインチームを作ろうとしたことから始まりました。
それに続いて、上記に挙げた様な種類の企業がデザインファームを買収し始めました。これは、様々な企業がUIUXの重要性を理解し始めたということです。

Tech企業は、デザイナーと一緒にプロダクトを作っていくことで、買収によるデザインチームが現在うまく機能しているようです。
一方で、コンサル系の企業などは買収の結果が伴っていないようです。

そもそも、なぜコンサル企業がデザインファームを買収し始めたのでしょうか。一つはIT系のサービスで新規事業の立ち上げをする際に、UIUXをよく知って語れる人が必要だったことが挙げられます。
加えて、小さく作って改善するサイクルを素早く回そうとする「デザイン思考」が流行り、ワークフローが変化しました。検証するプロトタイプを作るために、企画の上流から手を動かせる人が必要になったのです。

しかし、買い手側が今までやってきたことを大きく変えることは難しく、デザイナーが上手く入っていけません。結局案件のフレーミング(問題提起)など、デザイナーが最も力を発揮できる部分を、買い手側のコンサル戦略チームがやってしまいます。その為、なかなか上手く噛み合わないのです。

ちなみに日本は、博報堂などの広告代理店が、海外のデザインファームの買収を始めています。しかし、日本のデザインファームが買収されることはまだ少ないそうです。

デザインドリブンの企業やデザイナーの経営者の登場

シリコンバレーにおいてデザイナーはもともと、「誰かのために働く」役職でした。

そんな中airbnbは、デザイナーが経営者になって会社をリードする、シリコンバレー初の会社になりました。
また、デザインドリブンのベンチャー企業も増えています。

「デザインは金になる」というメッセージ

このレポートは「デザインは金になる」という、マエダ氏のビジネスサイドに向けた大きなメッセージで統一されています。

これは、単純に「儲かる」のではなく、デザインがビジネスをドライブするので、合理的に考えてデザインをビジネスに導入する方が良いという考えが根底にあります。

どうやってデザインを学ぶのか

この様な流れの中で、デザイナーは様々なことを学ぶ必要が出て来ました。しかし、今のデザイナーに求められていることを、デザイン教育で提供できていないと、マエダ氏は警鐘を鳴らしています。
教育で提供されないとなると、デザイナーは自ら学んでいく姿勢を持たなければいけません

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それでは本題の「Design in Tech Report 2018」に移りましょう。
この勉強会では、3つのスライドに焦点が当てられていました。

3つのデザイン

大きく3つに分けられたデザインが、このレポート内で語られています。

クラシカルデザイン:従来型のモノのデザイン(CDのジャケット、ポスター、椅子など)
デザイン思考:デザイナーの手を動かす部分を取り除き、その考え方をビジネスロジックに転用したもの
コンピュテーショナルデザイン:テクノロジーの力で強化されたデザイン(単純にコンピューターを使ったデザインではない)

日本では、デザイン思考が最先端の様な扱いを受けていますが、世界では既にそれは当たり前になってきています。コンピュテーショナルデザインという新しい考え方が出てきており、日本は5年くらい遅れをとっているそうです。

コンピュテーショナルデザインとは?

従来型のクラシカルデザインに対する、コンピュテーショナルデザインの特徴が上のスライドで説明されています。
例えば、リーチするユーザー数のスケールが非常に大きい、一度納品したら終わりではなくアップデートし続ける、「正しい」デザインをデータを使って証明できる、などなど。

クラシカルデザインなきコンピュテーショナルデザインはない

デザインのメインフィールドが、上記のクラシカルデザインからコンピュテーショナルデザインへ、シフトしています。
しかしそれら3つのデザインがそれぞれ分断し、独立していることは問題であると、勉強会では語られていました。

3つのデザインにはそれぞれ特性があり、お互い強みが違います。
本来ならば、クラシカルデザイン、つまり手を動かすことに対して知見を持った上で、デザイン思考やコンピュテーショナルデザインの手法を用いて、デザインをブーストさせるべきなのです。

しかし、それぞれのデザイン間の交流や、技術の共有がないままコンピュテーショナルデザインだけが大きくなってしまっているのが現状です。

3つのデザインは、時系列に並んでいるのではなく、積層していると言うのが正しい。全てのデザインについて知り、扱えることが理想的な状態です。

全てのデザインを身につけようとした時の心構え

クラシカルデザインとコンピュテーショナルデザインでは、それぞれ楽しむポイントが違います。クラシカルデザインはものを作り込む楽しさ、
コンピュテーショナルデザインはルールのような実体のない抽象的なものを作る楽しさ。両方を楽しめるかが重要になってきます。

また、Takramの松田さんも深津さんも、バックグラウンドはいわゆるスタンダードなデザインではありません。松田さんはプログラミングなどの情報系、深津さんはGenerative Design
二人とも、もともと自分が行なっていたデザインプロセスを抽象化し、別のデザインに応用することで、新しいデザイン領域のスキルを身につけているように感じました。

コンピュテーショナルデザインにおいて必要なスキル

上記のスライドには、今後コンピュテーショナルデザインが主流になった世界で、デザイナーに求めらるスキルが載っています。
ビジネス、社交スキル、ライティング(writing)など、これはデザインなのか?というものがほとんどですが、今海外のデザイン学校ではこのような内容の授業がたくさんあるそうです。

では、このようなスキルを身につけるためにまず必要なことはなんでしょうか。

個人があらゆるスキルに触れるためには

佐々木さんは、デザインアウトプットにあらゆる点に関して「Why」を問い、それに対して答えられるようにすること、つまりデザイン批評のスキルがまずは重要だとおっしゃっていました。

また、深津さんは、デザインフェスでもminneでも良いので、自分一人、でものの企画から販売まで一通りやってみることをオススメしています。

深津さんは、彼の言葉を借りると「総合格闘技型」な、様々な分野に精通しているデザイナーです。それらのスキルは、少し人とは違ったキャリアパスを歩んでいたら身についていたそうです(ここら辺の話は割愛)。こういったスキルセットを、再現性のある形で身につけるにはどうすればいいのかというのは、1つの大きな問いであるとおっしゃっていました。

デザイナーの協業が重要

上記のコンピュテーショナルデザインのための多くのスキルを、一人で全部身につけるのは現実的に難しい。
けれど、そもそもクラシカルデザインでも全てを作れる人なんて存在しません。全てのスキルのうち10%~20%くらい身につけていれば十分です。

上記のスキルは学問でいうとデザイン、経済学、心理学、データサイエンスなど様々な分野にまたがっていますが、それらを複数人でカバーすればいいのです。
そのためには、まず自分の得意なスキル領域を作って、その周辺になんとなく理解できる領域を作る。加えて社交性のスキルはおさえておく。その社交性をもって他の領域の人と繋がることが重要になってきます。

異なる領域の人同士が繋がり、知識をミックス、交換していくことで、結果として複数の領域におけるプロジェッショナルを育てていくことができるのです。

上記のことを行うためには、まず様々なバックグラウンドを持つデザイナーがいることが必要になってきす。しかし特に日本では美大卒のデザイナーが多く、バックグラウンドが限られています。日本でも、例えば経済や政治学科出身のデザイナーのような人が、今後必要になってきます。

横断型のスキルを持つためにTakramがしていること

Takramでは、1人の個人がビジネス・テクノロジー・デザインのうち2つ以上エキスパート領域を持ちます。
そんな凄いデザイナーも、もちろん初めは1つのエキスパート領域しか持ちません。どうやって2つ以上の領域を持つのでしょうか。

それに関して、佐々木さんはTakramでは1人が並行して3、4プロジェクトをやり、そのうち1、2は自分にとってチャレンジングなエリアのものをやっていると説明されました。

いくつもの領域にまたがる深津さんも、基本的に複数案件同時進行。仕事の視点、一緒に組むパートナーを高速で変えられる環境に身をおくことが、横断型のスキルを身につける一つの方法かもしれません

ただ、様々な視点での仕事をやればやるほど、総合格闘技的なスキルは身につくかもしれませんが、特定の領域においては神!のようなエキスパートには、リソース上なかなかなれません。
やはり、特定領域におけるものすごいエキスパートを複数人集めて、一つのチームを作っていくことが、一番現実的な方法なのかもしれません。

デザイン教育に関して

こちらは2017年版のレポートから。
ビジネスがデザイナーにこうあって欲しいと思っている理想像と、デザイン教育とのギャップがあることが書かれています。

自分のエキスパート領域を1つから2つ、3つにするだけで横断的な生き方ができるようになりますが、そのような教育を教育機関がまだ担えないのが現状です。

深津さんは多摩美でプログラミングを教えているそうです。そこでは、デザイナーがコンピュータ技術を学ぶとできるようになること、それらを学ぶメリットをしっかり伝えているそうです。
仮に手を動かしてプログラミングができなくても、テクノロジーを知り、テクノロジーを扱えるようになることが重要だとおっしゃっていました。

一方で、2、3の領域を持つ統合的なデザイナーがいたとして、そのような人材を受け入れられる企業や、アサインできるポジションが日本にあるのか?という課題もあります。
それは、日本の分業の仕組みだったり、ビジネス設計/企画にデザイナーが呼んでもらえる様な風土、役職、仕組みがないことだったりが原因になってきます。

今後活躍できるデザイナーを教育するだけでなく、活躍できる場を作ることも日本の課題なのです。

まとめ

デザインはビジネスとテクノロジーと融合し、ますます複合的になっています。デザイナーに求められるスキルは多様化し、一人が複数の領域に関してエキスパートであることが必要になってきています。また、昔はビジネスのためのデザインだったのが、デザイナー自身がビジネスにコミットする流れが世界ではできています。

デザイナーは複数のスキルを持てるよう自ら学び、また社交性をもって他の領域でのエキスパートと協働し、スキルを交換し合うことが重要になってきます。

また、デザインがビジネスやサービスをつくるときにどう貢献すべきか、そのような議論を活発に交わす必要があります。
GUILD勉強会では、そのような議論を交わす場を作って行きたい、と深津さんはおっしゃっていました。

なんとなく感想

自分自身が、大学/大学院でロボット工学専攻からの、新卒でweb系企業インハウスデザイナーをしており、今回のデザイン・ビジネス・テクノロジーの融合はかなり興味のある話でした。
「複数領域になんとなくまたがっている自分」の活かし方がまだまだ分からずモヤモヤしているのですが、今回の話を聞いて改めて自分の目指すべき方向性などを考えるきっかけになりました。
ありがとうございました。

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