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Alinea Ep.Ⅲ

高みを目指して...


気付けば日付が変わる頃には仕事が終わるようになっていた。
要領を掴み、慣れてきた

シェフから次々と新しい仕事を貰いに行き、覚えていく事が何よりも楽しかった
たとえ、新しい仕事を覚えるまで20時間まで短縮出来るようになった1日が、再び23時間の生活に戻っても楽しくて仕方がなかった。

でも、仕事をもらいにいってばかりでは上に行く事はできないんじゃないかと...

自分から仕事を奪いにいってやろう

「One team, One dream」で世界1を目指すという気持ちの下ではあったが、ここはチームワークとはちょっと違い、各々が高いモチベーションとスタンダードを意識し、個々1人1人が最高のパフォーマンスをし、結果を出すチームだった。
キッチンでは互いが互いを蹴落とし、這い上がる戦場
シェフを除き、料理人全員かなり荒んでいた。
この時の僕の性格の悪さと荒さは今以上だった(笑)

ただ、仕事を奪いにいくといっても泥棒のように横取りをする訳じゃない。
どんな仕事でも出来るように、自分に力を付けなければいけない
まず、1つ1つを細かいところまで理解する事に努めた。
幸い、全ての持ち場の仕込みを1人でやっているお陰で、全ての料理のパーツを理解でき、なんなら盛り付け以外は全部1人でやっているようなもんだ。

休みの日に店へ行き(鍵を持っててよかった)、調味料、凝固剤類など全てをメモし、調べる。
納品書から食材の名前も全部把握する事から始めた。
早朝、更に早く店へ行き、各部門シェフたちの冷蔵庫のソースなどの完成形を全部味見してまわったりしまくった。

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理解する事で、シェフが次何が欲しいか、何をして欲しいかを言われる前にするという「基本」の仕事を徹底的に追求した

休日に店へ出向き、実験を繰り返し繰り返し、どの状況、状態で凝固したり、しなかったり。
食材の変化、液体窒素の可能性なんかもひたすら試していった。

誰もやりたがらない仕込みが1つあった。
それはアボカドスノーの仕込み。
アセゾネ(味付け)をしたアボカドをバイタミックス(ミキサー)を使い、液体窒素でパウダーにするのだけれども、ミキサーが...まぁ壊れる。
「次壊した奴は自腹で弁償!」
とシェフが言ったせいで(メニュー変えるべきだろう(笑))、僕もこれだけは避けなければと、研修生にやらせていたりと避けていた(今思ってもせこい!)(笑)

ある時、ヴィアンド(肉)の部門シェフがメインのソースをしくじり、営業中足りなくなってしまった。
そんなのもちろん作るしかない。
だがしかし!
仕込みを全部、僕にやらせていたせいかソースを作れないと。。。作り方を知らないと。。。
シェフは呆れてしまっている...

たまたま、アイスクリームをパコジェット(超高性能なアイスクリームやムースなどなど色々作れる機械)で回し終え、キッチンに来た僕は、別に悪気なんてない、必要なのだから。
「Let me do that, chef!(僕にやらせてみろ!)」
残りのソースでどのくらい持つか、他に足りないものはないか確かめ。
隣のラボへ走り、ソースを仕上げた。

僕自身も数々の失敗もしたし、恥ずかしい思いもたくさんしてきた。
同じミスを2度は起こさなかったが。
ある日、付け合わせの野菜のポーションが間に合わず、シェフ アケッツが手伝ってくれた。
その後、キッチンの真ん中でサイモンに
「オーナーシェフに自分の仕込みを手伝ってもらっているんだぞ」と、全員の前で怒られ、屈辱を味わったこともある。
失敗をして怒られた事よりも、「何故こんな事もできないのか...」
自分自身への憤りがたまらなかった。
ゴミ箱や自販機を蹴飛ばし、何度部屋のトイレで泣いただろう...

友達も知人も誰もいない
独りである事で強くなれた。

日本人同士のコミュニティや料理人同士で助け合える優しく素晴らしい環境ではなかったけれど、海外で修行するというのは料理の技術だけでなく、どんな状況下でも独りで生き抜くという強さを手にする事ができた。

入社してから半年ほどは、スーシェフ(副料理長)すらいなかった。
それが、6ヶ月も過ぎようとしていた頃、副料理長のポジションで1人やってきた
それがシェフ Dan(現在 Aviary N.Yの料理長)
ダンは稀に見る人間性の素晴らしいシェフで、カナダ人という事もあってか、唯一の外国人だった僕にも話かけてくれた。

ある時ダンが
「Why ain’t you be a chef de partie?(何で部門シェフじゃないんだ?)」と...
部門シェフとして働くのに充分なくらい、仕事ができているじゃないかと。

後で知ったが、ダンだけじゃなくシェフ アケッツのパートナーシェフをしていたシェフ Ericもアケッツやベーグル、サイモンに話をしていたらしいが、人がいなさすぎる為、AMチームをやり続けていた。

6ヶ月の間、就職希望の研修生なんかも何人か来たりはしていたが、半日でいなくなる者や倒れるもの、実力不足で追い出されるものが多かった。

人数が少なくても料理のクオリティなどに影響が及ぶ事は絶対ない。
世界一のモチベーションで全員が働いていたから。

ただ、かなりの仕込みがAMチームへとふられる中、アリネア独特の面白い仕込みがいくつかあった。
それは食材をではなく、器作りなんかだ。

・ワックス(蝋)を溶かし、型に流して包丁で削り器を作ったり。
・1m以上と長いシナモンを割り、削ってお箸を作ったり。
・氷で器も作った。
・面白かったのは、セメントを練りコンクリートの器を作ったことだろうか(それも使い捨て)。

学生の研修生の1人は、ひたすらチューインガムを袋から開ける作業と花とハーブをちぎるだけの子も多かった(笑)


ミシュラン3星というキャリアを履歴書で見れば華々しく見えると思うが、大事なのは何をやってきたか、今料理が美味しく創れるかだけだ

キャリアの長さと肩書きだけでは測れない。
ミシュラン店で花だけをちぎって過ごす人も実際かなり多い

2週間後、シェフから重要な仕事を依頼される...



To be continued...

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料理人である自分は料理でしかお返しできません。 最高のお店 空間 料理のために宜しくお願い致します!