盲腸で入院した話 発覚編

冬のある日、盲腸で入院した記録。


腹痛いのにラーメン

最初に腹痛を感じたのは3連休の中日、日曜の夜だった。
下腹部に突っ張るような痛さがある。歩くと響く。これまでに感じたことのないタイプの痛みだった。なんだろう?
でもこういう時は大抵なんともないのである。半年前に咳が出た時も肺炎ではなかったし、先月頭痛がしたときも脳出血ではなかった。今回は、おおかた昼にビールと焼酎とコーヒーを2杯ずつ飲んだせいだろう。明日には治る。
そう判断し、私は作っていた野菜たっぷり味噌ラーメンを普通に食べて寝た。一応麺は少なめにした。

腹痛いのに仕事

翌朝、腹痛は強くなっていた。
ビールと焼酎とコーヒーでお腹を壊したにしては長引くなあ。これは本格的に胃腸炎になったかもしれないぞ。今日は大人しく寝て過ごそう。
そこまで考え、はたと気づいた。今日は休日出勤だった。
私の部署では、有事に備えて1人ずつ持ち回りで休日出勤をしている。1人しかいないので、休む場合は誰かに電話して、出勤を代わってもらわないといけない。
しかし実際のところ、休日にいきなり代われる人なんてのはいない。みんな何かしら予定があるだろうし、昼まで寝ている人もいるだろう。私だって朝急に働いてくれと言われても困る。

まあ、胃腸炎くらいいいか。
私はそのまま働くことにした。幸いリモートワークである。8時間椅子に座って、最低限の仕事だけこなそう。
なんだか椅子にまっすぐ座れないし、歩くのも痛くて億劫だ。必要な仕事をさっさと終わらせようと、私はPCの電源を入れ作業を始めた。

それ、盲腸じゃね?

お腹、めっちゃ痛いな。
普通に座れず椅子の上で知恵の輪みたいになって数時間。さすがに違和感を覚えた。
胃腸炎はこんなに痛くないはずだ。どちらかというと、高校生時代の重かった生理痛に近い。でも今は生理痛を和らげる治療をしているし、そもそも生理は終わったばっかりだ。

この痛みは何だ?

はじめて心配になった私は「腹痛 下腹部 強い」でググってみた。盲腸、鼠径ヘルニア、卵巣捻転……恐ろしい言葉が並ぶ。いやしかし、こういうガチな病気はもっと洒落にならないくらい痛いだろう。私はのたうち回るほど痛くない。まあちょっと歩くのが大変だけど。

ここで私はとっておきのカードを切った。
親戚の医者に相談!
体調不良で困ったとき、親戚の医者にLINEするといつも相談に乗ってくれた。「頭が痛い!くも膜下出血かも!」ふざけて大病の名前を出すと、一応いろいろ聞かれた後「偏頭痛だから寝てなさい」と冷静な答えが返ってくるのがお決まりだった。
「ずっとお腹が痛いんだよね。盲腸かな?」
いつも通り大病の名前を1つ入れておいた。
「嘔吐や下痢はある?」
「下痢はちょっとだけしたけど、嘔吐はないよ」
「痛いのはどのあたり?」
「右下らへん」
「熱はある?」
「測ってみるか…おっ、38度ある」
いつもの感じで聞いてくれる。何度か答えると、チャットボットのように「便秘ですね」と回答が来るのだ。優しい医者である。

「それ、盲腸じゃね?」

思っていたのと違う温度感の回答が来た。この医者は病気関連の冗談は言わない。
「今すぐ病院に行ったほうがいい。休日でも空いているところ、救急外来でもいいから。」
そうは言っても、私は休日出勤の身である。有事に備えての待機要員なので離れられない。現在14時。休日の昼間に家にいて、今から働きたい人なんて本当にいないだろう。
明日の昼間でもいいかと聞いたがダメだと言う。しょうがないので私は同僚たちに鬼電を始めた。今にして思えば、この時の判断が私の命運を分けた。ありがとう、親戚の医者。
同僚は全員外出中で、連絡はついても今仕事を代われるという人はいなかった。最後に一番偉い上司に聞いた。「誰もいないならしょうがない。俺が後で見とくよ、行っといで!」上司はいつも優しいのだ。幸せになってほしい。

念のため近所に住む両親を呼び出し、念のため入院に必要そうなものを持ち、父の運転する車で救急外来へ向かった。

救急外来で初優勝

救急外来とは待たされるものだ。
受付を済ませた私はそう考えていた。病院のスタッフは手薄だし、人は多い。それにこういう場では、緊急度が高い順に呼ばれる仕組みだと聞いたことがある。待合室にはしんどそうなおじいちゃんおばあちゃんが沢山座っており、腹が痛いだけのアラサーは場違いに思えた。

「さくらさーん」

座って2分で呼ばれた。
つまり、私がこの中で最も緊急度が高い人ということである。腹が痛いだけのアラサーが、先輩たちより先に行っていいのか?院内トリアージ初優勝の瞬間であった。
看護師さんに歩けるかと聞かれた。知恵の輪みたいな姿勢でカニ歩きならできる。自信満々に歩けますと答えたが、すぐに車椅子に乗せられた。

お医者さんにいろいろと質問され、お腹をあちこち押された。右下腹部を押して離した瞬間めっちゃ痛いのが盲腸の特徴らしい。盲腸疑いで、すぐに検査をすることになった。
車椅子で運ばれ採血、レントゲン、CTを受けた。最後に栄養剤と痛み止めの点滴をぶっ刺され、検査結果を待つこととなった。

待つ間に上司と彼氏に連絡をしておいた。
上司からは「盲腸!?めっちゃ腹痛いのに昼まで仕事してたってこと?なんで?」と言われた。今となっては私もなんで昼まで働いていたのかわからない。
彼氏は「はーい。今新宿でコーヒー飲んでるから、飲み終わったら帰るわ。」呑気すぎである。後ほどわかったことだが、このとき彼は盲腸とは何か知らなかったようだ。このあとググってヤバさを知り、病室で本を読み聞かせリンゴを剥くイメージトレーニングをしたらしい。

そして入院へ

検査結果はもちろん盲腸だった。
ただし、早期に見つかったので手術せず薬で散らせるという。平日まで待って受診していたら話は違っただろう。救急外来を勧めてくれた親戚の医者と、仕事を快く代わってくれた上司が私を救ったのである。
治療に同意し、1週間の入院となった。
同意してから病室に運ばれるまで体感10分。大きい病院のシステムはよくできていると思った。

入院の話はまた別で書くかもしれない。
今回のまとめは3つ。
①右下腹部がめっちゃ痛い人は病院行こう
②生理痛が盲腸くらい痛い人も病院行こう
③ビールと焼酎とコーヒーをいっぺんに飲むのはやめよう(盲腸を見落とすので)

以上。

続き


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