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編集者が本気で取材したら、どこまで相手の本音を引き出せるのか? 実験してみた



サンクチュアリ出版 社長・鶴巻謙介

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出版界の常識という常識を壊し続け、
中小版元の中でもひときわ異彩を放つサンクチュアリ出版。
その代表を20年以上つとめ、
経営難、盗作疑惑、従業員離れなど、
数々の苦難をくぐり抜けてきたその目に、
出版の未来はどう映っているのか。
実像に迫りたい。



…というのはタテマエ。

実はこの取材、モニタリング実験なんですね。

題して

編集者が本気で取材したら、どこまで相手の本音を引き出せるのか?



というわけで。
あらためまして。
こんばんは。編集部の吉田麻衣子です。

突然ですが、

私たち編集者の大切な仕事のひとつに、

「著者に本音を語ってもらう」

というものがあります。

本音を話せるくらいの関係性をつくれたら、
仕事の8割くらいは完了しているとさえ思っています。


なんでこんなことを言い出したかと申しますと…。

今からさかのぼること1ヵ月前の話。
いつものように
サンクチュアリ出版note部(橋本編集長・広報部つくだ・吉田)
の3人で話していたときのことです。


そのときの模様がこちら。



編集長:次のnoteの企画、どんなのがいいかなー。

吉田:そうですね。社内の誰かにインタビューでもしましょうか。

編集長:インタビューかあ。ただ、普通にインタビューしてもねえ。…吉田さんってインタビュー得意?

吉田:うーん、まあ得意かどうかはわかりませんが……なんとかして、相手の本音を引き出すまで、粘るようにはしてます。

編集長:ほう。編集者ってどうやって本音を引き出してるの?

吉田:え?(あなたも編集者でしょう…) 個人的に思うんですが、なんとかして、喜怒哀楽なんでもいいから、相手の感情を動かすことですよね。 って、それが難しいんですけど。

編集長:たしかに、そりゃ相手を喜ばせたり楽しませたりできたらいいけどね。「哀しませる」のはまずいから、しょうがない。消去法で、「怒らせる」のはどうだろう?

吉田:「どうだろう?」って、どういうことです?

つくだ:ぼく人を怒らせるの得意なんすよ。

編集長:おお、いいね。

吉田:(聞いてないし!)

つくだ:たとえばぼくこの間、社長に「社長って、ぶっちゃけマンガしか読んでるイメージないすけど、社長って本とか読んでんすかね?」って本人に聞いたら、マジギレされちゃいまして「あたりめーだろ! おれがそもそもなんで出版社をはじめようとしたのか知ってんのか!」とか言って、クックックック。

吉田:(なにがおかしいの?)

編集長:それで? それで?

つくだ:忘れちゃいました。クックックック。

編集長:なあんだ! おしいな! そこ、本音語りそうなタイミングだったな!
じゃあ、そんな感じで、吉田さんお願いします。

吉田:(とっても嫌な予感…)そんな感じって、どんな感じですか?

編集長:編集者が本気を出したら、相手からどれくらい本音を引き出せるものか、見てみたい。おれも社長と知り合って20年くらい経つけど、ずっと本音を聞いたことがないもの。

誰がどう聞いても「ああ、そりゃ本音だな」って感じられるようなやつ、バシッと引き出してきてください。




なんでこういう流れになっちゃうんだ。

編集部で一番社歴の浅い私が、
なぜ
わざわざ会社のトップを怒らせる
というチャレンジを課せられるのか。

世間一般の会社員のみなさんは、
そこ、一番怒らせないように
注意しながら生きてるとこじゃない?



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で、気づいたら、もう目の前に社長が座っている。



社長:で、なに話せばいい?

吉田:ハッ! ああ! 今日はお時間を頂戴し、まことにありがとうございます! 今日すっごく楽しみにしてきました!

社長:はいはい、お手柔らかにね。あんまり本音は話さないよ。

吉田:あの、はい、掲載前に原稿チェックしていただきますので、
ざっくばらんに、もうなんでも。とくに今日は、会社説明会とかのオフィシャルな場で話しているやつじゃなくて、ここだけの話がほしいです。

社長:グイグイくるね。


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いきなり服を脱ぎ始めた。機嫌は良さそうだ


吉田:まず、あらためてお聞きしたいのが、サンクチュアリ出版ってどんな会社でしょう? 「スナック」とか「養蜂」とか、ここで働いておきながらなんですが、ときどきなんの会社なのか、わからなくなります。

社長:「本を読まない人のための出版社」っていう会社のキャッチコピーをつくったのが10年前。主要メンバーで、半年以上話し合って考えたものなんだけど、まあ一言で言えば、普段あまり本を読まない人にも手にとってもらえるようにがんばる出版社ってところかな。

吉田:ええと具体的に「本を読まない人のため」にどんなことをがんばりましたか?

社長:そうね…一番古い記憶だと、大阪のD堀に飛び込んだ。

吉田:…どういうことです? 

社長:ほら、川に飛び込むと人が集まってくるでしょう。だからスタッフみんなで飛び込んだ。注目を集めたところで「実はぼくらこんな本をつくってます」って宣伝したんです。

吉田:完全に炎上案件ですね。私、その時代に在籍してなくてホントよかったと思いました。

社長:ハハハッ。

吉田:笑い事ではないです。一企業の社長がそんなことしたら、フォロワー減るくらいじゃ済まないですよ。

つくだ:ちょっといいっすか。

吉田:はい、つくだくん、どうぞ(怒らせ担当として、つくだくんを連れてきています)

つくだ:ぶっちゃけ、「本を読まない人のための出版社」とかっつっても、うちの本って、けっきょくなんだかんだいって、カフェでも遊園地でもホームセンターでもなく、いちばん本屋さんで売れてるじゃねえですか。
本屋さんに行く人つったら、だれ? 本を読む人たちでしょ。
んだったら、やっぱ、本を読む人たちに届けてんじゃねえですか? おれの認識、間違ってますかね?

吉田:(さっそく社長を怒らせようとしてる…? いいぞ! なんか、私までちょっとムカついてきた!)

社長:もちろんそうなんだけど。サンクチュアリ出版の本って、書店の中でも、最初はTSUTAYAさんとか、ヴィレッジヴァンガードさんとかいわゆる複合店さんに多く置いてもらうことができて。いわゆる本を目的買いに来た人以外にも届ける形で広まっていったんだよ。それはあくまでもきっかけだったけど、そのときに「今までまともに本を読んだことなかったけど、サンクチュアリ出版の本で、読む楽しさを知った」とかそういう感想をもらえるようになって、これからも(本を読まない人たちに届けていきたいな)って思ったんだよね。

つくだ:なるほど。そうっすね。

吉田:(引き下がるの早すぎるな)次に社長個人のことをお聞きしたいのですが、社長の仕事の信条(クレド)ってなんですか?

社長:まとめてあるよ。

吉田:なんか社長っぽい。

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さらに服を脱ぐ社長


社長のマイクレド・サンクチュアリ出版を永く続ける・業界初のことをやり続ける・仕事を家庭に持ち込まない・人より安く、それでいて豪華に・健康がまず大事。無理をしない


吉田:ほほう、入社以来ずっと思ってたんですけど、社長って帰るのめちゃくちゃ早いですよね。すっかり任せてしまえる、スタッフに対する信頼感もすごいと思いますが、家では仕事をしないんですね。へえ。私は家で仕事しますよ。普通、出版社の人間なんて、寝る間も惜しんで仕事をしたり、飲み歩いたりして、身体を壊す人多いじゃないですか。

社長:なにが言いたいの。

吉田:なにが、というわけではないんですが、だいたいの中堅出版社の社長って身を粉にして働いているイメージがあるので。無理をしない。人にまかせる。さっさと家に帰る。すばらしい信条だなと思って。へえ。

社長:いや、こう見えてもねえ。昔はおれ、もっとすげえ無理をしてたんだよ。スタッフに口出しをしたり、怒鳴り散らしたり、夜通し言い争ったり、何日間も会社に泊まり込んだ時期があった。
でも「社長がいると仕事が進まない」って満場一致で言われて、そういうのやめたわけ。
だから会議とかもなるべく出ない。ゴミを出すか、煙草を吸うか、餃子の王将行くとき以外はデスクから離れない。

吉田:なるほど。浪人生みたいな生活ですね。
でもポジティブに見れば、社長がそうやって現場に任せてくれているから、スタッフが自立しやすい環境なのかもしれません。

あと、社長と言えば、なんですか。

社長:なんですか?

吉田:無理をしない、まかせて、家に帰る。あとはなにをしてるんですか?

社長:うーん、趣味の時間が多いかな。

吉田:ああ、たしかに社長は趣味が多いですよね。「アイドル」「格闘技」「鉄道」でしたっけ?

社長:いや、7つね。しかもアイドルとか格闘技とか、ざっくりくくらないでもらえる?
①ハロプロ ②WWE(プロレス) ③鉄道・旅 ④マイルをためる ⑤競馬 ⑥大戦間史 ⑦F1 ね。


吉田:分類は超どうでもいいですが、たしかに多趣味ですよね。社長の一番の趣味と言えば、若い女の子、若いというか、未成長というか、幼女好きなイメージがあります。

社長:幼女じゃないし、ただの若い女の子じゃない。たとえばももち(嗣永桃子さん・元Berryz工房)なんかは…

吉田:あ、ももち知ってる。それは知ってます。やっぱり、ももちってアイドルとしてすごかったんですよね。素人の私でもなんとなくわかります。


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ももちをほめたらいきなり泣き出した


吉田:(なになに? なんなんだこの空気は。ももち卒業から2年たっても、傷は癒えていない? そんなことで? まだ泣くほど?)

つくだ:……

吉田:(あんた、なんか言いなさいよ)

つくだ:……あ、7つの趣味のイベントが、もし同じ日に重なったらどうすんすか?

社長:チッ

つくだ:え?

社長:愚民は黙ってろ。

つくだ:え? え?

社長:稀少度で選ぶに決まってんだろうが。
もう二度と行けないとか、ここが勝負どころだとか、ここを行っとかないと死ぬまで後悔するぞと、おれの心が叫ぶイベントに行くに決まってんだろうが。

ももちの卒業公演とか…ウッ

吉田:社長また思い出して、泣かないでください…。まじで困るし、慰められないです。ええと、そうだな、あの、これらの趣味の共通点ってあったりするんですか?

社長:…ストーリー性。

吉田:そんな我々を突き放すような目で見ないでください。

社長:ハロプロもWWEもそう。人が変わっていく過程、そのストーリーが最高なんだ…。大戦間史もそう。ストーリー…そう、ストーリー…。俺はストーリーをたどりたい。ストーリーが好きすぎて、俺の家はあっちこっち、読みかけの本が散乱しています。

吉田:(片付けろ)

つくだ:社長って本、読むんすね。

社長:だからこの野郎、お前、この間も言っただろ、この野郎。俺は本を読むんだ。すげえ読む。しかしお前の考えてるような、エンタメ小説とかビジネス書とかは知らん。大きな声じゃ言えないけど、東野圭吾さんとかホリエモンさんとかまったく読んだことない。

吉田:ええ? じゃあどういう本を読むんですか。

社長:ジョージ・オーウェルの『一九八四年』。初版は70年以上の前

つくだ:古いのか超古いのか、よくわかんねえタイトルですね。

社長:大学のとき、俺はヨーロッパ近現代史を勉強してた。そしてなぜ戦争が起きたのか、なぜ独裁者が生まれたのか、ということを調べていたときにたどり着いたのがこの小説だ。
今でも、自分の興味のあるテーマで読む本を決める。どんな有名人が書いたとしても、俺は知らん。しかし、鉄道小説とかプロレス小説とかアイドル小説なら、誰が書いても読む。


吉田:出た! 本音。

「本を読まない人のための出版社」の社長は、

・無理をしない。人にまかせる。さっさと家に帰る。

・ももち卒業に関して、まだ心の傷が癒えていない。

・興味がある本しか読まない。

でした。


サンクチュアリ出版の社長は、意外と保守的でびっくり! 

でもトップがこれだけ保守的でいてくれるからこそ、
みんな常識はずれなことができるのかな?


いかがだったでしょうか?

個人的には大満足の内容でした。
怒らせられたかは微妙ですが、勝手に泣いてくれたので、まあよかったかなと思います。


最後にこれは真面目に。
私がインタビューのときに意識していることを、いちおう最後にまとめておきます!


①時間をもらっていることに全力で感謝する

まず最初に、忙しい中時間をつくってくれたことに対する感謝を伝えます。これをするだけで、心地よく話してもらえる確率がぐんと上がります。


②他で言ってない話が聞きたいとお願いする

正面からこう伝えると、相手が気合を入れて話してくれることが多いです。テープレコーダーを出すと構えられてしまいますが、「事前の原稿チェックがありますので」と付け加えると安心して話してもらえます。


③メモはとらない

できるだけ相手の目を見て、話を盛り上げることに徹します。音源をあとで聞けばOK。時間はかかるけどこっちのほうが撮れ高がいいです。


④喜怒哀楽を引き出す

できたらその中でも「怒」を引き出す。怒らせるまでいかなくても、積極的に突っ込み、いじり倒します。多少なれなれしくしても、最初と最後を礼儀正しくすれば大体なんとかなります。


⑤相手が好きなものを好きな理由を聞く

いちばん楽しく話してくれます。これを最後のほうに聞くことが多いです。気分よく取材を終えてもらえると、原稿チェックでこちらに任せてもらえることが多くスムーズに進みます。


そんなわけで、現場からは以上です!


テキスト 吉田麻衣子(よしだまいこ)サンクチュアリ出版編集部。宮城県出身。おしゃべり好きな蟹座のB型です。担当した本は『アウトプット大全』他。そのとき追いかけているテーマが趣味になりがちな、移り気系編集者。


編集 橋本圭右(はしもとけいすけ)1974年東京生まれ。サンクチュアリ出版編集長。主に山と電車とファミレスで活動。編集した本。好きなものはゲーム、ジムニー、ベイスターズなど。


(画像提供:iStock.com/tunart)



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