はま寿司

久しぶりにはま寿司に寄ったらペッパー君が増えていた。

受付のペッパー君だけでなく、席までの案内もペッパー君、レーンに乗らないサイドメニューを運ぶのもペッパー君、皿を数えるのもペッパー君、レジもペッパー君。
残された人間味はタッチパネルの有名声優くらいになっていた。

まあ、チェーン店の接客なんて実際そんなものなのかもしれない。会話したりするわけでもないし、定員を目当てに行くわけでもない。客だって小さなことでクレームを入れたり、下手したら暴れたりする。相手がロボットとなれば怒りもなくなるだろうし実はすごく効率的なんじゃないだろうかと思った。

俺はレーンの奥の厨房でせわしなく寿司を握るペッパー君を想像した。ねじり鉢巻で魚をさばくペッパー君。手のハウジングの美しい流線が機械的に動き、寿司を次々と”生産”する。シャリに体温が移らないから味もいい。
そんなことを思っていたせいか、心なしか流れてくる寿司も前より直方体に近い気がした。

食事を終えて会計になる。ペッパー君は広角RBGカメラと車の自動ブレーキにも使われる画像判定ソフトによって一瞬で皿を数え終わる。レジに行くと会計を言い渡されるが、あいにく現金の手持ちがなかった。仕方がないので「すいません…クレジットカードで…」とためしに言ってみると「リーダーに通してください」と返事が返ってくる。会話もできたのか。

俺はカードを通したが反応がない。「エラーです。もう一度お願いします」俺はもう一度カードを通すがやはり何も起きない。

ペッパー君は一瞬の沈黙の後、エラーです。盗難されたカードが使用されている可能性があります。コードR3356。警戒してください。コードR3356。警備をお願いします。ペッパー君の目は赤色に点滅し、胸のディスプレイには警告色で「!」と大映しになる。

俺が驚いて何もできないでいると、外から地響きが聞こえ、重機のようなものが近づいてくる。それは重機ではなく、無数のペッパー君で構成された巨大なキメラペッパー君だった。高さだけでも5メートルはある巨大な体躯に頭は6つついていて、すべての目が俺を向いている。

足が無数に生えて節足動物のようになったキメラペッパー君は軽自動車ほどの大きさの手をこちらに伸ばす。雨よけを破壊し、入り口のガチャガチャを吹き飛ばし、自動ドアをバラバラにひしゃげて、ペッパー君は俺を掴む。俺は為す術もなくペッパー君に店から引きずり出され、高く掲げられる。ペッパー君の胸にある渋谷の大型ビジョンほどあるディスプレイが真ん中から2つに割れて、現れたのはゆっくりと回転するカーシュレッダー。ペッパー君は俺をそこに放り込んだ。

毎度どうも