『夫のちんぽが入らない』こだま

ショッキングなタイトルながら知人から勧められて手に取った一冊。奇しくも前回読んだ「舞台」と同じように、人とは違っていてしかもコンプレックスを抱えている部分といかに向き合っていくかという物語。しかもその問いに対して二つの物語から感じたのは同質のものだった。それは苦しみを苦しみのまま背負って、無理に解決せずに抱えたまま生きていこうという肯定感。苦しみは人に理解してもらって救われるようなものではなくて、自分にしか本質的には理解できなくて、それについて考え抜いて苦しみぬいたことが財産になるのだというような。それは諦めということでも人生に対する絶望ということでもなくて、なんとなく、苦しみぬいたからこそ前向きに肯定的にしんどさを捉えられるようになったんだと思う。

 本自体の感想にいけば舞台との比較になるけど、作者自身の人生のほとんど全てがそこに詰まっているような気がして、とんでもなく密度が濃かった。その重さが自分の記憶を掘り起こして途中で読めなくなるほどの苛烈さだった。そういえば以前読んだ「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」という漫画に通じる部分が多分にあったような。タイトルのショッキングさももちろんなのだが、自分のさらけ出し方だったり、自身のトラウマを深く探っていってどうにか前をむこうとする絶望の中の希望の描き方だったりとか、数十年を生き抜いたからこその一人の人間の生き様がそこからは伝わってきた。やっぱりそういう物語の方が心の奥に深く届いてくるような気がする。ミュージシャンについても言えることなんだろうけれど、処女作というのは書き手のパワーがすごく伝わってきて、呼んでいるこちらとしては気を抜くと真剣で斬りかかられるような気分になってくる。

 本作を読み進めていくとだんだん夫の存在が希薄になっていったり、大きなできごとのはずがさらっと流されていたり、各エピソードがとっちらかって提示されている印象を受ける部分があったりもするがそんな技法や構成上の点が全く気にならない。だれかのレビューであった、降り積もる雪のような物語というのがしっくりくる。かなり重たいことがらなのに淡々とした語り口が地表のでこぼこを覆って読み終わった頃には一面に真っ平らな銀世界が広がっているような。強く死のイメージを想起させながらも、静謐な美しさが漂っているこの物語はどこか安心感を与えてくれる。

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