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紫陽花の季節、君はいない sideあおい

※あおいさん視点からの話です。

さっき娘の名前が決まったの。
「ひなた」っていうの。

夫の柊司くんと、夫の親友・夏越くんが考えてくれたわ。

夏越くんは命名の色紙まで書いてくれた。
平仮名はバランスとるのが難しいのに、かなり字が上手で驚いたわ。

お礼に柊司くんが夕御飯をふるまったわ。

「──ご馳走さまでした。」
夏越くんは、ひなちゃんにミルクを与えている柊司くんの代わりに食器を片付けてくれた。

「夏越くん、今日は娘に素敵な名前を付けてくれてありがとう。
ひなちゃんも気に入ってくれたみたいだし、すごく嬉しい。」
私がお礼を言うと、夏越くんははにかんでいた。

「何より、柊司くんの意見だけでなく私の名前と共通点まで作ってくれて…。
皆に愛される名前になるわ。」
「柊司、あおいさんの名前にこだわっていたみたいだったから…」

柊司くんが考えてくれたのは、漢字で【向日葵ひまわり】だった。

「私が自分の名前が昔好きではないって言ってたのを、ずっと気にしていたのね。
幼い頃別れた父親、仕事で顔を会わせることがほとんどなかった母親。
呼ばれない名前が悲しかったわ。
柊司くんに出会うまでは。
彼が呼ぶ度、私は自分の名前が好きになっていったの。
きっと娘に葵の字を付けることで、もっと私が自分の名前を好きになるって考えてくれたのね。」
「…そうなんだ。」

「ねえ、夏越くん。
私貴方の名前も親御さんの願いが込められていると思うの。
貴方が災厄から守られますようにって。」
夏越くんはびっくりしていたけど、
「──そうだといいな。」
と目を瞑って何かに思いを馳せているようだった。

夏越くんは自分のことをあまり話さない。
だけど、ひなちゃんには心を開いてくれるかもしれないって予感がする。

彼はあの子の存在に涙したから。

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