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かくかくしかじか。

漫画家・東村アキコ先生の『かくかくしかじか』を読みました。

『漫勉』という漫画家の執筆に密着するドキュメンタリー番組がとても好きで、その中の東村先生の回でこの作品に触れているのを観て、これは絶対に読みたいと思いました。

僕は小中学生の頃は漫画家になりたくて、絵ばかり書いていました。
音楽に出会いその道を選んだことと、漫画家になるにはストーリーを作る才能が重要なのですが、どうしてもオリジナリティ溢れるストーリーを作れないと感じ、漫画家になるのは諦めました。

でもそのお陰もあり、絵に対する興味は未だに大きく、漫画だけでなく絵画やアートからも学びや刺激を受けるキッカケになっています。

個人的にここ何年かは漫画を読むことを意識的に控えていました。

面白い作品が多く、いくらでも読んでしまうし、長編の作品だとどうしても時間を沢山使ってしまうので、今では自分へのご褒美の時に読むようになりました。

『漫勉』は色んな先生の回を何度も何度も観ているのですが、それぞれの先生方の作品に対する精神性や絵に対するこだわり、一本の線に対する執念、仕事としてのプロ意識など、本当に学ぶことばかりで本当に素晴らしいドキュメンタリーだなと感じています。

東村アキコ先生の作品を多く読んだことはないのですが、番組を拝見した際の先生の人間性や仕事に対する姿勢に触れ、自伝的な漫画があると知り、これは読まねばと思い、満を持して読むことができました。

内容は東村アキコ先生の幼年時代からの生い立ちと、漫画家になるまでの自伝エッセイ漫画なのですが、高校時代に通っていた絵画教室の日高講師のスパルタ指導が描かれ、華々しく才能に溢れたイメージの裏に血の滲む努力があったのを知ることができます。

その精神性にどうしても触れておきたかったのでした。

東村アキコ先生は今作のテーマとして、
『どうやって「美大に合格したか」、「漫画家になれたか」とよく若い子に聞かれるが、絵を描くということは、ただ手を動かし「描くこと」。
「どれだけ手を動かしたか」が全て。
日高教室で同じものを何回も何十回も強制的に描かされた。それがよかったと思う。
楽しくだけでない押しつけるような、きつい先生に出会うことも大事。大学で描けなくなったのは、「何を描くか」、「自分の描きたいものは」と考えたから。
根気のない子や頑張れない子、逃げで描く子は無理。絵を描くことに生活で一番集中してないといけなたい。
しかし、口で言うと偉そうだし、若い子には伝わらないので漫画で表そうと思った。
若い子は、ある日何か降りてきて、いつかすっと描けるようになると思っているけど、それは違って、しんどいが想念の海の中から無理やり、何か掴んで引きずり降ろすしかない。』
と仰っているそうです。

色々な漫画家の先生に触れて感じるのは、先人の方々から本当に多くを学び盗みとろうと過去の莫大な量の作品に触れ模写し研究・分析し、その中で先輩方への尊敬や敬意を持たれているところでした。
これは漫画家の方々ばかりではなく、その分野のプロ・一流の方はみなさん同じ姿勢を持たれていますね。

将棋や囲碁なら過去の棋譜からひたすら学ぶように、落語や講談や歌舞伎などの古典芸能な方々が先人のネタから学ぶように。

漫画家の方々も同じく、漫画や絵に対する見識や知識の深さに頭が下がるばかりです。

『かくかくしかじか』は本当に素晴らしい作品でした。
ストーリーテリングや演出の巧みさに心を動かされ知らないことを沢山知れるのですが、やはりキャラクターの魅力に巻き込まれていつの間か感情移入させられて作品の世界に没頭させられました。

どのキャラクターのセリフも印象的で深く刺さったのですが、個人的には日高先生のこの言葉が演技にも通じていて、強く心に響きました。


【人物画ってのはモデルの人間性まで描ききらんといかんっちゃ!
お前が甘えた考えでポーズしとったら絵もボサっとしたどうでもいい絵になるぞ!!】

この本質と精神性と向き合いかた。

演技でもキャラクター・役、そして作品にどこまで真剣に向き合えるか。
真剣に向き合わないと絶対に応えてくれないし、いつまでたってもキャラクターは掴めないし見えてこない。
コーチとしては目の前の俳優の演技や技術という見えるものだけでなく、その俳優の人間性まで見れていないと指導なんでできるわけがない。

改めて本気になるというのは、どの世界でも同じことなのだなと教えられました。

日高先生というキャラクターは漫画の世界を超えて、『実在する生きた人』に触れた感覚として僕の中で確実に生きています。
勿論、この先生は実在する方を描いているのですが、そういった意味ではなく、想像の世界の物語や人物でも同じように思わせられることが多くあるので、それと同じく、生きた人間として、漫画の中でそれぞれの人物に出会わせてもらった感覚でした。

【描け!】

とにかくそれを口にする日高先生。

自分もたるまず、自分にとっての【描く】ことをひたすら続けなければと思わせられました。

本当に素晴らしい作品。
大切な作品として本棚に入れておきます。

松岡眞吾

2023年4月22日
https://www.shingo-matsuoka.com/

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