パープルヘイズ

ポートランド国際空港は夕暮れに近かった。砂糖菓子を思わせるチープな機体が着陸すると、シートが派手に揺れた。チャーリーは普段は陸路を好んだが、今回のように既に飛行機が手配されていれば、仕方なくそれに従った。もちろん彼も、地上を離れて踏ん張りどころがなくなる一瞬の恐怖を、我慢できないわけではない。

搭乗口を抜け、ロータリーに着くと、彼女は既にそこにいた。
「チャーリー様ですね。お待ちしておりました。UNSAのジョディと申します」
「どうも、ジョディ。ご足労で。ポートランドには年に数回来るが、やはりいい街だな。ダウンタウンで食べるドーナツが恋しいよ」
ジョディは車に乗り込みながら返答した。
「チャーリーさん、残念ながらダウンタウンに寄っている時間はありません」
車は二人を乗せ、自動運転モードで静かに空港を後にした。

「今から向かっていただくのはマウント・フッドの麓にあるUNSAのオレゴン基地です。先日、UNSAの木星衛星調査隊が遭遇した知的生命体について、あなたの見解をお聞きしたいのです」

ジョディはフロントガラスをスクリーンに、動画を再生した。
「この動画は彼らの音声データを我々のフォーマットに翻訳したようなものです。ノイズが激しいですが、この生命体の前で演奏しているのは、かつてロックスターと呼ばれた人じゃないですか?詳しくはまだ機密事項ですが、この人物が誰かわかれば知的生命体とのコンタクトは大きく前進します。ローリングストーン誌の編集者であるあなたなら、このロックスターを特定できると思ったのですが」

チャーリーは動画から目を離さずにこう返した。

「このロックスターは……おそらくジミ・ヘンドリックスです。断定はできませんが。いいギタリストだった。全く無名のまま急逝してしまいましたが。しかし、知的生命体と交流が始まったのはごく最近でしょう?彼はもう51年も前、1970年に死んでいるんですよ?」

【続く】

毎度どうも