くすりをたくさん

昼下がりのコーヒー・チェーンは賑わっていた。フランチャイズ店特有のフレンドリーな雰囲気が隅々まで充満し、客は残らずハイになっていた。
俺は指定された時間に、指定された席で、指定されたコーヒーを、指定された回数傾けた。ホットコーヒーは苦手なんだけどな。

程なくして、昼下がりのコーヒー・チェーンには全く場違いな図体の男が現れ、俺の隣に座った。飴色のカウンターと華奢な丸椅子の間に肥えた体を押し込める。悲しいほど色あせたジーンズは、彼の尻が少し動けば真っ二つに破けてしまうだろう。

彼は巨大な体躯を精一杯縮めて、昼下がりのコーヒー・チェーンには不釣り合いな声で囁いた。
「品物はここにはない。金を受け取ったらお前の車に積んでおく。金が足りなかった場合、品物は来ない。お前が”営業”にふさわしくない場合、やはり品物は来ない」

男はそう言うとホイップのべっとりついたフラペチーノをすすった。

「金はあるよ」俺は紙袋を差し出した。「トイレで数えてきな」

男は俺から紙袋をつかみ取り、椅子から身を引き剥がすと、丸太のような腕で小さな菓子袋を差し出した。
「サンプルだ。テストしておけ」

俺は手のひらに収まるほどの袋を受け取る。アルミ蒸着フィルムは密閉され、スーパーで売られているままの状態だった。派手なピンク、ディフォルメされた生物。彼が渡したのは「たべっこどうぶつ」だった。

俺は袋を振りながら彼に聞いた。
「中身もビスケットのようだけど」
彼はにやりと口を歪めた。
「ところがそいつが新製品だ」

彼は袋を開け、ビスケットを一枚口に放り込んだ。
「仕入先は聞かないほうが身のためだ」
そう言い残し、トイレに向かっていった。

俺は、確かめるまでもないんだけどな、と思いながらビスケットを口に含む。フランチャイズ特有のフレンドリーな雰囲気を置き去りに、俺の意識はサバンナへと飛んだ。間違いない。今は亡き妻が最後に手にしていた粉末の、あの味だった。

【続く】

毎度どうも