桜島太郎

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書評「追跡・アメリカの思想家たち」会田引継著

フランシス・フクヤマの訳者でもある著者のアメリカ現代思想の案内である。単なる解説書ではない。著者は、フクヤマとも親交があり、相手の懐に入る深い理解からそれぞれの思想家を論じている。この著作の白眉は、日本でほとんど知られていない、ネオコンの思想的位置付けについて整理してあるところだ。基本的には、元社会主義、リベラリズムの若者たちが、旧ソ連への失望などから、ネオ・コンサーヴァティブと言われる思想潮流を作り出す様が描かれる。理論的には、レオ・シュトラウスやフランシス・フクヤマ。もっ

    • 書評「怪物ベンサム 快楽主義者の予言した社会」土屋恵一郎著

      ベンサムとは失敗した人間である。この著作はベンサムの人物伝であり、19世紀のイングランドの知識人社会の物語である。ベンサムは功利主義哲学の祖の一人として現在では知られているが、彼は法律家を志していた。つまりがイングランド特有のコモン・ローという法の網の目、法解釈の歴史の積み重ねの上にある複雑なる体系を、「完全なる法典」により整理すること。これが彼の生涯の一番大いなる野望であった。「イギリス法注解」、これは彼の仮想敵たる、ウィリアム・ブラッドストーンが著した著作である。その著作

      • 書評『集中講義 アメリカ現代思想』仲正昌樹著

        本書は、アメリカ現代思想を、ジョン・ロールズの1971年の「正義論」により打ち立てられたリベラルな政治哲学を中心にして、アメリカの政治状況と絡みつつ、各思想家、哲学者が、どのような必要にかられて自分の思想、哲学を構築していったのか、歴史的に述べている。そして、アメリカの哲学がいつのまにか、伝統的なフランス・ドイツ系の哲学から、哲学の主流を奪ってしまったことについての、納得いく記述、回答になっている。 その哲学の主流の変化は、まずアメリカにおいて、文芸批評家ポール・ド・マン、

        • 書評「プラグマティズム入門」伊藤邦武 著

          ドナルド・トランプについて知りたかった。わかってきた事は、彼を支持する勢力の一つであるキリスト教福音派が、アメリカ政治をレーガン政権以降大きく動かしてきたという事実だ。しかし、彼の政治スタイルについて、もっと直截に、鋭くポイントをつく説明の仕方は無いだろうか? 彼自身の演説の、ツイートのスタイルから、何か分からないか?それよりも、彼の発想法、考え方自体から迫った方がいいのではないか?いや、アメリカ人の考え方自体を再検討した方がいいのではないか? そこで、本書である。アメリ

        書評「追跡・アメリカの思想家たち」会田引継著