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World's End Supernova

 なんてわかりやすい世界になってしまったんだろうか。私はゆっくりと落ちていく真っ赤な太陽を見ながら煙草に火をつけた。
 紫煙はマイペースにゆったりと風にゆられて消えていく。煙は気楽なもんだ。私はため息をつくように肺から煙を吐き出した。
 高い高い鉄塔の上に居ると、風以外の音から遮断されて、一人の世界をより感じられる。少し耳に違和感があるのは気圧なんだろうか。そこまで高い場所じゃないんだけれども静か過ぎるとそう感じるソレなのかもしれない。
 周りを見渡すと、まぁ緑の森と廃墟の森が半々で別れてる。向こうには山が見えるけども山も緑の半分の中に入れて良いだろう。動く物も光も音も耳には届かない。半年前の新宿っていったらそりゃあコンクリートジャングルだった訳だ。しかし気が付けば森が半分こっちに来てる。あの山も元々あったんだっけ?
 要すると、私の世界は終わってしまったようだ。これから終わるんじゃなくて、もう終わってるっていう感じ。まぁ私は生きてるし、煙草もあるし、親指も動く。それだけで”私”は終わってない。

 鉄塔から下を見る。眩暈がして視界が歪む。
「これは無理だね」
 わざと口に出し、気を落ち着かせる。高所恐怖症じゃなくてもこの高さはクる物があった。落ちるにしても降りるにしてもどっちも辛そうだ。
 気分良く煙草を吸いたい為だけに上った鉄塔でこんな事になるなんて後先考えろってナツミに言われたばかりなのに。
 とりあえず腰をおろす。どうせ立ち上がれなくなるだろうけど気にしないでいいや。明日でも降りれるだろうし。何よりここは煙草が美味しい。
 煙草を吸いこむとキツめの酸っぱいような臭いが口に広がる。フィルタまで燃えた煙を吸ってしまった。気分が台無しになる。煙はわが物顔の様にゆっくりとゆっくりと空へ舞い上がっていく。
 ナツミを見送った日を思い出す。ナツミは煙草の煙よりは情熱的だったけれども、空へ舞い上がって行った。
 無謀な事をしてとか、食糧が無くなったとか、私を守ってとか、終わった世界の物語にありそうな死に方じゃなく。起きたらナツミは死んでいた。
 あっけないというか、私がそういう死に方をしてたらナツミは大声で私を怒っていたんだろうと思う。ナツミはそういう子だから。忘れ物して一人で行くんじゃないって多分そんな感じ。
 いいね、リリシストになれるかもしれない。

 なんだっけ、人は半分の姿で産まれて来て、その半分を探す旅をするんだ。その半分を見つけた時、人は一つになって夫婦になるんだよ。とかだっけ。
 馬鹿野郎、究極に漂白されたような少女の綺麗事みたいな事を良く言えたもんだ。真顔で書いたんだろうか。それとも笑顔だったんだろうか。どちらにしろ狂気の沙汰だ。
 人は半分でもなんでもない、器として産まれてくる。そこにいろんな大切な物とかゴミとかナツミとかがどんどん入り込んで埋めていくんだ。
 それが私。色んなものの堆積物だよ。だからね、居なくなったらポッカリ空くんだ。穴が。
「なんだよ、いなくなるんじゃねぇよ」
 ちゃんと言葉が出てこなかった。泣いてるじゃん私。頭の中ではこんなに饒舌なのに、言葉にしようと思ったらまともに口が動きやしない。

 下を向くと背筋と首筋がゾワっとする。どうしよう、会いに行ったらナツミは死ぬほど怒るだろうと思う。死んでから死ぬほど怒られたらどうなるんだろう。
 試してみたい欲求と会いたい欲求。もうどうでもいいやという気持ちも含めて、死ぬか生きるかの天秤を見たらまぁ死ぬ方向に天秤は傾いてるだろう。
 さて、もう一度下を向いてみる。相変わらずゾワっとする。体はめちゃくちゃ死にたくないようだ。

 だったら、まぁもう少し生きてみてもいいか。
 煙草に火をつけると、紫煙はゆっくりと空に舞い上がっていく。
 私もしぬときゃ落ちるより舞い上がりたいものだね

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