ウォーゲーム「太平洋の土下座」のカリカチュア

え、2日続けてウォーゲームの話するんですか紗水さん、って?

3日続けて世間に怒ってたんだから趣味の話させろ。

と言うわけで、2つ購入したもう一つのゲーム、「東大紛争」でも取り上げたジブセイルゲームスさんの「太平洋の土下座」である。

マップは昨日取り上げた「PACIFIC GO」とも似ている。そう、お互い実は、アバロンヒルのパシフィックシアター物としては屈指の出来と誉れ高い名作「Victory in the Pacific」をコンパクトに扱うことで太平洋戦争を扱っていることに起因する。そんなVitPを底本にして、ユニットの数を減らしながらもゲーム性を保証する仕組みが、今回の「太平洋の土下座」には存在する。

(5/22 15:06追記)——と、勝手に思い込んでいたのだが、ジブゲイルゲームスさんから至急電(TwitterのDM)をいただいたところ、「PACIFIC GO」は別にVitPを底本としていなかったのである。ががーん。堀場さん、失礼致しました。そして教えてくださった長浜さん、ありがとうございました。みんなも迂闊に思い込みで書くとこういうことが起こるから、気をつけましょうね!(土下座)いやぁ、久し振りにかなりの冷や汗ミスであります。

このゲームの通常ルールにおけるプレイヤーは2人で、日米それぞれの陣営を持って戦う点は「PACIFIC GO」と同様だ。このゲームでも、日本軍陣営のみ移動可能なユニット数を、占領ポイントから導き出された数で制約を受ける点は日本軍側の物資不足を反映するフィーチャーだ。また、戦闘フェイズは航空戦→水上戦→陸戦と言うセグメントの順番に分かれていて、制空権→制海権→拠点制圧と言う順で動く点もリアリティが高い。

が。このゲームは、それだけで終わるものではない。実はこの「太平洋の土下座」、追加ルールとして4人プレイが可能になっており、日米陸海軍4陣営がそれぞれに1プレイヤーを宛てがって、互いのメンツの保ち合いをするゲームへと変貌する。どういうことかと言うとコマが足りないときに、

「陸軍はん陸軍はん、アンタんとこの二飛師貸してくれまへんか?」

「そない言われてもなぁ……ワシらかてインドシナに展開せなあきまへんのやで。FS作戦かなんか知りまへんけどな……」

「頼むわ! この通り!(土下座)この通りや!(額を擦り付ける)

「……まぁ、しゃあないなぁ。その代わり防衛戦はシンガポールから引き抜きまっせ?」

……とまぁ、こんな具合で「ユニットの貸し借り」を交渉することが出来るのである。もちろん別に、こんなベッタベタの会話である必要はない。で、当然のことながら、ナンボ土下座をしたところで面目(米軍はPride)ポイントは借りたユニットと同じだけ減点、戦闘で失おうものなら更に減点と、ズルズル持ち点を減らして行くハメになる。こうして互いにメンツを得たり削られたりしながら、最終的にもっともメンツの高い陣営の勝利となる。

史実に於いてもこのくらい陸海軍間の融通が利けばなぁ。

そう思わずにはいられない独自のフィーチャーであるが、これは有る一つのエピソードが存在したことで生まれたデザインの妙なのである。

実は「このシミュゲがすごい! 2018年版」誌上において、「PACIFIC GO」のデザイナーである堀場亙さんは、デザイナーズノートとして以下のような記述をされている。以下、必要部分のみ引用、カッコは筆者注、▽は原文においては改段の筆者注。

——ところがマッカーサーは(ニューギニア島の)北岸沿いに進攻し、それ故ビスマルク海の制海権確保が重要になったのはご存じの通りです。ゲームでもこれは再現したい。▽しかし困ったことに、効率を考えるだけなら南回りでジャワ海を目指したほうがよほど良い。少なくともゲームのシステム的には、中盤以降、補給ポイントが潤沢になった連合軍をその手前で押しとどめるのは難しく、結果、日本軍は早期に南方資源地帯を失ってどうにもならなくなってしまいました。

実際にリリースされた「PACIFIC GO」については、この点を克服されているのだが、堀場さんがどう解決したのかについては実際のゲームに触れていただきたいので、ここで語るべきではないだろう。いずれにせよ、パシフィックシアターでグランドキャンペーンを張る以上は、いかにもゲーム的な進攻ルートよりも、フィリピンに行って欲しい。それがいかに無駄で非効率的であっても、ダグラス・マッカーサー的にはアーネスト・キングとチェスター・ニミッツにデカいツラをさせるわけにはいかんのだ。

この問題をゲームシステムとして解決させたのが「太平洋の土下座」なのであり、よって実はこのゲームはマルチプレイヤーゲームでもあり、一種のロールプレイングゲームでもある。実際のところ、ヒストリカルウォーゲームは固有のキャラクターとしてのロールではないにせよ、プレイヤーは個々人が担当する勢力の総体をロールとして担っており、パシフィックシアターに於ける米軍の侵攻ルートしかり、日本軍しかりが、それぞれに役割的裏付けを担った形でプレイすることで、よりゲームそのものを楽しむことが出来る。もちろんそれを選ばない自由も存在するし、そもそもニミッツがマッカーサーに7Fを貸さなければ、比島沖海戦だってどうなっていたかわかりゃしない。そもそも海軍的には「やっぱやーめた。横須賀行こうぜ!」とばかりにフィリピンそっちのけになってくれたりすれば、実のところ日本の戦争寿命はもう少し延びた可能性も……ないか。どの道、ルーズベルトのあとを継いだトルーマンは原爆投下の命令を下すのだろうし。

まぁ、それはともかくとして、そう言った軍事的行動とその決定者の間に於ける名誉問題と言う形でカリカチュアライズし、連合軍の侵攻ルートにおけるアンヒストリカル問題を解決せしめた傑作なのである。いや、この言辞は多分に私の思い入れが盛られているのだが、出来ることなら「俺はマッカーサー! あいしゃるりたーん!!」くらいの盛り上がりが米陸軍プレイヤーに有ると良い。恥ずかしい? 私は「東大紛争」を全共闘や民青でプレイしたときアジ演説しまくったぞ?(お前だけだ)

ところで、マッカーサーがフィリピン奪還に拘った理由は諸説ある。一つは、我先にと脱出しておきながらいけしゃあしゃあと " I shall return. " と言ったことが地味に反感を買っていて、彼の軍歴の傷になったことを回復するために、フィリピン国民への約束を守ったと言うイメージを付けさせるとするもの。一つはフィリピン軍の軍事顧問という職に就いていたため、関係各方面に様々な利得権益を抱えていたためと言うものだ。

どっちにしてもてめぇの利益じゃねぇか!

と言うのはまったくもって否定できない。彼は自分のメンツと言うよりは、ほぼ私利私欲のためにフィリピン奪還に拘泥したのである。そもそも米陸軍参謀本部でさえ「戦略上必要なし」ときっぱり切って捨てていたし、米海軍は当然その論調に同意していた。しかしながら、結局フィリピン反攻に舵を切ることになったのは、時の米大統領フランクリン・ルーズベルトが大統領選挙を控えており、国民に人気の有るマッカーサーの私利私欲によるメンツから起きた要求を受け容れざるを得なかったのだ。お前もお前で結局自分の利益のためなんかい! なんかやんなっちゃうなぁ、余裕有り過ぎて。とはいえこの後、ルーズベルトは大統領選に勝利したものの、翌年4月に脳卒中で任期半ばで死去するのであるが。

もっともフィリピンを奪還してからは、硫黄島、沖縄と日本軍の必死の抵抗に遭い、主に連合国軍に対するダウンフォール作戦への抵抗感を演出して見せたが、すでに日本にまともな継戦能力はなく、各都市への空襲や二度の原爆投下と言った無辜の市民への多大なる犠牲を払って、運命の8月15日へと至るのである。ダウンフォール作戦は結局遂行こそされなかったが、本土侵攻こそが最終局面であるとマッカーサーもニミッツもマーシャルもこの点では同意していたし、米軍は独自の推定に基づいて戦死傷徽章である「パープルハート章」を合計で50万個実際に製造した。もちろんダウンフォール作戦は実行されなかったので、このときの在庫が尽きたのは、戦後65年を経過した2010年のことであったと言う。つまりそのくらいの規模の被害が自軍に発生するだろうと見ていたと言うことだ。

そんなわけで、本作もまたちょっとした視点の違いから表現された太平洋戦争物である。コンセプトワークとセンスの共存の中に、しっかりした骨太のウォーゲーム性と腹黒いマルチプレイゲーム性が握手した奇跡のゲーム、皆さんにもぜひ一度、ご堪能いただきたい。ゴツくて難しくて取っつきづらい、そんなイメージの付き纏うウォーゲームだが、こうした「一見カジュアルだけど、実にヒストリカル」なゲームから入ってみると、ウォーゲームの見方や触れ方の知見も増すだろうと思う。歴史に詳しいお友達が居ればなお楽しいこと請け合いだ。ま、たまに歴史に詳しい人は歴史警察と化すこともあるけどね。


この感想文を、ジブセイルゲームス・長浜和也さんに捧げます。それと引き合いに出しておきながら勘違いをしでかしてしまい、堀場工房・堀場亙さんにご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。



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紗水あうら

こらむ紗水式――細かいことはどうでもええんじゃ――

自称アマチュア物書き兼ピコ手文芸サークル「頌櫻堂書房」主筆・紗水あうらによる、ノンジャンル・ノンタブー・ノンフィクションのコラムデスマッチマガジン「こらむ紗水式」、note上に創刊。無名の一般人だからこそぶちまけられる思いを胸に、いざ飛び立たん中年男子たちよ! 取り上げてほ...