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『リズと青い鳥』を見たオタクの妄言【20/06/17追記】

1.はじめに

 これは映画『リズと青い鳥』を3回見て、ようやくこの作品を理解できたような気がするので、まとめ用に書き残しておこう…というほぼ自分のための記事です。
 一応知らない方のために明記しておくと、『リズと青い鳥』は明るく社交的な女の子・傘木希美と、そんな彼女に依存しているコミュ障不思議ちゃん・鎧塚みぞれのお話です。二人は吹奏楽部で全国コンクールを目指している、というところから物語は始まります。(『響け!ユーフォニアム』というアニメの続編なのですが、これ単体でも見られるかと思います)

 記事の性質上めちゃくちゃネタバレしているので、これから見ようと思っている人はくれぐれも注意してくださいね!

2.鎧塚みぞれという女の子

 オーボエを担当している主人公・鎧塚みぞれは、人と接することが苦手で、吹奏楽部に誘ってくれた希美に依存しきっています。彼女がオーボエを頑張っている理由は「上手くなりたいから」ではありません。吹奏楽を続けて、希美と一緒にいたいから。
 でも一方で、その重すぎる愛情を希美が受け止めてくれないこともわかっています。相手から好意が返ってくることを期待していません。
 みぞれはいつも、希美に何かしてもらったとき、素直に受け取っていいのか迷っています。お礼も「ありがとう……?」と疑問形になっちゃうし、大好きのハグにもすぐに応えられない。大好きな希美がハグしようとしてくれているんだから、大喜びで抱きつけばいいのにね……みぞれの可愛いところはね……そういうところなんですよ……

 ちなみに、みぞれが生物室でお世話しているフグですが、ミドリフグという種類のようです。他の魚との混泳が難しいフグなので、おそらく人付き合いが苦手な自分を重ねているのだと思います。
 ちょいちょい入るフルートパートの雑談で、一年生が「デートで、なんとかってフグのところに連れていかれて……私にそっくりだって……」とショックを受けている会話が出てきますが、多分これもミドリフグじゃないかと。これに関しては解釈に悩んでいたのですが「自分の望まない愛され方をされてしまった象徴なのでは」と書いている方がいて、希美とみぞれのすれ違い(後述)を考えるとかなりしっくり来ました。フグはみぞれであり、希美でもあるのかもしれません。

3.傘木希美という女の子

 フルートを担当しているもう一人の主人公・傘木希美は、みぞれとは正反対のタイプです。友達がいっぱいいて、フルートが好きだから音楽をやってて。
 正直、本編『響け!ユーフォニアム』を見たときは「頑張ってたから声かけたら悪いと思って」とケロッと言う希美に「頑張ってたのは希美がいたからに決まってるでしょ!!!!」と優子先輩ばりに思ったのですが、映画を見て、希美は希美なりの形でみぞれのことを信頼しているんだなぁと納得できました。
 冒頭で二人が音楽室に向かう場面、希美はずんずん先を歩いていっちゃうし、基本的に「みぞれちゃんと付いてきてるかな?」と確認することもありません。一度だけ階段でみぞれを確認するシーンがありますが、上から下を見下ろす姿勢を取っていて、やっぱり同じ目線では振り返っていません。ここの場面、初めて見たときは「傘木お前、そういうとこだぞ……!」と思ったのですが、逆に言うと「振り返らなくても、みぞれは自分の後ろを歩いてきてくれるだろう」と思っているわけですね。素直に信頼しすぎていて、みぞれとの温度差にも気づいていないし、お互いの仲が破綻する可能性なんてまったく頭にない。「えっ、私たちって普通にずっと仲良しだよね」と思っているのです。罪な女です。

3.希美とリズ

 意識のズレがありながらも親友だった二人ですが、みぞれだけが新山先生から音大に誘われたことで、二人はギクシャクし始めます。対抗心から「私もここ受けようかな」と言ってしまう希美。それを聞いて「希美が受けるなら、私も」と喜ぶみぞれ。
 「希美がすべて」のみぞれは自身の才能に無頓着で、希美がどんなに彼女の才能を意識しようが、そもそも眼中にありません。これでは、対抗心を抱いている自分がバカみたいです。

 新山先生に「音大受けようと思ってて」と話してみても、「頑張ってね」と言われるだけで、ますます負けた気分になったりして。なんだか最近、みぞれは後輩ともうまくやってるみたいだし。みぞれも自分と同じように進路が決まってなくて安心してたけど、もしかしたら自分より先に決まっちゃうかもしれない。前は私の後ろを歩いてくるばかりだったのに。
 あ、私、音大に行きたいんじゃないんだ。みぞれに置いて行かれるのが嫌なんだ。

 そう自覚した矢先に、覚醒したみぞれの演奏を聞かされた希美のショックはとてつもなく大きかったと思います。この子は本当はどこにでも行ける力があるのに、自分を追いかけているせいでどこにも行けなかったのだ。青い鳥は希美ではなく、みぞれの方でした。

4.理解することの難しさ

 私よりもずっとすごいのに、「希美が全部」だなんて言わないでよ、私のこと賞賛しないでよ、自分の努力や才能をないがしろにしないでよ。
 なんで広い世界に行くべきだなんて勝手に決めるの、私は希美といたいから努力してきたのに、希美といられればいいのに。

 ……という気持ちをぶつけ合うのが、大好きのハグの場面です。みぞれはどれだけ自分が希美を愛しているかわかってほしくて、希美の大好きな部分を口にします。
 でもその中に、フルートのことは入っていない。親友だったからこそみぞれの才能に嫉妬して、でもみぞれのオーボエが好きで、認めざるを得なくて……そういう複雑な気持ちを理解していたら、彼女の音楽を認めてあげる一言が出るはずなのに、そんな言葉はまったく出てきません。(これは「音楽抜きで希美自身が好き」という純粋な愛情に他ならないのですが)
 希美がみぞれの気持ちを理解してあげられなかった一方で、みぞれもまた、希美の気持ちを理解してあげられませんでした。
 「みぞれのオーボエが好き」の一言は「あなたの努力と才能を認めているよ、大好きだよ、大切にしてね」と後押しする気持ちと、「希美のフルートが好きと言ってほしかった」という気持ちの表れだと思います。

5.「ハッピーアイスクリーム」が示す関係

 最後、一緒に下校する場面は、言わずもがな登校シーンとの対比ですね。
 希美はみぞれを信頼し「後ろを歩いてきてくれるでしょ」と信じきっているあまり、理解することを怠っていました。一緒に歩いていても、振り返ることすらしない。
 本当は、振り返ってあげるべきだったのです。みぞれの顔を見て、気持ちを汲む努力をして、幸せを考えてあげるべきだった。そしてみぞれも「一方通行で構わない」なんて思わずに、希美の気持ちと向き合ってあげるべきでした。

 大好きのハグで本音をぶつけて、理解し合うことの難しさを知った二人は『相手を理解し、尊重できる対等な関係』を目指すことができるようになりました。その第一歩が「ハッピーアイスクリーム!」と声をかけるみぞれと、振り返る希美の姿です。この瞬間、二人は初めて対等な友達になることができました。
 「ハッピーアイスクリーム」は続編の映画『誓いのフィナーレ』にも登場することから、ユーフォの第二楽章において、対等な関係の象徴になっているように思います。実生活でも、つい言いたくなります。ハッピーアイスクリーム。

6.二人はハッピーエンドだったのか

※2020/6/17追記

【このお話は円満なハッピーエンドなのか、見終わった後も非常に悩みました。希美が作中しきりにハッピーエンドを望んでいることや、前述のハッピーアイスクリームのやり取りから、一度は「希美がハッピーエンドを望んでいるからハッピーエンド」という『願望』をここに書いたのですが、その後4度目の視聴で、自分の中で結論が出たのでここに追記します】

 様々な意見があると思いますが、私はこのお話はやはりハッピーエンドだと思っています。

 作中、希美はリズと青い鳥を自分たちに例えつつも、その結末には否定的で「物語はハッピーエンドがいい」としきりに話しています。「二人はすれ違った心のまま、それでもリズ(希美)が望むので飛び立ちました」という終わり方は、彼女の一番望まないところだったでしょう。

 このまま黙ってみぞれを見送って、お互いの関係を悲しいままで終わらせたくない。だから希美は、リズでいることをやめて、自分自身も飛び立つことを選びました。みぞれを追いかけるのはやめて、自分の意思で、一般大学を受験することに決めたのです。

 大好きのハグのあと、希美はみぞれとの出会いを思い出し、すっきりとした表情で微笑みます。そしてその後に入る、2羽の鳥が互いに交差しながら空を飛ぶカット。この一連のシーンは、希美の決意、そして両者が青い鳥となったことで、絵本のような『悲しくも美しい結末』で終わらず『その先』を選択できた瞬間なのだと思います。二人は限りなくリズと青い鳥に近い関係だったけれど、最後の最後でそこから脱することができたのです。だからこそ、disjointからjointに変わることができたのだと思っています。

 ちなみにdisjointは「互いに素」という意味ですが、2回目の視聴時に、数学の授業のシーンで「これを互いに素というわけです」という話をしているのに気が付きました。さらっと触れているんですね。気づかなかった。

7.おわりに

 ……というわけで、自分が最初に見たときによくわからなかったポイントを、自分なりにまとめてみました。
 一年以上前の映画だし、すでに参考になるブログがいっぱいあるので「わざわざ自分が書くこともないかな」と思っていたのですが、見るたびに「この二人の関係を明確に言語化したい……」という気持ちが高まるので書きました。
 ほぼ自分用に書いた記事ですが、解釈の一つとして読んで頂ければ幸いです。

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