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KNITOLOGYの服ができるまで

秋を感じ始めた8月の終わり、「服ができるまで」の第3回が行われました。
今回は「KNITOLOGY」のデザイナーである鬼久保さんにお越しいただきました。

ブランド名「KNITOLOGY」に込められている想いは、「”knit +logy” 『ニットロジー=ニット学』。実験的に模索しながらニットを学問のように追求していく」ということ。この追求したものづくりを行うため、1年にひと型のみを企画するという他にない時間軸で服づくりをされています。そのため、ブランド7年目の現在は、代表的なワークコートを始めジャケットやパンツなど、計7型の製品を展開しています。

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鬼久保さんは元々、いわゆる”ファッション”をやりたいとは考えていませんでした。「日本とイギリスで服飾やニットについて学んだ後、福祉に興味を持つことで洋服をつくる意味を得た」と、鬼久保さんの経歴から講義は始まりました。

「半年に1回コレクション発表するアパレルのサイクルではないものづくりがしたいと思いました。学生期間を終え、地場産業活性の視点から国内のニットの産地や工場を巡りました。」

知人の紹介で福島県伊達市にある株式会社阿部ニットさんに訪れて、「アパレルのサイクルではない、作り込んだものづくりをしてみたい」という考えで意気投合。阿部ニットさんはセーターやカーディガンなどの横編み工場で、編みだけでなく縫製、仕上げも行う一貫設備をお持ちです。

そこで、鬼久保さんは3つの工場の課題を見つけます。

1.稼働していない機械の存在
工場には繁忙期・閑散期があることは知っていましたが、稼働しない機械があることは工場に行き始めて知ったそうです。横編みニットの閑散期は1月〜5月頭ごろ。反対に、秋冬物の生産が増える9月〜11月は繁忙期です。

2.機械により稼働率が異なる
原因は、機械により「ゲージ(G)」が異なること。「ゲージ」とは、編み機の針の密度を表す単位のこと。1インチ(2.54cm)間に何本編針があるかを表します。編み目の大きさはデザインに大きく影響し、主流となる7Gの機械は常に稼働していますが、鬼久保さんが訪れた時、7Gより細かい編み目になる12Gの機械はほぼ稼働していませんでした。さらに全部で5台ある機械の内、2台は故障していて埃をかぶっている状態でした。機械の修理にもお金がかかるため、稼働が少ない機械を修理しようとはなりません。

3.編みデータが毎回変わるアパレルのサイクル
デザインを機械へ落とし込むために、工場がCADを使い編み地のデータを作ります。デザインごとにデータは異なるため、アパレルのシーズンの短期サイクルで工場がデータを作成し機械の設定を変えるのは工場の負担になっていると感じたそうです。

この見つけた3つの課題から、12Gの機械を使い、シーズンがなく、長い期間販売し続けられる製品をつくりたい、産地の課題を解決しながら持続性のあるものづくりをしたいとKNITOLOGYをスタートさせます。

思いついた製品は、仕事着(ワークウェア)。その中でも「白衣」をつくってみたいと思い始めました。この時に、時間がかかったとしてもいい製品をつくりたいと思われたそうです。

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KNITOLOGYの特徴について。製品をつくる際に鬼久保さんが目をつけた点のひとつは「横編みのニットでも織物縫製と同じ仕様で縫製する」こと。通常、ニット製品では見頃でも袖でも「成形編」と呼ばれる方法で編み目を増減することで曲線をつけます。この編み目の増減で曲線をつけることがとても難しく寸法が乱れやすいこともあり、細かいカーブの表現を避けるのが一般的な製品設計です。しかし、KNITOLOGYの製品の数多くあるパーツひとつひとつが、まるで裁断したかのような滑らかで繊細な曲線を描いています。全てのパーツが成形編で曲線のついたパーツが編み出されています。さらに、ハイゲージは特に乱寸が起こりやすい上、ストレッチ糸も使用しているためパーツごとを同じ寸法に仕上げることが難しい。難しいづくしです。そのパーツを織物の縫製工程と同じ直線縫いで縫製していきます。パーツに寸法ブレがあると、当然縫いあがりがズレてしまうのですが、これをまるで工業製品のようなクオリティで縫製されているのは、KNITOLOGYのすごさです。

組織にも工夫があります。一つの製品の中でも、パーツごとに組織を変え一番適した組織にしています。こういった追求は、鬼久保さん自身がCADを扱うことができるから可能だとのこと。

「開発の過程で、工場にめんどくさいことをお願いするようになっていきました。工場の負担が減るような着想ではじめたはずなのに、大変なことをさせていることに申し訳ないと思い始めて、機械やCADの使い方を産地に通う中で盗み見ながら独学しました。正直、最初は職人さんが怖かったですが、今はとてもいい関係を築いています。」

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素材は、アクリル、コットンとポリウレタン。

「カシミヤやシルクなどの高級な素材があったらいいのにとか、今は市場が天然素材志向のため、コットン100%ならいいのに、と言われることも多いんです。でも、生地に張りとあり厚みもあり、ワークウェアとして一番いい素材だと思いこの素材をつくりました。」

その他、縫製にもアイロンにもひとつひとつ考え抜かれた理由があります。工程ごとに追求し、手間が増えたとしても、製品にとって一番合った方法を選択されています。

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初めの頃、福島の工場には東京から月に1〜2回ほど通われました。そのうち通っているのが大変で、なんと、鬼久保さんは工場の近くに住み始めます。1年半、工場近くに住み、毎日工場へ通います。この期間に体験した繁忙期の工場の切羽詰まる空気で、初めて「ものをつくること」を実感したそうです。

さらに、プログラミングするCADの技術を手に入れると他のブランドには真似ができない製品が作れるのではないか?と思い、福島から東京へ戻るタイミングでCADソフトを購入。ご自身でプログラミングをしては、サンプル作成を行います。

その後、2017年の5年目にはSTOLL社の最新型の自動横編み機を購入して、アトリエに導入されます。機械は最新ですが、阿部ニットさんにある機械と基本的には同じ横編み機。現在は日々、その機械で試編みを行われています。

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終盤では、製品の生産・販売以外のKNITOLOGYの取り組みのお話がありました。

現在も定期的に工場に通い、その際に製品のサンプルを持っていき、現場の皆さんにアイデアをもらうこともあるそう。日々の中で気がついたことは、製造業は、工場の職人さんが製品をつくる過程で改善点に気がついたとしても「(仕様書の)指示書通りに上げることが正解」だということ。当たり前かもしれませんが、例え商品が良くなるとしても、指示書に反して製品を変えることは難しい。一緒にものをつくる仲間としての関係性について、新たな課題も見えてきます。

「今後も工場や繊維産業の課題をどう解決していくかは考え続けたい。福祉の視点から産業に対しての想いもあるので、やっていきたいことはたくさんあります。」

目の前の課題を、ひとつひとつクリアしていこうとする鬼久保さんの姿に、講義後は襟を正されたような気持ちになりました。

鬼久保さん、貴重な講義をありがとうございました。
最終回は、11月15日にblanketさんに「メルトンコートができるまで」のお話をうかがいます。

事務局

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