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【百物語】鬼童丸と縁結神

はじめに

鬼童丸と縁結神の背景ストーリーです。

人形劇

人形商人
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、都一の人形劇が始まるよ!お嬢ちゃん、興味はあるかい?」
「この劇は『鬼童丸の乱』。民の為に害を払う神明が修羅鬼道へ赴き、様々な困難を乗り越え、体中に傷を負ってでも、最終的に強大な悪鬼狩りの鬼童丸を倒したという壮大な物語なんだよ。」
「タダで観れるだけじゃなく、報酬も貰えるのさ。観終わった後に、平安京で最も賑わっている街でこのように3回叫んでもらうだけでいいんだ。『鬼童丸を降服した女神様は英明で神武で賢明で勇敢で美しく全ての敵を秒殺……』」

神楽
「面白そう。神明様が修羅鬼を打ち破る物語が聞きたい。」

人形商人
「降服された修羅鬼は隠し持っていた邪な銭貨を神明様に献上し、こう誓ったのさ。
『女神様、あなたはなんて凛々しく美しいのだ。私は喜んであなたの手下となりましょう。』
そして神明様は貧民を助ける為、この邪な銭貨を必要とする人たちに分け与えたんだ。」

家に帰った後、兄さんはあの話は完全な嘘だと教えてくれた。
鬼童丸は都で有名な悪鬼で、師を欺き、祖先に背き、あらゆる悪事をした。夜になると、子供の泣き声だけでは決して済ませない。
こんな悪鬼が女神にへりくだる可能性は、彼が悪事をやめて正道に立ち返る可能性よりも低いって。

陰陽師百鬼夜行図鬼童丸の乱
陰陽師縁結神風鈴前世の夢
式神 鬼童丸

さあ。狩りのはじまりだ。

静かな月夜。鮮やかな血の霧が徐々に薄れていく。
無残な形に変わり果てた死骸が皓々とした月明かりに照らされ、おぞましい光景を織りなしていた。
殺戮に満ち溢れる修羅鬼道は、久々の「安寧」を迎えた。
鬼の皮を纏った一人の少年が近くの枯れ木の上で鼻歌を歌いながら悠然と寝そべっている。口に咥えている小枝には、牙の可愛い噛み跡が残り、その顔もまた、異様なほどに美しかった。
少年の愉快そうな鼻歌と怨霊の絶叫は対照的だった。
「今の曲、どう思う?」
少年は鎖に縛られている小妖たちに聞いた。小妖は一瞬びくっとしたが、すぐに媚びるように笑顔を作る。
そんな時どこかから聞こえてきた喧騒が彼らの注意を引いた。悪鬼の群れの中に、簡易な舞台が冷たい月明かりに照らされている。
少年は鬼の群れに紛れ込んだ。舞台に完全に気を引かれた醜い鬼たちは、牙を剥き出して笑い、涎を飛び散らしている。横に観客がいることに、まったく気づく様子がない。
「これは?」低いが、透き通った声で少年は訪ねていた。
「しらねぇのか、猿楽だよ。修羅鬼道の殺戮以外の道楽だ。」
「まだここに来たのが日が浅くてね」
落ち着いた利口な様子の少年を見て、下級の仲間だと思った悪鬼は饒舌になり、新米に感激されるのを心底期待した。
「おめえは運が良いぞ。今日は一番面白い演目がある。修羅鬼道の由来、あの名高い修羅鬼にまつわる物語だ。」
部隊を見つめている少年の目が月明かりを反射し徐々に冷たく変わっていた。
「そうなんだ?それは嬉しいな。」

陰陽師鬼童丸伝記1

あの子との出会いは、とある蹂躙された村でのこと、血と炎によって月が赤く染まるほどだった。
赤ん坊だった彼は、死んだ母に抱かれていた。

見た目では普通の赤ん坊だが、視線があった瞬間、半妖であることが分かった。血の半分は人間、半分は鬼だ。その無邪気な眼差しには、恐怖も哀れみもなく、抑えきれないほどの興奮が見えた。

若い頃の私は一族の名誉のため、沢山の妖怪を殺した。とある日、一人の処刑される女妖が私に慈悲を請うてきた。彼女は人間の子を身籠っていた。

人と妖がこのように共存できることは考えもしなかった。一瞬哀れみの感情が過ぎったが、部下たちの困惑と嫌悪の視線を受け、最終的には女妖を処刑した。私は血まみれの両手を見つめ、信仰が崩れた。

あの一件以来、絶対に良い妖を殺めることはしないと誓った。

今、私はこの血に染まった両手で赤ん坊を抱き上げ、以前神社から頂いた赤い糸を彼の首に巻いた。この神の祝福を受けし糸は、私達の師弟関係の証となろう。私は人と妖の共存の希望を彼に託そう。

陰陽師鬼童丸絵巻迷い道
殺人衝動

殺意を隠して人間の仲間になる?くだらない。

私からすると、人間というのは、腐っていく肉のような物だ。書籍にある品のある言い方でいうならば、散っていく花のようだ。

共に学ぶ人間の女が目の前でなにかを話していた。
私に見えたのは彼女の顔の奥にある血の流れだった。先生だけは特別だ、完璧で寂しげ。彼を見る時だけ、血が見えなかった。

何度も、人間を殺す衝動に襲われた。しかし、これまで受けた教えは鬼の衝動を抑えている。私は知っている、一旦その選択をすれば、もう先生の側には居られなくなる。私は牢に入っている猛獣のように、爪で自分の体を傷つけている。

時間が立つに連れ、同僚が私を見る目線が変わっていた。怯え、排外と挑発を感じる。
「人間は、自分と異なる者に恐れている。」
先生は私の問にこう答えた。

「では、ぼくはどうすればいいの?」
先生は軽くため息をつき、ごもっともとの答えを教えてくれた。
「自らの異質を隠し、皆と同じになればいい。」

皆と同じになる?この言葉は私の心に入り、次第に無数の嘲笑が聞こえてくる。弱い肉達が集まり、その数の力で笑い、高みに居続け、他者を排除する。
そして獣は花畑に埋もれていく。
あの半妖の弟分はその道を選んだ、妖の部分を隠し、人の群れに混ざった。

先生が今回くれた任務は修羅鬼道に行き、同僚を助けることだった。危険な場所だった。
私は他のやつを守るために怪我を負った。そして、間違って一人の後輩に怪我をさせた。彼は地面に倒れ、負傷した手を引きずりながら、後ろに震えながら下がっていった。
彼は私に目を向けたまま、先の悪鬼を見る時以上の恐怖を感じていた。

助けた同僚が持ち帰った物の中に、私が半妖である秘密も入っていた。

陰陽師鬼童丸絵巻仮面
陰陽師鬼童丸絵巻薬草
覚醒・鬼童丸

血と屍で混沌の楽園を作り上げよう。

憶測によると、言葉の暴力が段々エスカレートしていく。悪意が蔓延する。そして、ある事故によって爆発した。
後に山で食われた死体が発見された、傷口には爪痕と妖気が残っていた。

「これは悪鬼の仕業だ!」
無数の疑いの目線が私に向けられた。人間は自分の考えたことしか信じない。そして、“事実”というのは、最も声の大きい、最も集まった人の群れに決められる。

3日目、7日目、死体の数がどんどん増えていく一方、悪鬼の手がかりが全くない。

数日の探索で多く人間は我慢の限界に来ていた。そして近日に悪鬼の襲撃事件が発生していない、これらの状況によって、ますます私が疑われるようになった。

私は自分を抑えようとした。しかし周りの戯言、先生の教え、心中の嘲笑などが私を追い詰める。

もう、うるさい。
正面から刺された痛みによって、私は目が覚めた。

私は片手で胸に刺さった刃を折った。同時に人間に対する最後の忍耐も折れた。私はふりかえり、あの野郎を見つめた。彼の表情は急速に変化した。
もう同類を見る目ではなく、獲物を見る目だった。

他の人も刀を抜き、呪符を準備し、私との距離を縮めようとした。一人臆病な後輩が首謀者野郎に言った。
「万が一先生に事の顛末を聞かれたら、どうする?」
「安心しろ、死人はしゃべれない。」
その言葉を発したと同時に、頭が体から落ちていた。
一瞬にして、弱い肉共が硬直した。
先の強気が一変して、本能の恐怖に支配された。

私は顔に笑みを浮かべた。
「そうだね、死人はしゃべれないのだ」

もしそいつに遺言を最後まで喋らせたら、先生が教えてくれた慈悲はあるだろうか?

陰陽師鬼童丸絵巻薬草
天誅

なんて甘い恐怖なんだ。

霊符が鬼童丸の体を縛っている、これは悪鬼専用の霊符だ。

彼の力なら、脱出できるが、そうしなかった。霊符に焼かれたままに任せ、このぐらいの痛みは先生の目線に比べば、大したことではない。

「お前がやったのか?」
「どうでもいい人間が死んだだけだ」
鬼童丸にとって、人間の命は大した価値はない。抵抗できないほどの疲労が賀茂忠行を襲いかかる、背筋が初めて丸くなった。

十数秒の沈黙がまるで数年の時間、静かさで鬼童丸が子供の頃の記憶が蘇る。

授業終了の鐘がなり、同僚の子は父の肩に乗り、笑顔がいっぱいだった。鬼童丸が往来の人間を見ている、突然背後から抱き上げられ、慌てた。忠行が彼を肩に載せ、花を渡した。
「父と母の迎えはないが、先生の肩がある。」
あれから、鬼童丸の心では、先生は親同然である。

「お前が修羅鬼の子と分かった時から、この日が来ると分かっていた。ずっとお前を監視していた、やっぱり鬼の性分は消えないか。」

先生に叱られ、最悪退治される覚悟はあった。
しかし、先生が端から自分を信じていなかったことに、これまでに先生のために我慢してきたこと、丸で笑い話のようだ。
「あは…あはは…」
苦痛、離別、悪意に満ちた笑い声だった。

忠行の肩が不意打ちによって貫かれ、修羅鬼の妖気が体を侵食する。彼は慌てなかった、師弟双方の殺意が寒気の中で混じり合う。

陰陽師鬼童丸絵巻故郷
魂狩り

君たちは魂になっても永遠に殺合いを続けるんだ。

目に映る先生の顔は妖気の影響で、朽ちっていく。
「そうだ、それこそ獲物のざまだ、やっとあいつらと同じになった!」
鬼童丸は妖気に侵食されている先生を見つめ、まるで自分の作品を見ているようだ。

「人間は自分の身を持って体験しなければ、相手の苦痛をわからないと先生は教えたよね。」
「先生は、鬼を知らなさすぎる、俺を引き取るべきじゃなかった。これが代償だ。」

一緒に鬼になって、人間から嫌われよう。一緒に深淵に落ち、覚めることのない夢に溺れようぜ。
この時、鬼童丸は子供のようで、イタズラが成功した喜びだった。鬼童丸が静かに処刑を待っていた。

「私を待っているのか?」
忠行の言葉には無尽蔵の疲労を感じられる。我が子が犯した罪、最強の陰陽師として、最初の一撃で鬼童丸を倒せたはずだが、そうしなかった。忠行は自分が憎いのだった。

「万鬼と永遠に殺戮を繰り返しすることこそ、お前の宿命、修羅鬼道に追放する、永遠に都に戻ることを許さん。」

忠行は粛清を決行した。修羅鬼の子が二度と都に足を踏み入れることができぬよう、心臓に呪いをかけた。
それ以降、二人は行方をくらます。様々の噂が溢れていたが、その真実を知る者はなかった。

陰陽師鬼童丸絵巻故郷
陰陽師鬼童丸伝記2
残月鬼衣

君の魂なかなかいい飾りになりそうだね。

猿楽が終わり、喧騒が再び戻る。
演目の中で修羅の子を演じた小鬼の表情一つ一つが、ひどく皮肉なものに見えた。
喝采、罵り、嘲笑、様々な声が聞こえてくる。
騒ぎが収まるやいなや、どこからか軽快な拍手が聞こえた。
悪鬼たちが振り返ると、そこには少年姿のあやかしがいた。
少年は拍手を止めて、立ち上がった。口元に不気味な笑みを浮かべ、呆気にとられた鬼たちの注目の中で、死骸を踏みつけて月光の舞台に上がる。
「演目が一つ足りないよ。」
彼は指で額を何度か軽く叩き、何かを真剣に考えている顔をした。
「修羅鬼道で興ざめするような真似をしたらどうなると思う?」
巨体の悪鬼が少し痛めつけてやろうと近づいた瞬間、その首が飛んだ。最後の言葉は少年によってそのまま返されたようだ。
「今日の演目はそこそこ面白かっただけど、音楽がちょっと足りてなかったかな。絶叫が最高の音楽だよ。」
数本の鎖が飛び散り、周りのあちこちから鬼どもの叫びが聞こえてきた。悪鬼たちの体はか弱い茎のように折れ曲がり、宙には血の花が咲き乱れる。
「楽しいな。」
小鬼たちが屍の山に登り、主人から賜った盛宴を享受する。
修羅鬼道は煉獄か?いや、ここは修羅の子にとっては天国だ。
忠行にここに流されたのは懲罰ではなく、ある種の鼓舞となった。
そう、悪を極めれば懲罰など存在しない。
暗闇の中で鬼は心の底から笑った。目に涙を浮かべながら。
今この状況、鬼童丸はただ純粋に楽しんでいた。

陰陽師鬼童丸伝記3
修羅の鬼

修羅鬼道こそ僕の天国なんだ。

鬼童丸は呆然と空を見つめている修羅の地で、空が珍しく晴れた。しかし、足元では屍の海だった。

数年の殺戮により、修羅鬼道には最後の鬼しか残っていなかった。
そう「修羅鬼」だった。

鬼童丸は久しぶりに感じたこの静けさに、つまらなかった。
極悪の地に唯一の花が咲いた。
血と死体によって成長し、花の芯まで黒色だった。

鬼童丸が花を摘みに行く時、首に巻いてある赤い糸が花の隣に落ちた。
しばらくすると、彼は赤い糸を拾い、考え込んだ。


先生が自分を救った時の場面だった。
「良い獲物を思い出した、行ってみるか。」
鬼童丸が修羅鬼道の一本道に向かって歩き出す、来た時のその道だった。

陰陽師鬼童丸絵巻故郷

人形商人
「郷里の皆さん、お越しいただきありがとうございます。今日の人形劇は、恋愛物語です。」
神楽
「でも、鬼童丸の乱のお話を聞きたい。鬼童丸が女神に降伏した続きは?前回は彼が生き延びるために、自分は女神の一番親しい友達だと主張するお話だったから、兄さんは彼には志がないって言ってた。」
人形商人
「そんな……志がないでしょうか?私はそれが……賢いやり方だと思いますが。」
神楽
「前回の報酬が欲しいわけじゃなくて、本当に続きが聞きたい。」
人形商人
「子供は嘘をつくと鼻が伸びますよ。」
神楽
「嘘はついてない。」
人形商人
「今回の物語にも報酬がありますよ。」
神楽
「なら、聞かせて。」

陰陽師縁結神風鈴前世の夢
式神 縁結神

縁を結ぶのは我が権能であり趣味でもあるのじゃ。

我は人々の縁組から生まれた神。
縁は素敵な物だし、人間なら誰しも婚姻から逃れることはできない。
名を轟かせる偉大な紙になるまで然程時間はかからぬだろうと、初めの頃は浮き浮きしておった。
しかし、人間はあまりにも容易に心変わりをしてしまう生き物じゃった。
昔交わした誓いも、困難を経て結ばれた婚姻も、一寸の迷いも無く破ることができる。
そして縁が断ち切られれば、我が得た力も霧散する。
縁結びの神でありながら、我は運命に定められた縁を信じられなくなった。
生涯を共にする契りなど、人間に守れるはずがないから。
百年前まで、人間界に目まぐるしい誘惑など無く、一封の手紙や一度手を結んだだけでも、縁は確かに繋がっていた。
その頃の我は、高貴な着物を纏い、立派な神社を有していたのだ。
じゃが、時は移ろい、物質的な充足は清らかだった心を変えていった。
人間界は色鮮やかになっていくが、我は徐々に光を失っていく。
終いには小さな箱のような神社しか残らず、豪奢な着物も維持できなくなった。
だが我は諦めぬ。神社を担いででも旅の出て、出会った人々の縁を結んでいくことにした。
神社は小さくとも、神としての貫禄は未だ衰えてはおらぬのじゃから!

陰陽師縁結神伝記1
緋色花月

おお。世の中にこれほど似合いの二人がおるとは。

昨今の平安京では、鯉を飼うのが流行りのようじゃ。
貴族、平民、多い、少ないの差はあれど、誰もが池で鯉を泳がせている。
水が鯉を優しく包み、鯉は水に赤ん坊のように甘える。なんと素晴らしい縁じゃろうか!
無論、人の子にも素敵な縁はある。
とある鯉好きの貴族の坊っちゃんが、鯉売りの少女に恋をした。
坊っちゃんは少女の店を訪れるたび、口先では鯉の話ばかりしておったが、その瞳には少女の姿しか映っていなかった。
少女は気づいていたのかって?
恐らく、とうに気づいておったじゃろうな。
なんせ、瞳が潤み、粉雪のように白い頬が赤く染まっておったからな。その照れ具合と言ったらもう紅白の鯉のようじゃった。

陰陽師縁結神伝記豊縁金鯉
月下の花

人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて三途の川じゃ。

しかし、人の子は魚ではない。
二人の恋路には、この池の水よりも深い深い隔たりがあった。
ある日、鯉が流行らなくなった。
心を通わせた二人を引き裂くために、少女の鯉は一夜にしてすべて殺されてしまったのじゃ。
毒を、盛られてな!
まるで、鯉が神々の祝福を失ったように、人々から罵りと蔑みを浴びせられた。
続々と集まる野次馬が口々に少女を嘲る。こんなもので貴族の心を掴もうなど、バカバカしいにもほどがあると。
しかし、少女は微塵の焦りも見せず凛と佇み、その瞳は、陽の光を映した水面ごとく輝いておった。まさにかわいい猫の眼そのものじゃ。彼が来てくれると信じていたのじゃろうな。

陰陽師縁結神伝記豊縁金鯉
神に賜る良縁

別れで終わる結末など…納得できぬ!

我はこのことを急いで坊っちゃんに伝え、縁の糸で少女のところへ導こうとしたのじゃが……なんと、坊っちゃんが我より先に駆けだしたのじゃ!
少女からもらった、最も綺麗な鯉を連れて、一心不乱に少女のもとへ!
いくら長寿とされる鯉でも、激しく揺さぶられる旅路はご免じゃろうと思い、密かに神通力でその鯉を守った。
ただ…少し力を込め過ぎたかもしれん。

陰陽師縁結神伝記豊縁金鯉
覚醒・縁結神

他の神ほどの力は無いが…必ずみんなを幸せにしてみせる。

坊っちゃんがその鯉を少女に渡したとき、、生き生きとした鯉が尾びれをなびかせて一躍し、天駆ける竜に姿を変えてしまったのじゃ!
周囲の嘲笑と軽蔑は、一瞬にして羨望の眼差しへ変わった。
鯉の人気は、坊っちゃんと少女の結婚式に最高潮に達した。坊っちゃんには一匹の鯉を、そして少女には一匹の猫を。鯉を追う猫と、それから逃げる鯉。良縁には波乱が付き物なんじゃなぁ。

陰陽師縁結神伝記豊縁金鯉
旅人

ふむふむ…。とりあえず早く結婚するのじゃ。

さて、縁結びの神として、そろそろ次の縁結びの旅に出るとするかのう。

陰陽師縁結神伝記豊縁金鯉
縁結の女神

いちど結ばれた縁は容易には断ち切れぬ。

大雪の平安京、我は金を稼ぐため本を売っていた。
しかし声をかけた子供には散々な言われようで、結局売れなかった。

鈴音に従い、平安京と鬼彊の境である紅葉林まで来ると、悪鬼と陰陽師の死体が至る所にあった。そして子供が血まみれの中から顔を上げた。
子供には悪鬼の血が流れているのを感じた。子供は弱くて無力なふりをして助けを求めた。

我は手を引っ込めたが、その子供は笑顔のままだった。そして周りに漂う殺意はこの子供からのものであると感じた。
悪鬼をバラバラにしたのは陰陽師ではない。この子供はまずどう殺すかを考え、簡単でないと判断し、罠を張ったのだ。

道を忘れて何日間も森林を徘徊したが、あの子供は突然現れた。
明らかに尾行されている。
我は石の上に食べ物を置いた。自分は神力で空腹を満たす事ができるが、子供はそうではない。 「野良猫を拾っただけだ」と思いながら…。

自分が行く所には悪鬼の死体が増えている事に気付いた。自分の神力が悪鬼を引き寄せ、それをあの子供が狩っているのだと。
我は結界で彼を閉じ込めたが、子供は容易く結界術を破った。

そしてあやつは手強い獲物と出会った。
重傷を負い、傷だらけになり、服は鮮血で染め上げられた。
だが痛快で狂ったような笑みで、一刀一刀獲物に鞭を打った。あれは心からの笑顔だった。

あやつは仮面を被り殺欲を抑えているが、殺し合いでのみ本当の快楽を得られる。先の事を考えればここで死ぬのが最良の選択かもしれない。
だがたとえ悪鬼だとしても、親が赤い糸を贈る時、最も真摯な祝福を抱いていただろうと。

我は尋ねた 。
「人間として生きたいか?それとも悪鬼として生きたいか?どのようになるべきかと聞いておるのではない。何になりたいかと聞いておるのじゃ」
「どっちの道を選んでも、自分が最も快適で幸せな方法で、元気に生きるのじゃ」と。

翌朝答えを聞くと言ったが、陽が高く登るまで寝過ごした。
道に迷ってなどいないと誤魔化す我に、平安京への道を知っているから教えてあげると切り出した。
これはあやつが「人間として生きる」ことを選択した事を意味していた。

加茂氏の屋敷までたどり着くと、子供は我の名前を尋ねたが、悪鬼に名前など知られたくないと考え誤魔化して教えなかった。
「お姉さんにはどうして信徒がいないの?僕はあなたの真摯な信徒じゃないの?」

「またね」「またの」そう言って別れた。
だが我はあやつの後ろ姿を見てこう思った。
明らかに善への道を選択したのに どうして無尽の暗黒の中へと歩いていったような気がしたのだろうと…。

陰陽師縁結神番外神の箴言
一緒にいたい!

みな…自分の縁を大切にするのじゃ。

「彷徨う魂よ、我はおぬしを何日も観察している。なぜおぬしはまだ人間の世界をさまよい、冥界に行かないのじゃ?無常兄弟に捕まえられたら厄介だぞ。しかも、おぬしには霊力がない、悪霊に簡単に食い尽くされるぞ。」
「え?最近僕を守ってくれてる霊力はおばさんのものなの?」
「……お姉さんと呼ぶのじゃ。」

「数日前、僕は間違って貴族の馬車にぶつかってしまった。亡くなる前に、母に別れを告げることすらできなかった。」
「ほんの数日前、母と喧嘩した後、僕は怒りで扉を乱暴に閉めて、外に駆けだした。出かける時にはいつも、母はいってらっしゃいと僕に言う。でもあの日、僕は感情的に駆け出したから、母の最後の言葉が聞こえなかった。僕は本当に後悔している……どうして僕はあんなにわがままだったんだろう……どうして僕は短い人生の中で、もっと母に付き合って、もっと彼女を楽しませることができなかったんだろう……。」
「僕が死んだ後、母は自分で僕を埋葬した。一緒に埋められたのは、彼女の心のようだ。それから、彼女は日々やつれていった。彼女はいつも一人で扉の方をぼんやりと眺めていた。時間が彼女の上を通り過ぎ、母は見る見るうちに老けた。その暗い目から、光の痕跡を捉えることもできなかった。風が吹くと、彼女はすぐに周りを見回して、空気に向かって「我が子よ、あなたなの?」と聞くんだ。お姉さん、泣いてるの?」

「じゃが……いずれおぬしは、別の世界に行くことになる。おぬしの母親も、おぬしが現世の苦しみから早く離脱し、次の輪廻に入ることを望んでおると思うのじゃ。」
「でも僕……母を一人残して行きたくない。僕が行った後、彼女はどうなる。母は生きていけないだろう。どうして僕は……どうして運命は母をこんなふうに翻弄するの。」

「運命は時に己の思うままにならぬ。人間も、妖怪も、鬼も、神も運命には対抗できぬ。じゃが誰もが運命に簡単に縛られてはならぬ。明日何が起こるか分からぬのなら、今日に後悔を残さぬことじゃ。縁はいずれ終わりが訪れる。現世におけるおぬしたちの母子の縁は終わったのかもしれぬ。じゃが、別の世界に行ったとて、別れを告げねばなるまい。そうじゃろう?」

「えっ?」

「母上に手紙を書くのじゃ。」
「でも、僕は字が書けないし、母も字が読めない。」
「それがどうした。おぬし、この世界に神がいると信じるか?これは空白の紙じゃが、神の祝福が込められておる。それを胸元に置き、言いたいことすべて黙想するのじゃ。」

「ええ?お姉さん、どうして突然うちの扉を叩いてるの?!」

「あの子かしら?いいえ、ただの風ね。これは……手紙?手紙には……息子の肖像?」
「お母さん?」
「え?私は夢の中にいるの?」
「お母さん、僕だよ!言いたいことがあるけど、急がなくちゃいけない。神様によると、この霊術が黒無常と白無常を引き付けてしまうらしい。
お母さん、ごめんなさい。僕は昔、あまりにもわがままだった。
あなたが悲しんでいると分かっていながら、いつも知らんふりをする。
あなたは栄養が偏ってはいけないと言うのに、僕はいつもわざと偏った栄養の食事をとる。
本当に……まだ時間が十分にあったら、無駄にしてしまった、一緒だった時間を——取り戻したい。
ごめんなさい、お母さん……僕の成人した姿を見せることができなくなった。あなたの髪に白髪が交じる時に、髪を整えてあげることもできなくなったんだ。
それでも、落ち込まずに、自分自身を大切にするって約束してくれる?決まった時間に食事をとって、毎日早く寝る。あなたはいつも、悲しみに長くとらわれてはならないと僕に言い聞かせていた。
心配しないで、僕は冥界でちゃんと自分の面倒を見るから、お母さんも安心して生きていられると思う。お母さんは全能だって、昔、僕にそう言ってくれたよね。」
「我が子よ……ごめんね、まだ幼いのに、もう大人にならなければならないなんて。お母さんはあなたに、ただ悩みのない人生を過して欲しいと思っていたの。」
「じゃあ、お母さんに気持ちを切り替えて生きていて欲しいと願う僕の気持ちも分かってくれるよね。」
「……私は、たぶんそんなに強くなれない。」

「我はかつて誓った。我が現れた場所で、悲劇が起こってはならぬと。ある神が我に問うたことがある。夢の存在する理由が分かるかと。運命には常々後悔が伴い、神が永遠に近い命を持ったとしても、一生消し去ることのできない後悔もあるのじゃと。彼によると、夢の存在する理由は、人間が夢の中で時間を取り戻し、後悔とともに生きることを学ぶことにあるという。おぬし、この紙人形を枕のそばに置くのじゃ。その中に我の……ゴホゴホ、神の力が込められておる。彼が冥界に行ったとて、おぬしたちは夢の中で何時間か会えることを約束しよう。」

「本当にありがとう! 」
「我が子よ……本当によかった!」

「縁結神様、あなたは高天原と冥界の原理に背いていらっしゃるのですか?」
「白君か、思ったより来るのが遅かったな。君の黒君は?」
「結界を解くのに時間がかかった……待ってください、黒君白君とは何のことです?」
「黒君がいないと困るの。おぬしは公平公正のようじゃから、取引が難しいの。」
「神格を損なうようなことはおやめください。」
「我は高天原とはとっくに縁を切った。神格を損なうこと?我は十分損なっておったぞ。我に関する噂くらい聞いたことがあろう。我はまともな神などではない。」
「耳で聞くことよりも目で確かめることです。私は噂など一切信じません。」
「なるほど。ぶん殴りや打ち壊しや略奪と言ったら大げさじゃが、もし、神を殺したのは本当じゃと言ったら?今は神の力が足りておらぬが、高天原から面倒な連中が挑んで来るなら、神の力を使い切ったとて戦ってみせる。普段ふらふらしている者が、真剣になると恐ろしい。これが世間に生き残る術じゃ。服の色が桃色であるほど、喧嘩がうまいと古くから云われておる。」
「(これは一体何の屁理屈なのでしょう……)」
「困らせるつもりはないのじゃ。足の長い女神が責任を追及するなら、我が押し通したと伝えればいい。この仇、我の名を記せと判官に伝えよう。」
「本当に噂通り、困った神ですね。」
「さっき、家の外で彼らの別れを聞いた時にもう、彼らを助けると決めたのだろう?それでも事務的な手続きを一応踏まねばなるまい。分かる分かる。」

「では、一緒に行きましょう。」
「心配ない。白君は優しいな。」
「うんうん!母に最後の一言を言わせてください。この前は、別れを告げる時間もなかった。お母さん、自分を大切にしてね。また、夢の中で会おう。」
「うん、お母さんは頑張って元気になる。我が子よ、さようなら。」
「行きましょう。」
「白君、君の黒君に我から挨拶をしておいてくれ。」
「どうしてまた白君黒君なんです?待ってください、誰の黒君って?」

陰陽師縁結試練風鈴親情永恒
先導者

あの神様、本当に忘れっぽいな。

縁結神
「ここは鬼域のどこじゃ?重苦しい陰気が…縁の匂いを嗅ぎつけてここまで来たのじゃが、まったく祈念する者の気配がしないではないか。」
悪鬼
「どこから来た人間の小娘だ?一人で修羅鬼道に入ってきてやがる。」
「お前は危険に晒されてるんだぞ。修羅鬼道に来たからには、生きて出られると思うなよ!一斉にかかれ!」
縁結神
「はぁ、危ないのはそっちじゃ。その言葉、そっくりそのまま返してやるわ。」
悪鬼
「ひいぃっ、申し訳ございませんでした、神様!どうか命だけは…!わあああああ!逃げろ!奴だ!奴が来た!」
縁結神
「おい、こら!嫌なら嫌と言え、何も逃げることは無かろう!せめて出口ぐらい教えんか!」
鬼童丸
「逃げて楽しい?背中を猟師に見せちゃダメじゃないか。君達は常識も知らないんだね。」
悪鬼
「許してください、お願いですから殺さないでください!女神様、どうかお助けを!」
縁結神
「あやつの首にかかっているのは…我の神社の赤い糸か?お主は一体何者じゃ?鬼のはずじゃが、なぜ人間の姿をしておるのだ。」
鬼童丸
「ちょっと静かにしてて。そう急かさなくても、こいつらを始末したら君の番だから。」
縁結神
「我の番じゃと?我を獲物にするなど、蛇が象を飲み込もうとしているようなものじゃ。甘く見られては困るのう。」
鬼童丸
「おっかないなぁ。」
縁結神
「何故じゃ?その手の呪術は陰陽師にしか使えないはずじゃろう?」
鬼童丸
「だから急かさないでってば。あまり神様に乱暴な事はしたくなかったんだけど、君が大人しくしてくれないからさ。」
縁結神
「うわああ!何をする気じゃ?我を食うのか?いや、その…我は肉も少ないし、美味しくないぞ…」
鬼童丸
君は僕にとって、どこにでもあるような腐った肉なんかじゃない。まあ、神様はとっくにお忘れになったんだろうけど。それもそうだよね。神は数え切れないほどの信者を持っているし、取るに足らない微々たる一人をわざわざ覚えたりはしないか。
縁結神
「腐った肉じゃないって…それはつまり食えるってことか?我は絶対に美味しくないぞ!周りにいるあやつらの方をお勧めするが…」
悪鬼
「うわあぁ、こんな神様見たことがないぞ!」
鬼童丸
「その包み、何が入ってるの?しょうもない物ばかりだね。君、くず拾いの神だったの?」
縁結神
「それは我が縁を結んだ後に神の力で作った記念品たちじゃ…壊れやすいから優しく扱ってくれ…」
 鬼童丸
「ん?」
縁結神
「いやいや、好きなだけ持っていけ、好きに使うといい!あっ、でもその猫だけは我に残しておいてくれるとありがたい…」
鬼童丸
「何しにここへ?」
縁結神
「縁を結ぶ旅をしておったのじゃが、歩いているうちに迷子になってしまって…だから地元の者として、道を案内してくれんかのう…」
鬼童丸
「君、自分でもその言葉を信じてないでしょ?」
縁結神
「いや、その…お主の首に巻かれた糸なんじゃが、どこから来たものか知りたくないか?ひょっとすると、お主の両親は私の縁の力で結ばれたのかもしれない。そう考えると、我はお主の恩人とも言えるじゃろ?だから…」
鬼童丸
「だから、そうやって僕の気を惹き続けているのも、背後から来てる奴らに気付かせないため?」
悪鬼
「修羅鬼に勘付かれたぞ、今だ!」
縁結神
「かかれ!お主たち、役目を分けて戦うのじゃ!一人が奴の手足を拘束し、残りは奴の頭を殴れ!フン、随分恨みを買っておるではないか。この数の悪鬼なら、さすがのお前も手に負え…って、あれ?あれほどいたのに、もう倒れとる…」
鬼童丸
「今なんて言ってたっけ?もう一回言ってよ。」
縁結神
「我はお主の恩人じゃから、今から我を連れ出してくれるって話じゃったな…」
鬼童丸
「かかれとか、殴れとか聞こえた気がするんだけど?」
縁結神
「それは聞き間違いじゃ!は、ははっ…我を殺さないでくれ!へ?」
鬼童丸
「たしか、君は法術に詳しかったよね。これが何なのか、分かる?」
縁結神
「これは…誰が何のためにこれほど凶悪な呪術をお主にかけたのだ?この術にかかった者は術を施された地点に近づくと、五臓六腑が引き裂かれたような痛みに苦しまれる。」
鬼童丸
「これを解く方法は?」
縁結神
「呪いを解ける者はまだ産まれてきていないじゃろうな。」
鬼童丸
「じゃあ君を生かしておく必要も無いみたいだね。」
縁結神
「いやいや、話を聞け!呪いを解ける子の親なら、もうお見合いを始めておる!我が二人を導けば、あと二年程で産まれてくるはずじゃ!落ち着いて、深呼吸じゃぞ……」
鬼童丸
「都は陰陽術師が集う場所だから、僕はそこに近づけない。殺されたくなかったら、僕の代わりに行ってきてよ。呪いを解く方法を探しに。」
縁結神
「都は近頃戦乱を終えたばかりで、縁結びを求める者も増えておるから、もともと行く予定だったのじゃ。約束しよう。」
鬼童丸
「物分かりがいいんだね。でもその前に、これをやっておかないと。」

陰陽師縁結試練鬼道修羅
修羅骸鎖

この鎖は、いま、君の血を求めてる。


縁結神

「え?!鎖に我の名が…お主には教えていないはずじゃぞ!どういうつもりじゃ?」
鬼童丸
「どういうつもりって、そりゃあ君が僕の獲物になったってことだよ。たとえこの世の果てまで逃げても、僕からは逃れられないから。」
縁結神
「…我がお主の代わりに苦労してやることになったんじゃし、我をここから連れ出してくれんかのう…」
鬼童丸
「神様のくせに、方位判断の術ができないの?」
縁結神
「昔、あのデカ氷から真面目に教わってなくての…勉強は辛いのじゃ!」
鬼童丸
「勉強か。僕にとっては遥か遠い言葉になってしまったよ。学堂にいた頃は、なんて簡単で楽しくない任務なんだろうと思ってた。勉強なんかより、殺戮の方がよっぽど頭を使う。特に自分より強い獲物を狩る時はね。罠や脅迫、そして毒殺…僕は狩猟が成功した瞬間の痛快さを毎回楽しんでいるんだ。」
縁結神
「罠…脅迫…毒殺……」
鬼童丸
「怖くなった?」
縁結神
「自分がそうやって殺される場面を…想像していただけじゃ……」
鬼童丸
「そんな手段で君を殺さないよ。」
縁結神
「え?」
鬼童丸
「君相手ならそこまで手間はかからないから。」
縁結神
「我もそう思うぞ!我を殺してもまったく達成感が無い!我に道案内をしてくれる方がよっぽど達成感があるじゃろう!」
鬼童丸
「僕たちの約束、忘れないでね。」
縁結神
「分かっておる!そういえば…別に名乗ってくれなくてもいいのじゃが、術を解いた後、何をするつもりなのじゃ?それくらいは教えてくれてもいいじゃろう。」
鬼童丸
「人間に害を及ぼさないか心配してるの?安心して。都のような面倒な場所に興味はないから。ただ、僕を興奮させる獲物はある。」
縁結神
「ならば良いんじゃが…都はもうこれ以上戦乱に耐えられぬ。何度も破壊されておるからのう。それで、お主が狩りたい妖怪とは誰のことなんじゃ?」
鬼童丸
「君に手を出さなかったからといって、自分の立場も忘れたの?」
縁結神
「まあよい…もう聞かぬ。どうせ我もまともな神じゃない。お主が悪を働こうとて、我にそれを止める力はない。
じゃが、お主が我の神社の赤い糸を着けておる限り、我はお主の心の中にある全ての感情が断ち切られることを望まぬ。
鬼童丸
「余計なお世話だよ。この道をまっすぐ行けば、修羅鬼道から抜けられる。君の方向感覚は記憶力と同じくらい劣っているようだね。人間の礼儀なら、ここではまた会おうとでも言うべきなのかな。」
縁結神
「まさか、まだ人間の習慣を残していたとは…(やっぱり二度と会わない方がいい…)じゃあまたな、修羅鬼。」
鬼童丸
「またね、くず拾いの神さん。絶対、また会えるから。」

陰陽師縁結試練鬼道修羅
木偶商人

恋物語ならいくらでも語ってやるぞ。

人形商人
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、都一の人形劇が始まるよ!」
「この劇は『鬼童丸の乱』。民の為に害を払う神明が修羅鬼道へ赴き、様々な困難を乗り越え、体中に傷を負ってでも、最終的に強大な悪鬼狩りの鬼童丸を倒したという壮大な物語なんだよ。」

陰陽師百鬼夜行図鬼道丸の乱

人形商人
「ふぅ…ふぅ…ようやく都から抜け出せた。我の物語を気に入ってくれた人がこんなにもいたなんて。でも実際、我の神力で作った報酬にしか興味がなかったような…。
まぁいっか、どうせ我は楽しんだことだし!仇は討たせてもらったぞ。
わっはっはっは!おのれ鬼童丸、よくも我を虐めたな!二十年間彼女ができないように呪ってやる!
あれ?目の前のゆっくり歩いてくる面影に見覚えがあるような…?うあああ!!!(しまった!逃げられない…鎖に捕まった…)」
鬼童丸
「お久しぶり、「神明様」。どうして逃げるのかな?この前は生きるために、僕の一番の味方だって言ってくれたのに。すぐに逃げようとするなんて、それが一番の味方の取るべき態度なの?」
人形商人
「(もうおしまいだ…確かに都の地界には入れないと言っていたけれど、離れた途端にばったり会うなんて運のなさにも程がある!)へへ…奇遇だな…面々、長々、尖々、方々、お前たちもお変わりないようで…おい、この小鬼らは何故我を噛むのだ…?」
鬼童丸
「君がつけた名前が気に食わなかったんじゃない。その恰好はなに?」
人形商人
「そ、そうだな…まさかこれでも我が分かるとは…民に親しみやすい様に変装すれば、金儲けできるんじゃないかと思ってな。我は金を溜めて豪華な神社を建てたいのじゃ。」
鬼童丸
「鎖に君の名前があるからね。どこに行ったって逃げられないよ。」
人形商人
「(はぁ、もう死のう……)そうだ、頼まれていた呪いを解く術の件だが、まだ見つけていなくてな…」
鬼童丸
「そもそも期待してなかったよ。」
人形商人
「そ、そうか。友情もしこれ長久ならん時、あに朝朝暮暮たるに在らんやっていうじゃろう?まだ用事があるからな、また会おう!(あれ?詩の使い方間違えたか?…)」
鬼童丸
「落とし物。」
人形商人
「なにを……?!!!!!!!!!!」
鬼童丸
「この人形、僕に似てるね。体にたくさん縫い目があるけど、虐待でもしてるのかな。教えてよ。今やってたのはなんてお芝居なの?」
人形商人
「そ、それはもちろん…お前が修羅鬼道で迷子になったバカな神をしばいて、神たるものの振る舞いを教えていた芝居に決まっとるじゃろう……」
鬼童丸
「僕が信じると思う?」
人形商人
「ごめんなさい!ごめんなさい!そんなに怒らないでくれ!」
鬼童丸
「何を怯えてるの。殺したりはしないよ。」
人形商人
「え?」
鬼童丸
「君が死んだら、僕は「一番の味方」を失ってしまうじゃないか?」
人形商人
「(な、なんか言い方がゾッとする……)」
鬼童丸
「僕は今から鬼疆に行く。あそこに面白い獲物がいるらしいから。戻ってきたら、鬼王の頭を友情の証として贈ってあげようか?貧しそうだから、多少は金になるかもしれないよ。」
人形商人
「必要ない!どうしてそんな危険で残虐なことをするのだ…平和に生きていくことのどこが気に食わないのだ?…」
鬼童丸
「心にもない事を。僕が死ねば、鎖に名がある妖鬼人神も共に葬られる。寂しくはないさ。」
人形商人
「(うぅ、まだたったの数百年しか生きていないのに、なんて残酷な)」
鬼童丸
「嘘だよ。でも神明の祝福は受け取っておくよ。鬼疆の空が変わる。ここ最近は動き回らないでよ。じゃなきゃ次会う時は、地面に転がる屍になっているだろうからね。」
人形商人
「安心するが良い。我は喧嘩に弱いが逃げ足は速いのじゃ。自分を守る力くらいある。(お前にはまだ見せていないがな…)なら我は…先に行くぞ…」
鬼童丸
「また会おうね、くず拾いの神様。」
人形商人
「違う!バカなこと言うな!(ふぅ…今回も無事に生き残れた。)」

陰陽師百鬼夜行図鬼童丸の乱

少年は愛も憎しみも知らず、一生に一度だけ胸を高鳴らす。 
ー 縁結神 ー

参考

こうめいさんから詳しい資料いただきました☆ご支援ありがとです♪🍀

縁結神

鬼童丸

~ここからが本番~(童縁)

おしまい

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