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少年とおもちゃの武器とわたし

雨の中傘をさして歩いていると、前方からなんだかどこかで聞き覚えのある電子音がする。

なんだっけと思いながら、自分の長靴のつま先あたりにあった目線を上げ、前方を確認すると、20m程行ったところに小学1年生くらいの男の子が傘を持ってひとりで立っている。
マンションの前の歩道で、左手に傘を持って、右手には戦隊ヒーローの銃のような武器を持っており、その銃口を地面に向けた状態でリズミカルとはいえないリズムで撃ちまくっている。
目線は銃の先ではなく、右をみたり左を見たり、その場でくるっとまわったりしているので、暇を持て余しながらおもちゃを鳴らして誰かを待っているようだ。

待ってるのは、お母さんか、友達か、、、と想像しかけた彼まで5m程のところで、一瞬彼と目が会った。
遊び道具として持っているのか、ひとりで待つときのお守りとして持っているのか定かではないが、その一瞬、誇らしさと恥ずかしさの両方を隠すように彼は、くるっとまわりながら銃を撃つのを止めた。

電子音が消え、静かになったその歩道で、わたしは何食わぬ顔で彼の前を通り過ぎた。

えらいな。一応、気を遣ってくれたんだろう。
お家の人に「外に持っていてもいいけど人に向けたらいかんよ。」とか言われてるんだろうか。

そんなことを思いながら、3m程進んだだろうか、またあの電子音が聞こえ始めた。

ぬ! まさか!!

わたしは自分が背後から撃たれているように感じた。
油断ならぬヤツめ!
と、振り向こうかと思ったが今振り向いて本当に銃口がわたしに向いていたら、どうリアクションを取ればよいだろうか。
撃たれたー!のバリエーションはある程度持ち合わせているが、初対面の彼にそれを披露するのも考え物だ。
ここは 「撃ったな。」 と静かな目線だけで撃ち返す、という大人の技が有効的かもしれない。

考えているうちに、結構な数を撃ってきている。
ものすごい強い敵として設定されているなら、ま、それはそれで悪い気はしない。
それにしても、撃ちすぎだ。それからその独特のリズミカルでないリズムは、ある意味ダメージが大きい。

自分が撃たれているのか気になって、道の反対側へ渡りながら確認することにした。その時点でもう15mほど離れている。
鳴り止まない電子音。
あくまでさりげなく後方確認するように、さっと彼に目線を向けた。

あぁ、、、。

それはわたしの予想と違っていた。

彼は銃口を彼自身に向けて音を鳴らしていた。
電気で光る銃口の光り方を観察するように、いろんなリズムで鳴らしている。

そ、それは、、、目が心配だ。
それを観察して何になる。だめだぞだめだぞ。目に悪いぞ。
同じくらいの子を持つ親として、そこは心配が止まらない。

うかつにも立ち止まって眺めてしまった。
電子音が止まった。
なんとなくこっちを見ているように見える。
、、、気づかれたか。
いや、今の彼の目で、わたしがどこを見ているかなどわかるまい。
見ていないことにして、背を向け歩いた。

電子音が鳴らない。
目のダメージが大きかったのか。
もう今振り向いても大丈夫だろうという距離で振り向いてみた。

友達らしき子と傘をさして、わたしと反対方向へ歩き出している彼の後姿が見えた。

よかった。

よくわからないが、よかった。と思った。

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