モンチッチを生み出した株式会社セキグチの歩みに見る、大正時代~現代の人形
JR新小岩駅(東京都葛飾区)の駅前広場には、こんな銅像があります。
モンチッチです!
モンチッチは今から50年前の1974年に発売され、現在も愛され続けているのは、皆さんご存じだと思います。
新小岩駅には他にもモンチッチがたくさん。マンホールやデッキの壁面など、いたるところにモンチッチがかわいい姿を見せています。
「モンチッチ公園行きバス」と書いてありますね。駅からバスで10分ほどのところに、「モンチッチ公園」というのもあり、こちらにも、モンチッチの像がたくさんあります。
また、公園の一角には、大正時代~昭和初期に作られたセルロイド人形をかたどった像もあります。
新小岩とモンチッチ、そしてセルロイド人形には、どんな関係があるのでしょうか?
カギになるのは、モンチッチを生み出した、株式会社セキグチです。
セキグチの歩みは、日本の近現代のおもちゃ、特に人形・ぬいぐるみの歩みに重なり、元おもちゃ屋の私にとってとても興味深いものでした。今回はセキグチさまに見せていただいた資料も参考に、セキグチの人形玩具の歴史をご紹介します。
100年以上の歴史を誇る人形・ぬいぐるみメーカー、セキグチ
モンチッチを制作・販売している株式会社セキグチは、今から100年以上前の1918(大正8)年、葛飾区上平井町(モンチッチ公園のすぐ隣)で創業しました。
現在も同じ場所に本社があり、ずっと葛飾区で人形やぬいぐるみを作り続けています。
モンチッチ公園は、かつてセキグチの工場があった場所で、2016年に公園としてオープン、2022年にモンチッチのモニュメントなどを多数加えてリニューアルされました。
創業当時のセキグチが作っていたのが、セルロイド人形です。
この頃日本ではセルロイド人形の製造と輸出が盛んになり始めました。1914年の第一次世界大戦の影響で、それまで世界トップだったドイツ玩具の生産が下がり始めると、1927(昭和2)年には、生産額で世界一位になりました。
モンチッチ公園にあったのは、この頃セキグチが作っていたセルロイド人形の像なのです。
戦後、ソフトビニール人形の時代に
そんなセルロイド人形ですが、引火しやすいという安全性の問題があり、やがて新しい素材に変わっていきます。
太平洋戦争、戦後の物資不足の時代を経て、使われるようになった素材がソフトビニールでした。
セキグチでも、ソフトビニール素材の人形が作られるようになります。
ソフトビニール(ソフビ)人形というと、ウルトラマンや怪獣を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、1950年代、60年代は、大ぶりでかわいらしい女の子・男の子の人形が人気でした。こうした人形は、子どもの遊び道具というよりも、大人が集めて、飾って楽しむものでした。
セキグチでは、ポッポちゃん(1969年)、マドモアゼル・ジェジェ(1973年)などです。
とても可愛いお人形で、私も持っていました。
マドモアゼル・ジェジェは、指しゃぶりのできる人形でしたが、これはモンチッチに受け継がれていきます。
モンチッチは、ぬいぐるみ×ソフトビニール人形!
ソフトビニール人形だけでなく、ぬいぐるみも作っていたセキグチですが、1972年、体はぬいぐるみ、顔はソフトビニールという「くたくたモンキー」が登場。
ご覧の通り、これが元になって1974年に誕生したのが、モンチッチです。
モンチッチは、発売と同時に大流行。国内だけでなく、オーストリアを皮切りに海外にも輸出され、世界中で大人気となりました。特にヨーロッパでの人気が高く、日本で販売されていなかった1985年からの10年間も、フランスでは販売が続いていたそうです。
その後、1996年に再び販売が始まり、現在にいたるまで、モンチッチは店頭に並び続けています。
誕生30周年の2004年には、モンチッチくん&モンチッチちゃんの結婚式・披露宴を行うなど、ユニークな取り組みもあって、新たなファンを生み続けています。
シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルで行われた結婚式・披露宴には、私も参加しましたが、本物さながらの盛大なイベントでしたよ!
指輪交換の時、新郎(モンチッチくん)が新婦(モンチッチちゃん)に指輪をはめようとしたら、指輪を落してしまい、付き添いの人が慌てて拾って新郎に渡しました。
披露宴ではケーキカットもあり、美味しい食事もいただきました。
出席者の中には抽選で当たったモンチッチファンクラブの方々もいらして、皆さんと楽しい時を過ごしました。
人気キャラクターになったモンチッチ
近年は、人形だけでなく、さまざまなグッズやコラボ商品がたくさんあるモンチッチは、日本の人気キャラクターの一つと言えると思います。
同じ時代に流行した人形に比べて、息の長い人気を誇るモンチッチですが、その秘密は、キャラクターとして、さまざまな形で楽しめたからかもしれません。
日本人はキャラクターグッズが大好きですよね。
サンリオからアニメまで、数えきれないほどのキャラクターグッズがあり、それらを大人が抵抗なく持つ国は、日本くらいではないかと思います。海外の人から見ると、驚きの現象のようです。
私は1977年から99年まで、さくらトイスとは別にファンシーショップ店を経営して、さまざまな雑貨やキャラクターグッズを扱ってきましたが、この傾向はその頃よりもさらに過熱していると感じます。
日本の漫画やアニメ、そして「かわいい」キャラクターは世界的に評価が高いですが、そうしたものを生み出す素地は、このあたりにあるのかもしれませんね。
セキグチでも、現在はミッフィーやムーミン、スタジオジブリなどさまざまなキャラクターのぬいぐるみやグッズを手掛けています。
以前セキグチ本社の裏にあった、蔵を利用したショールームで、セルロイドのキューピーやこけし人形などを見せて頂いたことがあります。原宿に父の店「さくらトイス」があった頃、外国人向けに販売していたのを懐かしく思い出しました。
また、モンチッチが発売され爆発的に売れた年のクリスマスのことです。
私が経営していたファンシーショップでは、モンチッチの売れ行きを見込んで、事前にプレゼント包装をしておきました。
ところがお客様が、「顔や姿を見比べて、自分の選んだモンチッチを買いたい」とおっしゃるのです。そこで、包装を全部はがして、棚に並べ直したのを覚えています。
「今でも、足の裏に自分の名前が書いてあるモンチッチを持っている」と言っている人もいます。
人形やぬいぐるみは一生の大切な友となりますね。
モンチッチは今年50周年を迎え、さまざまなイベントを行っていますので、気になる方はぜひ、公式サイトを見てみてくださいね。
昭和27(1952)年から55年間続いたおもちゃ屋「さくらトイス」の思い出話を毎月更新しています。こちらもぜひご覧くださいね。
編集協力:小窓舎
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