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◯◯◯◯◯◯出られない部屋

 朝起きると、私は真っ白な部屋の真ん中で。
 そもそも朝なのか、ここは一体どこなんだろうか。肩と腰が痛い。起きたらここに居たんじゃなくて、ここで寝ていたんだろうというのが身体が教えてくれる。
 痛みを抱きながらゆっくりを身体を起こす。周りを見渡すと真っ白い部屋の真ん中だった。真っ白い部屋の真ん中に間違いなく私が居た。

 知ってる。当然だ。映画でも小説でも漫画でも見た事がある。ゲームでもプレイした事があるし、私はこの白い部屋から出てきた。
 赤かった事もあるし、青かった事もあったけども、色は別にどうだって良い。だって今日私がいるのは真っ白な部屋だ。
 悪い冗談だと思ったけれども、どんなに頭を振り回しても私は真っ白な部屋の真ん中に居た。
 頭を振り回している時に、視界に白くない物が映り込む。勿論知っている、出るための条件が書かれた紙かなにかだろう。立ち上がってお尻を払う。ホコリ一つ付いていないけれども私は服を整えた。
 紙を拾い上げると”◯◯◯◯◯◯出られない部屋”と一文だけ書かれていた。

 なるほど、穴埋め問題だ。◯◯しないと出られない部屋。4文字埋まった。2文字の動詞は何かあるだろうか。
 自殺、絶望、酩酊、倒錯、漢字を使えると無限に有る事が分かったし、頭によぎった言葉に絶望した。
 絶望したけど出られないから多分絶望じゃないんだろうと思う。思考もそうだ。
 その前に出るためにはドアが必要だ。この手の部屋はドアがある。勿論鍵がしまっているんだけれども。
 ぐるっと部屋を見渡すと、ドアはどこにも無かった。ドアがないなら条件を満たせば意識を失って、気がついたら自分の部屋のベッドの上システムだろうか。
 そんな事より。冗談でした絶望よりも本当に絶望しなければならないかもしれない。
 冷や汗が背中を撫でる。鳥肌が止まらない。

 私は真っ白な部屋の真ん中に居る。

 6歩位だろうか。私が起き上がった場所から手に持ってる紙があった場所まで確実に移動した。でも私はまだ部屋の中心にいる。
 さっきは紙を見ながら歩いたから部屋がどうなっているのか確認していなかった。見ながら移動するとどうなるんだろうか。
 「大丈夫」世界一気休めの言葉を口にして、私は壁を凝視しながら歩き始めた。

 30歩目。私はまだ部屋の中心にいる。こんな部屋のタイプは見た事がない。
 冷や汗が止まらない。誰だ、誰か見ていないのか。女子高生をこんな場所に放り込むなんて創作の中でしかやっちゃいけない事だろう。
 部屋の角、天井、床、部屋の部屋という部分を全て確認するが、絶望するほどに真っ白で平らで何もない。
 この部屋には私しか居ない。

 持っている紙を改めて見る。”◯◯◯◯◯◯出られない部屋”と一文だけ書かれている。
 こんな不思議な部屋だったら文章が追加されていたりするんじゃないかと希望を持ったが何も変化は無い。
 不安で泣き出しそうになるが泣いてしまったら私を見ているだろう何かが喜ぶんだろう。そうでしょう。女の子の泣き顔は美しいからね。
 ふざけるのもいい加減にしなさい。泣かないからね。

 深い深呼吸して、私は歩き始めた。深呼吸って深いって言葉が入っているのに、意識して深く深く。ね。
 数十歩どころじゃなく、私はたっぷり1時間は歩いただろう。歩きながら右を向いたり左を向いたり確認はし続けていた。でも私は部屋の真ん中に居る。
 天才が居た。誰かって、私だよ。
 髪を止めていたゴムを床に落とす。目印を作ったらどうなるんだろうか。
 少し歩くと、ゴムはちゃんと元の場所から移動せず、私から離れて行っている。ゴムの所まで戻ると、ちゃんとゴムはそこにあるし移動もできる。
 これ部屋の床はちゃんと固定されてるんだ。なるほどね。
 ゴムを置いたまま前に進む。壁にゴムがぶつかった瞬間世界はどうなるんだろう。
 ちょこちょこ後ろのゴムを確認しながら歩く。そろそろ壁にぶつかる頃だ。ゴムを見ながら後ろ歩きをしていると、ゴムは壁に吸い込まれていった。
 ゴムがあった所まで戻ろうとすると、一歩前まであったゴムは五歩進んでも何も無かった。
 壁に飲み込まれた。そうとしか考えられない。私の髪を止めていたゴムはこの部屋から退場させられた。
 出られた事になるんだろうか。いや、出られた事になるんだろう。なんせこの部屋の中に無いんだから。

 考えても仕方がないので私は歩いた。疲れるまで歩こうと思った。でもなかなか疲れなかった。
 疲れないなら足が痛くなるまで歩こうと思った。次は眠くなるまで歩こうになった。疲れないし足も痛くならなかったからだ。
 次はどうなったら歩みを止めればいいのか考えた。当然眠くならないからだ。
 ひたすら壁や天井、床を見ながら歩き続けた。どうやら無限に歩ける部屋な上に無限に歩ける女子高生らしい。
 トイレに行きたくもならなければ、お腹も空かなかった。
 確実に絶望している。私から残っていると思っていた日常が、人間が一つづつ削り取られているように感じる。
 絶望できる事だけが、私の希望になっている。

 私は歩みを止めた。

 お腹は空いていないが口になにか入れたくなり、ポケットに手を入れたからだ。
 説明が足りていない、ポケットに手を入れた時に入っていたからだ。部屋から脱出できたと思っていた髪留めのゴムが。

 全部が馬鹿馬鹿しくなった。
 部屋の中心で横になる。何日、何ヶ月歩いていたんだろうか。何年かもしれない。
 4億歩を数えた所までしか覚えていない。
 口も手も数えるにはもう足りていなかった。

 天井を見上げる。
 まだ見ていますか?誰かわからないけれども、私を見ている人です。
 こんなに歩くなんて思っていなかったでしょ。私もだよ。
 これを書いてる人だって思ってもいなかったみたいだし。こんなに歩くだなんてね。
 もっと試行錯誤しろって思ったでしょう。良いじゃない、別に。これはエンタメじゃないんだから。
 ああ、紙はどうなったかって思ったんでしょう。まだ持ってるよ。

 ◯◯◯◯◯◯出られない部屋

 じゃ、寝るね。5億年くらい寝ればびっくりするかな。

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