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お母さんのにおい、とは

母の日の頃、三男が幼稚園からの帰り道にこう言った。

「いっくんのお母さんは、クッキーのにおいなんだって。」

なんと!
なんと素敵なフレーズ!

「お母さんは、クッキーのにおい」

いつもやさしく微笑むいっくんのお母さんが、美味しそうなクッキーを焼く姿がすぐに想像できた。

幼稚園で「♪おかあさん なあに」で始まる母の日ソングを練習していたようで、そのときにいっくんが教えてくれた、ということだった。

ママは何のにおいって思う?と三男に期待を込めながら聞くと、困ったようにくねくねするだけで教えてくれなかった。

しつこいわたしは、次男が帰ってくるなりコトの経緯を話し、わたしは何のにおいかたずねた。
次男はちょっと鼻をくんくんとさせてから
「からあげ、かな。とりのからあげ」と言った。

え!!
からあげ??

今日はもちろん昨日も “からあげ” は作っていないし、食べてもいない。
油?脂?アブラギッテル??

思わず自分のにおい確認をしてしまった。

しつこいわたしは、長男が帰ってくるなりまたコトの経緯を話し、わたしは何のにおいかたずねた。
長男はにおい確認もせずに
「からあげっていうのは分かる気がする」と言った。

なんでっっ!!

わたしもクッキーのにおいがいい!!

からあげよりもクッキーのにおいがしたい!!

なんとか近日中に家でクッキーを焼いて、におい記憶のすり替えをおこなわなくては。

その作戦は一ヵ月後ようやく決行された。
天気が悪く予定がぽっかり空いたとある土曜日、三男が一緒に作ってみたいと言っていたクッキーを作ることにした。

家にある材料だけでできるものをつくることになったので、小麦粉ときび糖とオリーブオイルと塩、そして三男の好物である “きなこ” も使用することにした。
一緒に材料を混ぜ、一緒に型抜きをし、かわいいクッキングシートを敷いた天板に並べオーブンで焼いた。

程なくしていいにおいがしてきた。
これこれ!これだ!クッキーのにおい!!
必要以上に、いいにおいがしてきたね、と同意を求めながらクッキーの焼き上がりを待った。

焼き上がりの音が鳴って、オーブンを開けると、待ってましたの甘い香りが漂った。
サクサクバージョンでつくったので、ほろりとくずれないようしっかり冷めるまで待っていると、三男が踏み台を持ってきて覗き込んで言った。

「わぁ、めっちゃ “きなこ” のにおいするー!おいしそう!」

ちょいちょいちょい!
まてまてまて!
“きなこ” のにおいもするけど、クッキーのにおいしてるよね!
きび糖ときなこのおかげか、クッキーは素朴でどこか懐かしいような色に焼きあがっている。
クッキーというより “きなこ菓子” のニュアンスが強めだ。

しまった、、、これはイメージと違う。
なぜわたしはもっとオシャレなクッキーを焼かなかったんだろう。

うちのお母さん “きなこ” のにおいするんだよー。
、、、だったら、だったら “からあげ” でいい。

におい記憶のすり替えに失敗した。

それでも “きなこ菓子” は上出来でとてもおいしかった。

お母さんのにおいとは、、、

お母さんのにおいを “クッキーのにおい” にしたかったのに “きなこ菓子” を焼いてしまったわたしのことを息子たちの誰かひとりでも覚えていてくれたら嬉しい。

お母さんのにおいは、クッキーのにおい(きなこ味)でもいい。
覚えていてほしい。

どうやらこうやら、わたしは、クッキーのにおいのお母さんに憧れている。

いや、まだ時間はある。やればできる。

わたしは、クッキーのにおいのお母さんに憧れすぎている。

「お母さんのにおいは、クッキーのにおい」
このフレーズが好きすぎる。
このフレーズが、好きすぎたんだ。

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