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新生NewsPicksの編集長さん! 難しいことはわかりませんが、「出版の未来」がどうなるのか教えてください の最終回


前回    プンスカしてないと、僕本をつくれないんですよ。編

前々回   「棚に入らない本」をやりたいんです。編


で、今回。


結局のところ、
どういう人に向けて本を作るんですか?


橋本  出版社の規模としては、最終的にどれくらいをめざしてますか? 
大手版元だと認識されるようになるくらい? 
それとも好きな本を、ほそぼそと、こじんまりと?

井上  こじんまり以上、大手版元未満になりたいです。
それこそ出版社なんて少人数で運営すれば、
実売1万部くらいでぎりぎり回るじゃないですか。
2万部あれば十分すぎるくらい。
だから2万部をめざします。
まあ…めざしてるのが「コンスタントに2万部出す出版社」なんて、
箕輪さんの頃から比べたら、すごいしょぼなった感じがあるけど、成り立つからええかなって。

橋本  コンスタントに2万部。でも、外さない2万部。ってことは…あれかな。

井上  なんですか?

橋本  聞きづらいこと、聞いてもいいですか?

井上  どうぞ。

橋本  読者ターゲットから、「知識層ではない人」を完全に外します?

井上  うーん。

橋本  うーん?

井上  そう決めつけるのは嫌やな。

橋本  嫌ですか。
でも僕、個人的に慎平くんの編集した本は、
「知識層じゃない人は、相手にしてません」という雰囲気出してるなと思ってて。
『「学力」の経済学』とかまさにそんな感じ?
かといって、実際、読んでみたらそんなに難しい本じゃない。
読むぞって気合入れなくても、すらすら読めちゃう。
すらすら読めちゃう本だけど、『子育てのホント? ウソ?』みたいな甘いネームはもってこない。
あくまでもルックスは「わかりやすい実用本」ではなくて、「骨太な教養本」なんですよね。
そういう雰囲気を、NewsPicksではさらに強めるのかなって思って。

井上  まあそれは、でもほんまにそうかも。
ほんまに、堂々と「わからないことは、なんにもわからん!」と開き直ってる方々に対して、
「こうやったら誰でもできますよ」「世界一、簡単にわかりますよ」
みたいな見せ方はできない。僕と富川さんがそういう戦い方をしたら、ボロ負けすると思うので。
かといって、トマ・ピケティの『21世紀の資本』ほど高度な世界にもいけないんですけど。

橋本 ピケティだとさすがにね。ワンピースの最新刊買うついでに、ってわけにはいかなそうですもんね。

井上 でも売れましたね。

橋本 「売れました」と「専門書です」って言葉、矛盾してない?

井上  矛盾してますよ。
なんやろ。ぶっちゃけ、売れたのは「洋書やから」っていうところもありません?
なんか読んでるだけで、かっこええ感じあるでしょ。

橋本  かっこええ感じある。NewsPicks新レーベルも、読んでるだけで“かっこええ感じ”な本を出していきましょうよ。

井上  出したい。でも外見と、中身では難易度が違う。そういう作り方は僕、得意です。全方位に向けて、みんなお客さんです、というカラーにはしない。

橋本  いいですね。一見、難しそうなテーマを、簡単に読ませる出版社。

井上  うーん。でも、そうか。

橋本  どうしました?

井上  僕に、難しいことを、天才的に噛み砕くスキルがあったらいいんだけど。

橋本  ないの?

井上  はい。まわりにはそういう編集者がいっぱいいるんですけど。

橋本  どの点で勝てないと思うんですか。

井上  すべてにおいてです。
パッケージをどうつくるかとか、目次の構成とか、文章をどう直すかとか。
僕かなり、フィーリングでやってて。
著者さんやクリエーターに「こんな感じで」とお願いしたら「こういう感じ」って返ってくるみたいな。
そんなことだから、うまくハマるときもあれば、うまくハマらんときもある。偶然なんです。
「食べやすそうに見せるスキル」については、圭右さんに対してももちろんそうですけど、僕は一生勝てんなと思ってます。

橋本  それが慎平くんたちの武器なんでしょうね。

井上  なんでですか?

橋本  「私は編集のスキルが低いです」っていう人って、ある角度から見れば、信頼度高いと思います。
自分はなんにもできませんが、著者やクリエーターさんたちにおまかせしてます、ってことでしょ。そのピュアさが、爆発的ヒットを生む。

井上  そうかなあ。

橋本  そうですよ。「めちゃ調理加工しまくってます」っていう匂いがする本よりも、「素材そのままの味を活かしてます」って匂いがする本のほうが、いいでしょう。

井上  素材そのまま…

橋本  『サピエンス全史』だって、あれが万人に対してウケを狙ったパッケージか? といったら、誰もそうは思いませんよね。
でも不思議と、(大人のたしなみとして、こういう説を知っておかなきゃいけないんじゃないか)という気にさせられるんです。
もちろん、編集的な緻密な計算とか、販売戦略があってのベストセラーなんだろうけど、そういう臭さをまったく感じさせない。「素材そのままが活かされてる」感がある。

井上  そうかもしれない。僕たちは読者のために、余計な手をかけない。
これは感覚的な話になっちゃうんですけど、僕らは「お客さんは神様です」みたいな姿勢は完全にやめようと思ってます。
『サピエンス全史』なんて、かなり上から目線じゃないですか。
「お前は読まなくていい」くらいの威厳があるじゃないですか。

僕はあそこまでできへんけど、でもそういう香りは強めに出したい。
読者からの「よくわからなかった」みたいなネガ意見に対して、
「このたびは、よくわかりにくい表現をしてしまい、大変ご迷惑をおかけしております」
みたいな対応を繰り返していたら、出版界にこの先がない気がしてます。
上から目線でいくわけではないですけど、下からもいきたくないです。


で、結局のところ、
最初に出す本はどんな本なんですか?


橋本  新レーベル立ち上げに際して、慎平くんにはそれなりの勝算があるのだろうと、いろんな角度から揺さぶってみましたが、本当に、本当に曖昧模糊としているんですね。

井上  ノープランったら、ノープランです。
わかってるのは、「9月に本を出さなあかん」それだけです。

橋本  そして最初の本は絶対に注目される。

井上  ほんまやったらもうちょっと準備したい。でもできない。

橋本  いきなり、売れた本の焼き直しを出すとか?

井上  御社の『カメラはじめます!』の文庫版とか。

橋本  笑えないですよ。

井上  それくらい追い詰められてます。
本としても面白くなきゃあかん。でも単純に本として面白いだけじゃなくて、井上さんあのとき言ってたことがちゃんと実現されてる! と思ってもらわんと駄目。それがけっこうきつい。時間がない。今から企画立てても、もう間に合わない。どうしたらええんやろう?

橋本  だから、知りませんよ。  
最初の3冊くらいは練習です、だからノーカウントです、みたいな宣言をしたらどうです?

井上  著者とか関係者にめちゃくちゃ失礼じゃないですか。

橋本  練習、という言い方がいけないのかな。

井上   ラジオ体操みたいなもんです、とか言うてもあかんし。

橋本  あ、じゃあ、「実験的な本を出すので、この本は正直うちの本と思わないでください」とかは? 
「僕の本気と思わないでください」とか。

井上  もっとひどいことを言っているじゃないですか。うちの本と思わないでください。我が子ではありません、みたい。ひどい。

橋本   いやでも周囲の期待にこたえるの大変そう。鳴り物入りでうまくいく確率って低いものじゃない?

井上  でも、やるしかないですよね。

橋本  どうにか格好をつけたいところですか。

井上  格好つけたい。やるしかない。
最初にがっかりされたら、次ないですからね。
最初に「クソ本や!」とか思われたら終わりや。レーベルやし。
**
橋本**  なかなか自分でハードルあげますね。
でも、なんだかんだいって、ちゃんと書店さんで売れそうな本、というのは考慮に入れるんでしょう?

井上  まあ、そうですね。
いろいろ「希望や!」とか「0.1秒のパッと見勝負は嫌や!」みたいなワガママを言いつつ、でもちゃんとそこも押さえておかんとあかんなという気持ちはあるので、それはやります。
ただこれだけは心に決めてるんですけど、
それこそ、その本を見た瞬間に「あのレーベルだ!」と判別できるようにしたい。
それはタイトルが目に飛び込んでくるかどうかとか、ビジュアルがキャッチーかどうかとは違った基準で。
どこの出版社から出たのかわからない、どこでも見かけるデザインにはしたくないんです。
かといって、統一感を出したくもない。

橋本  具体的には?

井上  ノープランです。

橋本  …まあ、とにかくガワ(パッケージの雰囲気)から考えているわけですね。

井上  ガワ、考えちゃってますね。
やっぱり「棚」に収まらへんためには、シリーズとして置いてもらいたいし、あれだけ「0.1秒のパッと見勝負はいやや!」って言ったんやから、パッと見た瞬間に、勝負せずに買ってほしいから。
でもコンセプト強めるのって、難しいですよね。強めすぎたら正しい。けどおもんなくなる。

橋本  ガワ、かあ。
僕が受け手側として期待するのは、上手なガワよりも、慎平くんの「発明」なんですけどね。

井上  発明とは?

橋本  これは完全に、単なるプレッシャーなんですけれど。
僕個人的には、ええ! こんな本ってありなんだ! 
って出版関係者がぶっ飛ぶような本を作ってほしいなって。
読み手にどう受け取られるか、とかは気にせず、あ、気にせずというのは、もちろん他人事だからなんですが、
慎平くんの作る一作目が、仮に、そこそこ意味不明な本だったとしても、「ああ、井上慎平さんは、こういうことをやりたかったのね」
という、印象に残るような本を出してほしいなと思ってます。

井上  なるほど。そう思いますか。

橋本  始球式はミットに届くか、ストライクが入るかどうかではなく、とにかく剛速球を投げてほしい。
先に、素敵なガワから作り上げて、こういう素敵な人たちに、こういう素敵な考え方を提案していきます、みたいな、そんな小さくまとまったNewsPicks新レーベルを見たくないです。
今まで見たことがないような本を出してほしい。

井上  ほんまに、それプレッシャーやな。

橋本  もちろん、他人事だから勝手なことを言うんです。
そういう本出したとしても、そんなに実売出ないだろうし、しかも業界の人たちから「実験的すぎる」とかディスられたりして、
アマゾンとかもレビューの数はいっぱいつくけど、微妙に平均、星2.5とかだったりとかして。

井上  いいことないじゃないですか。

橋本  はい。それでも、一作目から洗練されたものというか、食べログ3・5みたいな本が出てきてほしくないな、という一個人としての希望があります。

井上  まあ、なんとなくわかるというか、よくわからんというか。
ただ、なんにしてもインパクトは大事ですよね。
ギリギリを狙って、中途半端にフォアボール出すとかよりは、思いっきりバックネット裏に投げるみたいな大暴投もありか。

橋本  それが男・井上慎平の、世の中に投じたかった最初のボールなんだとしたら、スカッとする。
これこそが、ディスカバーさんでもダイヤモンドさんでは作れない本、
これがやりたくて俺はこの出版社をやったんだ! という本。

井上  一冊目にそんな本を作って、ファンができますか。

橋本  わかりません。でも大衆のニーズを完全に無視した本だったら、一定数のコアファンはつくと思う。
でも、置きにいってそこそこヒットとか、
そういう本を出しちゃったら、「なんだ、それなら元いた出版社でもできたんじゃないの?」
ってなるじゃないですか。

井上  たしかに。

橋本  それを1ウオッチャーとしては、見たくないですよね。
だから、今までの「本が売れる方程式」は一切使わないでほしい。

井上  ほんまにそうですね。けっこう置きにいこうとしてました。

橋本  今までの文脈で本を出したら、絶対ダメですよ。
あ、ただ、何度も言いますが、他人事だから言うんですよ。

井上  2〜3万部売れるそこそこ普通の本より、
(ようこんな本を買うてくれる人おったな…)と感動するくらいの本、5,000部売れた! とかのほうがまだいいかも。
ただ、僕と富川さん、二人で新しいことをやりすぎたらお客さんもさすがに受け止められへんやろうから、僕はデッドボールを投げて、富川さんはストライクを取りに行ってもらう。

橋本  デッドボールはダメです。
ただ、富川さんにも、他社さんでは出せないような翻訳書をNewsPicksから出してほしいなと、1ウオッチャーとしては勝手に思います。
翻訳書って、日本で受けそうなものをピックアップして、そこから選定っていう流れが、ある程度決まっているでしょうから。
それを、NewsPicksだったら「こういう本も出しちゃうんだ!」って驚きたいです。
しかし、そうなるとお金の問題ですね。
資金が無限にあったらいいですね。

井上  お金ね。でもほんまにそうやなと思います。ありがとうございます。
めっちゃ心細かったんですけど、今日、お話できてよかったです。

橋本  ぼくもお話聞けてよかったです。
一方で、ぼくたちも保守的にならずに、出版の常識をどんどん破っていかないとな、って反省しました。
「え、サンクチュアリ出版って、●●●●の本を出しちゃうの?」みたいなくらいのインパクトを出さないといけないなあ。

井上  それはぶっ飛びすぎでしょう。

橋本  いやまあそれはさすがに言いすぎですが。
慎平くんがめちゃくちゃ偉くなったら、井上慎平の守護霊をおろして、うちから自叙伝を出しますか。

井上  何言ってるんですか。僕、ちゃんと書きますよ。

橋本  なんにしても、がんばってください。

井上  がんばります。

橋本  こういう本が、世の中に知れ渡れば、きっと世の中は良くなる、
くらいの大きな風呂敷を広げているわけでしょう。

井上  希望や、ってね。

橋本  僕らの想像もつかないような、新しい希望を見せてください。




井上慎平さん、ありがとうございました。

旅の無事を祈ってます。


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井上慎平(いのうえしんぺい)@inoueshinpeiNewsPicks新レーベル(名前考え中)編集長。担当編集作に『転職の思考法』(ダイヤモンド社)『「学力」の経済学』『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。9月創刊目指します!


橋本圭右(はしもとけいすけ)1974年東京生まれ。サンクチュアリ出版編集長。宣伝部長。主に山と電車とファミレスで活動。編集した本。好きなものはゲーム、ジムニー、ベイスターズなど。


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