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さんぽセンター東京で復職支援の研修を担当しました

 2019年から年2回、東京産業保健総合支援センター(さんぽセンター東京)の産業医研修会のお手伝いをしております。今回のテーマ、復職支援は2022年3月、2023年3月に続いて3回目です。
 
日時:2023年3月1日(金)14:00~16:00
研修名:復職支援の勘どころ(実地研修)
内容:うつ病や適応障害による休職者の復職支援、復職判定について、事例を踏まえ業務起因性精神疾患の考え方、休職者の心理、リワークを含めた休職中の支援の進め方を検討します。また診断書や意見書など主治医との効果的な情報交換の方法もご紹介します。

 アジェンダは以下の通りです。

1.業務起因性うつ病の考え方
2.うつ病治療で必要なこと
3.リワークの実際
4.リワークで何が変わるのか
5.職場復帰支援の実際

 2023年の研修の報告はこちらをご覧ください。過去3回の内容はほぼ同じなのですが、今回が先生方からの質問、問い合わせが一番多かったように思います。「楽しかった」というフィードバックも何人かの先生からいただいたので、私の芸風が変わってきたのか!?よくわからないのですが、後半の「職場復帰支援の実際」により時間を割いたのが良かったのかもしれません。今回はその部分をご紹介します。

●復職準備性

 うつ病などで休職している人の復職判定の最も大きなポイントは、その人が以前のように仕事ができる状態まで回復しているかどうかの判断です。症状の回復はもちろんのこと、生活リズムの暗転、良好な睡眠、三食の食事、外出するなど体を動かした後の疲労感などが回復の目安になります。さらに就労意欲や集中力の回復、人との交流、通勤訓練や実際の仕事を想定した活動などが職場復帰の準備性の目安になってきます。こういったリハビリテーションは従業員が自主的に行う場合もありますし、そういった場を用意する会社もあります。復職支援リワークはこれらの支援を総合的に行う場で、リワークを終了した人の復職準備性はかなり高いと言えるでしょう。

●復職判定の難しさ

 しかしまだまだリワークを利用しないで復職しようとする人も多いですし、中には休職満了まで1ヶ月を切った段階で、突然、仕事に戻りたい、と従業員が申し出てくる場合もあります。主治医から「復職可能」という診断書が出ているものの、それを鵜呑みにして復職させて本当に大丈夫なのか?退職になってしまうので、まだ十分に回復していないけれど、仕事に戻ると言っているだけではないか?かと言って、数ケ月以上従業員の治療に携わってきた医師の判断を、今まで一度も会ったことがない産業医(私たち)が、たかだか30分くらいの面談で、「無理ですよ」などと否定することができるのか?本当に悩むと思います。
 昨年12月の産業ストレス学会では、首尾一貫感覚の向上が就労継続のポイントかもしれないという研究発表を行い、すでにご紹介していますが、これは継続して関わっているからこそ測定できるもので、1回の面談で判断するのはなかなか難しいと言えるでしょう。

●医師の診断書をめぐる人事労務からの苦情

 就労可能な状態まで回復していることを示すのが医師の診断書になるわけですが、人事労務の方からは表1のような苦情が聞かれます。

表1 医師の診断書をめぐる苦情
 1)医者の診断書はあてにならない?
  「復職可能」のはずが復職4日目でダウン
  休職期間満了間際に「復職可能」の診断書
  元気そうなのに「まだ療養が必要」
 2)診断書の内容がわからない
  「症状が改善」とは治っていないのか?復職して大丈夫か?
  「自律神経失調症」は身体が悪いのかメンタルなのか?
  「適応障害」は会社の問題なのか?本人の問題なのか?
 3)会社が欲しい情報が書いていない
  「復職可能」の記述のみ:会社でどう配慮すればよいか
  「しばらくの間、休養を要す」:いつまで待てばいいのか?
  診断書の内容を電話で問い合わせたが応じてくれない

 主治医の立場になることもある私からすると、ごめんなさいとしか言いようがないのですが、ほとんどの場合、主治医は本人を通してしか職場のこと、業務のことを知りません。また本人が大丈夫と言えば、自分のことだからたぶん大丈夫なのだろう、と考えてしまう医師も少なくありません。主治医が、まだちょっと早いのでは?と言っても、「先生、私がクビになったら責任取ってくれるんですか!?」と言われると、それでもダメですとはなかなか言いにくいのです。主治医には治療契約上の「忠実義務」があるので、基本的に本人に不利になる診断書が提出されることはないと考えた方がいいでしょう。

●情報提供依頼書の活用

 ではどうするか。会社がほしい情報は会社から積極的に取りに行ってください、と人事労務には伝えています。そのひな形が、厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」のp.22に載っています(図1)。

<図1>

 はい、載っているんですが、主治医の立場で言わせていただくと、この書類をもらうと天を仰ぎます。なぜか。会社が何を知りたいかが書いていないからです。さらに、「1.発症から初診までの経過」、「2.治療経過」、「3.現在の状態」、「4.就業上の配慮に関するご意見」を書けと言われると、真面目な医師はきちんと書こうとし、返信までに2、3週間かかってしまうこともあります。「1や2は本人に聞いてくれ!」と言いたくもなります。この書式で依頼したら作成を断られたという人事労務の話も聞いたことがあります。ともかくこの書式は精神科や心療内科の医師には不評なのです。

●会社が聞きたいことを聞く情報提供依頼書の作成

 私が勧める書式は図2のようなものです。あくまでもサンプルです。

<図2>

 産業医の立場からすると、産業医面談の際に、復職判定に必要な情報が書かれた診断書が手元に届いていることが必須です。ですから、依頼書の書式のポイントは、主治医がその場で書く気になる簡潔な依頼書・書式を用意することです。A4用紙1枚に収まる項目数にしてください。「長い!」「面倒!」と思われたら返信が遅れます。
 書式作成のポイントは、◯を付けたり数字を記入すればいいような項目に絞ることです。項目数はせいぜい4、5項目にしてください。求められる配慮事項があればコメント欄に書いてくれるでしょう。
 会社が求める情報を依頼しているので、できれば費用は会社側が負担するといいでしょう。本人の負担も軽減し喜ばれます。
 上にも述べましたが、経過なんか本人から聞けばいいんです。それをちゃんと話せるかどうかも、むしろ回復度を示す重要な情報になります。
 記載を求める内容は表2を参考にし、各社、あるいはその人の職種に合った内容で作成してください。

表2 診断書に記載を求める内容の例
  ・診断名
  ・復職の可否
    1.通常勤務可能  2.以下の配慮の元に可能  3.不可
  ・復職の時期: 年  月  日以降
  ・就業上の配慮(復帰当初3ヶ月を想定)
    時間外勤務 (禁止・制限  H)
    休日勤務 (禁止・制限:       )
    出張 (禁止・日帰りのみ・その他:     )
    その他(                  )
  ・その他のご意見
    (                      )

●復職の条件を明示することも大事


 もう一点、大事だと思っているのが、書類の冒頭に明示してある復職の条件です。特に①の所定労働時間の勤務に堪えられることが大事で、これが記してあれば、「半日勤務なら復職可能」という診断書はまず出てきません。こう書いてくる主治医の先生に聞いてみたいのですが、自分のクリニックの職員がこの診断書をもらってきたら業務に困らないのでしょうか。半日勤務で労働契約を結び直すならわかりますが。
 復職の条件としてこれは必要条件と考えますが、だからと言っていきなりフルタイムで働いてもらうかどうかは企業の安全配慮義務の考え方次第です。試し出勤として最初の1週間は半日勤務、次の1週間は6時間など、段階的に負荷を増やす方が就業継続率は高まります。私自身の経験ですが、昔、ある手術で2週間入院したことがありました。たった2週間でも体力が落ち、元のペースに戻るまで1ヶ月くらいかかりました。病み上がりなのだからすぐにフルパワーでは働けないよね、というのは、まあ常識ではないでしょうか。
 繰り返しますが、復帰の条件は所定労働時間働けることですが、復帰当初は安全配慮義務の観点から一定期間、相応の配慮をするし、主治医としてもその配慮について、「こうしたらもっとうまくいく」という意見があったらぜひ教えてください、ということです。

●情報提供書を元に話し合ってください


 情報提供書は復職の判断および職場での配慮を把握するためのものですが、書かれた内容を元に、産業保健職も人事労務や上司も、健康的に働くことについて従業員と話し合い、会社側はどうやってサポートしていくかを確認し、従業員側は何を心がけていくか確認してください。

 講演終了後、何人もの先生方からWORDのサンプルファイルがほしいとご依頼いただきました。必要な方は当社の窓口に「情報提供依頼書のサンプルファイル希望」とご連絡ください。自由に改変して使ってくださって結構です。繰り返しますが、内容を盛り過ぎないことです。主治医がその場で書く気になる書式をアレンジし、活用してください。 

●追記

 長年の経験から、メンタル休職の8割は多かれ少なかれ職場の要因が絡んでいると感じています。ですから本人だけに復職準備の責任を負わせるのは酷で、職場も復職のしやすさや再発防止のために誠意を見せるべきだと思っています。情報提供書はそのための重要な情報になりますので、主治医の先生は、「職場がこうしてくれたらもっとうまくいく」というアイデアをぜひ記してください。

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