ホビーショップキムラの話

ホビーショップキムラって知ってますか?
知りませんよね?
大分県佐伯市の片隅…と言いたいところですがど真ん中に位置する『船頭町』にある…いや、あったカードゲームのお店なのです。

お店の隣には高い志を持った地元のお茶屋さんが営む緑茶のカフェ、目の前には3年前にオープンしたばかりの市のホール。
佐伯市の中でも洗練されたこの地区に、突如現れる異質な空間、それがホビーショップキムラです。

どこまで遡れば起源なのかわかりませんが(だってそもそもきむ兄がこの世に爆誕したところからこの話は始まっている気がする)、このお店が生まれるきっかけになったのは佐伯市が、まちづくりの一環として始めた空き店舗解消・新規創業によるまちのにぎわいづくりの後押しをするクラウドファンディング+補助金の制度。
普通、補助金というものは市や県、国の方向性と、それに沿った事業を実行できる市民や団体の主旨が合致していれば(最低限の基準や面倒な書類手続きなどあるものの)使える公金なのですが、このクラウドファンディングの制度にはもうひとつハードルが付け加えられています。

補助金で欲しい額の半額は自分でクラウドファンディングをして集めなければいけない、という制度です。
例えば「新しくお店をやるのに150万円の改修費用がかかる」となった時、
75万円をクラウドファンディングで集められたら(=周りの人が支援してくれるくらい価値のある事業とみなされたら)補助金が75万円もらえる、という制度です。
細かい部分は割愛しますが約2年前、この制度を使ってお店づくりに挑戦したのがきむ兄。

クラウドファンディング大手のReadyforのページ内でも異質な輝きを放っていたプロジェクト
画像をクリックすると実際のページに飛べます。

クラウドファンディングの文中にもたくさんあるけど、本っっ当にダメな奴なんです。コメント欄に「だめオタクなんて言わないで」なんて書いてあるけど、私は愛を持って関わった上で、愛を持って「だめオタク」と呼んでいます。
「ダメ」には基準がない、というか世の中のほとんどの言葉に基準なんてありませんが、きむ兄と一緒にいればいるほど「ダメな奴」ってわかると思います。↑こんなに応援されて、クラウドファンディングを奇跡のように達成して、お店も始められたのに、2023年1月、閉店(移転?)しました。

遠巻きにこの一連の流れを見ていたら特に悪気はなくても「やっぱりな、失敗すると思った」と思うかも。私でも多分遠巻きな立場だったら思う。「経営には向いてないってことだな」とか「あーぁ、いっぱい人関わってくれたのに」とか。(やだ、私ったら意地悪…?笑)

発言者の真意はわからないけど、実際に「本人をその気にさせて面白がって借金背負わせて何考えてるんだか」みたいな声が私に向けられた時期もあった。
おいおいバカバカ、本人が「市の制度使ってカードゲーム屋やってみたい」と言い出したんだぞ、と反撃する気にもならなかったけど、ムカつきはした。
本人がやってみたいと言った以上、好きにやらせてやろうよ、とも思ったし。お店としては失敗するかもしれないけど、借金負うかもしれないけど、それやらなかったらきむ兄ずっと愚痴愚痴いうおじさんのままだぞ、って。
結果的に愚痴愚痴いうおじさんであることに変わりはないけど、周りに与えた影響は大きいと思う。
なかなか本音のわかりにくいきむ兄だから、心境の変化や、挑戦してみた結果などはわからない。マジでわからない。というかホビーショップキムラが本当に男子中学生の部屋みたいな空間になってからは足を踏み入れていないのでゆっくり話してもいないから心境もなにも、もう私にはわからない。

オープンして1年少しで閉店なんて、お店としては失敗したと思う。
だけど、そもそも、このだめオタクはお店をうまくいかせることが第一目的じゃなかったんだと思う。ゲームできる場所があって、ゲームできる仲間がいて、それが一瞬でも(というか1年以上も…!)できたので、よかったんじゃないかな。

このクラウドファンディングを通じて、どんなにダメなやつでも、応援の仕方を変えたり、みんなに理解してもらうことで救いようのある世の中、社会、まちになれることが、私には分かった。
私みたいに「30代・女性・移住者」とかいうわかりやすい、応援しやすいパッケージじゃなくても、こうして一緒に覚悟決めて飛び込めば、みんな応援してくれるまちだってことがわかった。そしてこんな実証実験みたいなことが成功するのは、佐伯というまちだからだと思う。なんとなく人を応援できる雰囲気と、なんでも面白がれる人柄と、放っておけないおせっかいさ、そんなものが奇跡的に合わさってできあがったお店だったと思う。こういうバカみたいなことが連続して起きていったらこのまちがもっともっと面白くなると思う。

できあがった後も、お店続けてもらうために近しい人(私や友人たち)はアドバイスや助け舟をしていたつもりだけれど、やっぱりきむ兄には届かなかった。
その時にはもどかしい気持ちで「もう知らない!」とイラついたりもしたけれど、周りのアドバイスなんて素直に聞いて実行していたら、それはもうきむ兄ではない。
そして、うまいこと経営してのけたら、それこそきむ兄じゃない、そんな気さえしてくる。



どんな気持ちで撮り続けていたのか知らないけれど、きむ兄に出会った直後からきむ兄を撮ってきた工藤くん。
その工藤くんが今日は東京で開催される映画祭に行っている。
きむ兄を撮り続けた作品が入賞したらしい。
他の作品を観ていないからなんとも言えないけれど、難病がテーマの映画祭だから、きっとわかりやすく、真面目にできあがっている作品が多いと思う。

ここでもきっと異質な輝きを放つであろうきむ兄。

社会の受け皿が小さいから、いろんな受け皿からきむ兄はこぼれ落ちてしまう、私はそんな風に思う。糖尿病こじらせて人工透析になってしまったことで、「病気」「障害者」という受け皿に拾われたけれど、これからも典型的なそれとはやっぱり少し異質なものであり続けると思う。

人工透析に通うだめオタクが大きなスクリーンに映し出され、みんなどんな顔するんだろう。
観客の反応を含めた光景を想像すると、なんだか笑っちゃう。
大賞取っても取らなくていいから、工藤くん帰ってきたらきむ兄とみんなで美味しいもの食べ行きたいな。

それではご覧ください。

↑0:06:15~きむ兄

よりよいゲストハウスにするために使います。例えば、宿泊のお客さん向けの近隣ごはん屋さんマップを作ってみたり。