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便所の落書きに都会を見た

明大駿河台校舎は、その頃オンボロで、便所は小汚く落書きだらけだった。
学生になって間もなくのある日、個室に書いてある文字に目が止まった。女子フォロワーが減るから、そのまま記載することが出来ないが、要は電話番号と名前が書いてあって、電話をすればすぐなんかできる。という定番のヤツだ。

田舎から出てきたばかりの僕でも、流石に真に受けたりはしないが、暇だし、まだ友人もいないから電話で友達になれるかもしれない。携帯電話なんてない時代。メモを取って、家に帰って電話をしてみた。

「いのちの電話」だった。

都会は洒落たいたずらをするヤツがいるなぁ。と僕は感嘆したものだ。これが田舎ならばガチで逆恨みされた女子か、イジメっ子あるいはその被害者の方の番号で確定。例外はない。

それから30年あまりが経ち、学校は建物も立派になり、トイレに落書きなんて影も形もない。
しかし若者は落書きを欲する。若さには猥雑さが不可欠だ。
最近、Twitterのアカウントを作って覗いてみたら、
「便所からここに移ったのね」
と納得。便所掃除のオジサンも大変だからこれはこれで合理的でいいんじゃない。

でも、Twitterで、僕が昔見たような落書きをすれば炎上するだろうし、ネットでは電話番号検索もできるからいたずら自体が成立しない。

何もかも便利にはなったが、その分失ったものもあるようだ。

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