ウォーゲーム「東大紛争」から見た、あの日の景色

ジブセイルゲームスさんと言う、いわゆる同人でアナログゲーム(非電源系ゲーム、ボードゲームとも言う)を制作されているサークルさんから、5月6日のゲームマーケット2018春にてリリースされた戦略級ウォーゲーム「東大紛争」が、思いの外奮っていた。

私自身はTRCで文学フリマ東京が有るため、購入は知人代行と言う形でお願いをして入手することができたので、先日の日曜に4人集めていただき(何から何までお世話になりっぱなしで、本当に申し訳ない)早速プレイしましょうと言うことに相成ったのである。

細かいゲーム内容については省略させていただこう。なぜならこのノートはゲームレビューではないからだ。簡単に言えば、全共闘・民青・大学当局・公安警察の4勢力による陣取りゲームである。と、言っても現代のヤングたちには「全共闘」などと言ってもポカンとされてしまうだろうし、そもそも「東大紛争って何よ?」と言う向きも有ろう。私自身も、学園紛争華やかなりし頃の時代にはまだ生を享けていないどころか、両親もまだ交際中の関係であった。つまり、リアルに「東大紛争」を体験した世代ではないのだが、それでも私たちが学生の頃には、まだかの「安田講堂事件」の記憶は生々しく、そして禍々しい闘争の記録として遺されていたのである。

もちろんジブセイルゲームスさんの「東大紛争」を購入すれば、ちゃんとした重厚なヒストリカルノートとデザイナーズノートが付いてくるので、あくまでこの文章は「東大紛争とはなんぞや?」と言う部分のサワリだと思っていただければと思う。

さて、このゲームでは「民青・あの政党」と表記されている「あの政党」(学生組織名出したら伏せる意味ないじゃん、と言うのはともかく)と「全共闘」と言うのは、同じ様に反体制派組織として登場するのだが、全共闘は「あの政党」と違い、政治的なセクトではなかった。誤解される向きも多かろうと思うが、別に「全共闘」は左翼的革命的な勝利を目指していたわけではなく、特に東大全共闘において純粋に彼らは現代の大学のあり方を模索し、その結果として現状における大学組織の解体、言うなれば「脱構築」を目指していたのである。学生風情が偉そうにと思うだろうが、何せ相手は東大生だ。そのくらいイッちゃってるのが出てきても何ら不思議ではない。また、それが証拠に東大全共闘議長であった山本義隆氏はノンセクトであって、いかなる党派性も有してはいなかったのである。

そもそも「学生運動」の篝火を最初に高く掲げたのは、日本大学である。日大当局は東京国税局にガサ入れを食らい、その結果22億円の使途不明金が発覚と言う不祥事が発覚したことに端を発し、それまで自治会組織を持つことができなかった日大に、日大全共闘(議長・秋田明大氏)が組織されたのが学生運動、延いては峻烈を極めた「日大紛争」へと発展して行く。興味があるならWikipediaでも十分な情報量だが、関連書籍を当たっていただきたいと思う。まぁ、何にせよ彼ら学生は自分たちこそが学園であり、学園の高度な自治は学生によって維持されるべきだと言う確固たる主張が存在したのである。

東大もまた、そんな組織に於ける不当な扱いに端を発する。いわゆる医学部インターン問題である。これも詳しい話は関連文献を当たっていただければと思うが、東大紛争のスタート地点は医学部だった。日本でも頂点に君臨するレベルの入試難易度を誇る理科三類からのみ(実際には「ほぼ理三のみ」だが)進学できる医学部で、如何にも生臭い闘争が学生と大学当局間に発生したのである。このローカルな紛争は、いったん平行線を辿ることとなるが、収束はしなかったのだ。やがて「ノンセクト・ラジカル」と呼ばれた急進派学生は、東大のシンボルである安田講堂を占拠、これに対し大学当局のトップである大河内一男氏は、大学構内に機動隊を引き込んで解除させたことで、戦局は一気に泥沼化したのである。日大紛争は機動隊を導入したことや体育会系学生がポン刀(!)を持ち出したとか、まぁ腕っ節だけで紛争を収束させたのだが、東大は却って学生の怒りを煽る形にしかならなかったと言うわけだ。

こうした流れを、ゲーム「東大紛争」はうまくテイストに取り入れている。民青と全共闘は互いを殴り合うことも出来るし、むしろ勝利条件を満たすためなら率先して自己否定の拳を相手にぶち込む必要だって出て来るのだが、これは新左翼系セクトにあった「内ゲバ」とは本質的に違うもので、言うなれば「全共闘」運動そのものは多分に、反体制派と言う文脈においてのみ左翼的だが、彼らは別にコミュニストでもマルキストでも、ましてやスターリニストやトロツキストでもないのである。無論、こうした背景事情が、彼らをより過激な闘争へと駆り立てたことにより、理論武装としてのコミュニスト化していったケースもあるし、そうした流れは学生運動の潮流が70年安保に合流して行った一つの潮目なのだ。ここらへんの話を「ちゃんとする」となると、60年安保は疎か終戦直後くらいまで遡及する必要があるので、ここでは略す。

まぁ、「あの政党」は学生組織どころか産別運動まで投入してドミナンス争いを警察と繰り広げ、一方警察は数の暴力で反体制派学生を検挙しまくり、その陰で東大構内では全共闘学生が当局職員を追い払いながらバリ封鎖を掛け、教授会に圧力を与えて大衆団交を迫る、と言うフレーバーをミニマルなゲームシステムに落とし込んでいるし、バランスも大変ヒストリカルだ。普通にやればたぶん一番勝ち易いのは警察だと思うし、少なくとも全共闘の勝利はかなり厳しいだろう。そんな部分まで、しっかりと「東大紛争」、より正確には日大紛争や神田カルチェ・ラタン闘争くらいから、安田落城・東大入試中止までを描いた、少しセンチメンタルで多分にアイロニーなデザインとして作られている。戦術級として描かれる安田講堂戦は果たしてどのように作られてくるのか、いまから楽しみである。

ヒストリカルなテーマやシアターを持つ宿命にありがちなウォーゲームについては、もうちょっといろいろ語りたいところではあるが、まぁこのくらいにしておこう。今日はインターナショナルでも聴いて眠ろうか。


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