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謎の紳士と一握の砂

2回目の浸水がやってきた。
プールデッキ完成の翌々日に。

去年に比べて雨が少ない。
川の水位もそれほど高いわけではない。
今年は溢れない、そういう見通しだった。

いくつかの要因を経て、結果として2度目の浸水。でも、ラッキーなことに去年と違ってまだ対処できる。土嚢(砂袋)を使って水を止めて敷地の大半を活かすことを決めた。

相変わらずうちのチームはタフで、危機に強い。荷物の移動をし、ポンプをスタッフの親族から借り、トラック1台分の砂を500個の砂袋に詰めて、壁をつくる。

それを、歌と冗談と笑いと、ときどき魚獲りと一緒にやる。悲壮な顔はしないのがSambor Village流でもあり、カンボジアの土地が持つタフさの秘密でもある。
(*近くで見ていた日本人学生が、みんなの表情がコロコロ変わってすごいんです。難しい顔をしていると思ったらもう笑って、悲しい表情の後に踊っている。と語っていた。この切り返しが、“ともに働くチームの関係性“によってもたらされることを今日、彼女は学んだらしい。1人だとむずいよね!)

砂詰め祭りの一角で「笑ってないと疲れちゃうでしょー!」という名言登場。
やっぱりこの地の人たちは、生きることの仕立てがうまいなあ。

突然の新人研修(未就労年齢)
積んでいく。初日の様子。
2日目。土嚢の向こうとこちらで違う世界
池の水を抜く合間に魚を探す。金魚掬いの原型
カエル鷲掴み。若手は尻込み。世代間ギャップ。

謎の紳士登場

そんな砂袋に砂を詰めまくり、1日中ポンプで水を出しまくった日の夜。ふらりとカンボジア人のお客様が1人で現れた。
浸水しているんです、とチームが説明するも、
「寝るところがあればいいよ」とのこと。

子どもを迎えにいくスタッフから、ちょっと手伝って!とヘルプがきて、夕食のサーブを私が担当しようとしたとき「もう食事しました?」と声をかけていただいて、夕飯をご一緒することに。

なぜこのホテルを?など、月並みな少しの会話だけで、この人が、自分で事業をやってきたのがわかる。知的な押し出し?軽やかさと重さのバランスが絶妙。

現在の状況、ホテル産業のこと、ホスピタリティの本質、仕事を通じた学び、コロナの3年での学び、これからの可能性、などの話題に続いて、リーダーとしての在り方の話に。

「砂って、あるでしょう?」
「ええ、なんなら今日400袋分くらい詰めたので、特に今日はよく知ってます」
「ああ、そうだったよね笑 砂を掴むときに、力を入れてグッと握ると手のひらには少ししか残らない。でも、手の力を抜いて掬うとたくさん乗るんだよね。人生も同じだと思う。

今日も今日とて。
絶妙な例えであるし、絶妙なタイミングでもある。なぜなら、こういう非常時で不安定な時ほど、強く手を握りたくなっちゃうから。

できるだけ失いたくない、確かなことを見つけたいと知らずに力が入って、無意識に手を握り込む。結果大切なものが指の間から落ちていくことも。

そういうときこそ、ふわっと。

絶妙なタイミングで仏伝のブッダさまのごとく唐突に舞い降り、爽やかに去って行った紳士。

大事な学びを、ありがとうございます。
*この紳士の登場が、このあとさらなる物語につながっていくことをこの日の夜はまだ知らなかった。


2023.9.26

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