おしっこんにちは

「おしっこんにちは おしっこんにちは」

 おしっこが挨拶しています。

「おしっこんにちは、おしっこんにちは」

「お父さん、すごい!!おしっこが挨拶しているよ。おしっこんにちは、だってえ!!」

 偶然通りかかった少年が感動しています。メガネをかけて、くりんくりんの少年です。

「ほんとだ。すごいねぇ。おしっこも挨拶するんだねぇ。」

 お父さんが同調します。少年が感動していることに喜んでいるようです。the 父親、という感じがします。

「すごいよ!!すごいよ!!すごいすごい!!僕、これ夏休みの自由研究にしちゃおうかな。」

 少年は感動を抑えきれないようです。手をブンブン振り回しています。目はテカテカ光っています。

「え、えー、それはダメだよ。ダメです。ダメだ。」

 拒否するお父さん。気まずそうです。

「えー、なんで!こんなに一生懸命挨拶しているのに。なんでダメなの、なんで!なんで!頼むよ!!頼むよ!!」

 少年は懇願します。必死です。まるで捨てられた猫を引き取る許可を得ようとしているようです。

「え、えー。だって汚いじゃん。このおしっこ、持って帰らなきゃいけなくなるでしょう。お父さん、嫌だなあ。」

 お父さんは苦笑い。どうしても嫌なようです。

「そんな、そんな、こんなに頑張って挨拶してるのに、、、、。汚くなんてないよ。ひどいよお父さん。ねえおしっこ、汚くなんかないよね。汚くなんかないよね。」

 少年はおしっこに語りかけます。

「おしっこんにちは、おしっこんにちは。」

 おしっこは反応しません。

「ねえ、答えてよ。汚くなんか、ないよねえ!!」

「おしっこんにちは、おしっこんにちは。」

 おしっこは変わらず挨拶をしています。

「ねえ、ねえってば、もぉ、答えてよぉ。ねぇ、ねぇってばあ、、、」

「おしっこんにちは、おしっこんにちは。」

 お父さんに自分の意見を否定された上、おしっこにも無視された少年。もう世界に自分の味方は誰一人いないんじゃないか、強い孤独感に襲われました。

「うぇーん、うぇーん。おしっこめ、おしっこめ。お前なんて、お前なんて。蒸発させてやる。」

 少年はおしっこに怒りをぶつけました。おしっこを持ち前のフラスコに入れ、ライターで炙り蒸発させ始めたのです。

 ぼこぼこっ、ぼこぼこっ

「おしっこ、しっこん、おしっこんにち、っこ、、、、」

 おしっこはどんどん蒸発していきます。空気中には気体になったおしっこが充満していきます。

「おしっこんに、おしっ、おしっこん、しっこんに、おしっ、こんに、おしっこんにちは、おしっこ、おしっこ、んは、っこん、おしっ、しっこん、お、こ、おしっこんにちは、こ.....」

 ぼこぼこっ、ぼこぼこっ

「っしん、こんにち、おしっ、おしっこんにち、おしっこん、にちは、おしっこんにちは、おしっこ、んにちは、おしっこんにちは、にちは、おしっ、しっこんにちは、ち、おしっこんにち、おしっこ、にちは、おしっこんに、おしっこんにちは、しっこんにちは、おしっこ、しっこんにちは、んにち、ちは、おしっこ、は、にちは、おしっこんにちは、おしっ、こんにちは、おしっこんにちは、おしっ、おしっこん...」

 気体になったおしっこたちからのおしっこんにちはが少年を包み込みました。

「う、うわぁーーーー!!」

 怖くなった少年は膝をつき、泣き叫んでしまいました。

「怖いよーー!怖いよーー!助けてよーー!誰か!誰かー!!」

 ポンポン

 誰かの手が優しく頭を叩きました。お父さん、お父さんです。

 ギュッ

 少年を包みました。

「もうわかっただろう。おしっこんにちはとはさようならだ。」

 優しく耳元で語りかけるお父さん。

「うん、ごめんなさい。もうわがままは言いません。」

 少年とお父さんは手を繋いでお家に帰りましたとさ。めでたしめでたし。

 完

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