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一体どこまで調べれば、「ヒットの法則」は見えてくるものなのか?



サンクチュアリ出版編集部の
宮崎桃子です。


はじめに断っておくが、
これは愚痴ではなく、報告である。

今回は、
私のように中途入社した
書籍編集者であれば
誰もがカルチャーショックを受けるであろう
「サンクチュアリ出版にとっての常識」
のひとつをお伝えしたい。

我が社には
鬼軍曹イチカワ氏率いる、
鬼の営業部が存在する。

彼らの恐ろしさの一部は、
以前、編集部の大川美帆がこんな記事にして伝えたとおりだ。



人一倍、感受性が強い私などは、
鬼の営業部のことが頭をよぎるだけで、
あらゆる恐怖が蘇り、意識が遠のく。

しかし新刊を発売するためには、
営業部から書店さんへと、
営業活動をしてもらわないといけない。

よって、
いち編集者でありながら、
新刊の発売日なんて、永遠にこなければいいのに……
と毎日、切に願っているほどだ。

なぜ発売日がこわいのか?


それは

新刊の営業を開始するにあたって

決定されたカバーデザイン(装丁)

が必須だから、ということだ。


この恐ろしさがわかるのは、
おそらく書籍編集者の人だけである。

そして多くの
書籍編集者だったら
きっとこう思うであろう。

カバーデザインなんて
ぶっちゃけ、最悪、
入稿日に決定していればよくない? 

と。

つまり発売日のだいたい1ヶ月前、
あるいは
シンプルな作りの本であれば、
下手すれば
2〜3週間前でも間に合うかもしれない。

つまり、
カバーデザインというものは
たいてい、
本の中身が完成するころに
ようやくできつつある
ものだ。

ところが
残念ながら
我が社の営業部はそんな甘えを許さない。

新刊の営業には
「決定されたカバーデザイン」を持って
書店をまわりたい
という信念がある。

なぜ?
理由は、あっさりしている。

カバーデザインが決まっていた方が
書店さんからたくさん注文をもらえるから。


…それは、そうなのだ。

著者の実績や、本のアピールポイント、
中身の雰囲気、予想されるターゲット層など、
言葉を尽くして説明するよりも、
「今度、こんな本出ます」って
カバーデザインという一目瞭然のもの
を提示したほうが
よっぽど書店員さんから注文をいただきやすい。

だから、営業部は
「営業を開始する前に、
カバーデザインを確定する」
という方針を変えようとしない。

そこで、
発売日の約3ヶ月前から
カバーデザインを作りはじめて、
約2ヶ月前には確定させる
という段取りが踏まれることになる。

わかる。
わかるよ、その理屈は。

でも編集者は泣く。
入社当初の私は、
しくしくと泣いてばかりいた。

だって、
中身もろくすっぽできてないのに、
カバーデザインをフィックスしろ、なんて、
田植えをする前段階で、「年貢を納めろ」
というようなものだ。
つまり、先に
「石高10万石突破!」みたいな
カバーデザインにした後で
どうすれば10万石の米を収穫できるかを考える
というようなことなんだが、
このたとえは、かえってわかりづらいであろうか。

ともあれ、
かなり厳しいということなのだが、
カバーデザイン
と中身の整合性について
なんとなく、うやむやにすることもできない。

うやむやにできないように、
サンクチュアリ出版の本づくりには、
「パイプマン」が参加することになっている。

パイプマン。

一般用語ではないことを忘れ、
私はついよく社外の同業者に
「パイプマンがね」と口にしてしまうのだが、
伝わった経験が一度もないので、補足説明をしておく。




こちらの商品とは無関係です



我が社における「パイプマン」とは、
ある1冊の新刊企画について
編集者と営業部のパイプ役をつとめる、
営業部員のことをさす。

編集者とパイプマンは
新刊に関する決済権をそれぞれ50%ずつ有するため、
新刊の制作全般においては、
ふたりで足並みをそろえることになる。

特にカバーデザインについては、
完全にパイプマンとの共同作業である。

「オビ文句をどうするか?」
だけにどまらず
「タイトルをどうするか?」
「文字の大小をどうするか?」
「デザインの雰囲気をどうするか?」
にいたるまで、
パイプマンと一緒に考え、
詰めていかなくてはならない。

ここで再び
書籍編集者のあなたなら
こんな疑問を感じるかもしれない。

「営業がパッケージを考えるの?」

と。


答えはイエスだ。

我が社の営業部には、
考えてもらうのである。


彼らの方が
私たち編集者よりも
どういう外見の本が売れるか、
あるいは売れないかを、
好きとかカワイイとかこの著者好きといった感情を度外視して、
よく観察しているからだ。

その証拠のひとつとして、
営業部が月に一度の恒例としている
「リサーチ本」
という業務を見ていただきたい。

「リサーチ本」とは
部員がおのおののセンスで
最近、参考にしたいと感じた
“他社の売れている本”
の調査レポートのことである。

好き嫌いは度外視して、
「その本の売れたポイントはどこか?」
という視点に絞って、
中身、外見、販売戦略などを分析する。

そこには、
どんな内容の本なのか、
どれくらい売れているのか、
どんな広告を打ったのか、
どんな販促をしているのか、
どんな客層が購入しているのか、
なぜ売れているのか……などの分析結果に加え、
売り場の展開写真や、新聞広告の切り抜き、
パブリシティによる売上の変移…などが資料として添付される。

この調査結果は、
サンクチュアリ出版の全社員に配布され、
閲覧できるようになっているものだが、
今回は特別に
サンクチュアリ出版の人ではないあなたにも
その一部を紹介したいと思う。
(文中、誤植も見られますが、社内向けのものですのでご容赦ください)


まずは販売データ。

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二次使用が禁止されているため虫食い状態にしています


大手書店チェーンの紀伊國屋パブラインと、
日販トリプルウインなどのメジャーなデータ。
まあ基本。
好きな人は好き。こればっかりチェックするという編集者もいる。



次は内容のまとめ。


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いまどきであればAmazonに飛べば、
自社による洗練された書籍紹介も
トップレビュアーによる感想も掲載されているが、
内容を自分なりに噛み砕いて、
自分の言葉で説明することが重要
だと考えているようだ。



その次はカバーデザインについての考察。

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「パッケージがとても上手にできている本」
なんていうのは、なんとも営業らしい言葉。
売れた要因として、
「パッケージの良さ」
の比重の高さを挙げている。
まずは、タイトルの通り、つい手に取らせる。
そのあとに、「どんな本なのか?」が伝わる仕掛け
になっている。



その次は販促の分析。

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なにも起きずに数字が伸びることはないから、
数字が伸びた日には、
一体なにが起きたのかを徹底的に調べる。
ここ数年は「SNSでバズった」というパターンが多いが、
その発信者の人となりや、紹介の仕方にも注目する。

また広告を打ったら、
その効果がどれくらいあったのか、
あるいは、なかったのかなどもチェックしている。
効果のあった広告は、めちゃくちゃ参考にするから、
現物をスクラップにして保存する。


そして最後に。

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1冊の本を動かす「チーム」としての動きを考察。
今後どうやって足並みをそろえていくか、
ということも
営業部としての検討課題に追加される。

こんなふうに、
自社の本だけでは飽き足らず
販促パターンを“再現可能な状態”で
ストックするために
他社の本をストーカーのように分析するのが、
我らが営業部員たちである。

日頃からの積み重ねによって
「パッケージ筋」
が鍛え抜かれている。

だからこそパイプマンと、
デザインやキャッチコピーを一緒に考えるのは
勉強になることばかりなのだ。

ぐーーーっと
本づくりの世界に没入しているときの編集者とは
見ているポイントがまるっきり違っていて、
客観的なアイデアをくれるし、
「読者の視点」を授けてくれるし、
本質を突いてくれる。

わかりづらい。キャッチーじゃない。
つまんなそう。特にほしいとは思わない。
説得力に欠ける。ウソっぽい…


こんな厳しすぎる言葉だって、
それを先に言ってくれるんだから、
頼もしくて素敵な存在なのだ。


じつは鬼なんかじゃない。


閻魔かもしれない。


せめて鬼だといいな。

……だといいな。


テキスト 宮崎桃子(みやざきももこ)神奈川県出身。サンクチュアリ出版副編集長。実用書を中心に企画、編集しています。主な担当作は『カラダにいいこと大全』『オトナ女子の気くばり帳』『調子いい!がずっとつづくカラダの使い方』など。
編集 橋本圭右(はしもとけいすけ)1974年東京生まれ。サンクチュアリ出版編集長。宣伝部長。主に山と電車とファミレスで活動。編集した本。好きなものはボードゲーム、ジムニー、ベイスターズなど。


バナー画像提供:iStock.com/metamorworks

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