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聴覚障害者のわたしが、大学の講義で実際に利用していた6つの情報保障

「情報保障」という言葉をご存知ですか?

情報保障とは
障害のある人が情報を入手するにあたり必要なサポートを行うことで、情報を提供すること。聴覚障害者への情報保障は、手話通訳、要約筆記、PCテイク、筆談や字幕を指すことが多いです。(ミライロHPより)

わたしたち聴覚障害者は、相手の口の形を読み取ったり手話を読み取ったりと音声情報を視覚情報に変換して話を理解しています。

そのため、前回「聴覚障害があるけれど大学院修士課程を修了したわたしが、ノートテイクを受け始めたきっかけ。」でも紹介したように、板書が少なく教室も広い大学では、なかなか講義の内容を理解することができませんでした。

そんな中、聞こえる学生と同じように情報を得る手段として「情報保障」を利用していました。

今回は、わたしが実際に利用していた6つの情報保障を紹介します。

1.補聴援助システム「ロジャー」

一番利用していた情報保障は、補聴援助システム「ロジャー」です。

これは、補聴器会社のPHONAKの商品で、専用のマイクに話しかけるとワイヤレスで補聴器に音声を飛ばせるシステムです。

「ロジャー」を使用することで、話者との距離が離れていても周りの雑音の影響を受けずに話者の音声を聴き取ることができるようになります。

「ロジャー」は

話者にロジャーの送信機を持って喋ってもらう

という使い方をしていました。

わたしは元々耳で音を聴いて、きき取れなかった音声を口の形を読み取ることで補完していたため、「ロジャー」を使用することで、きき取りたい相手の音声を直接にきき取れるようになり、話の理解度がぐっとあがりました。

また、ペンの形をしている「ロジャーペン」を使用していたこともあり、

・どこに話しかければ良いのかが分かりやすい
・ペンを握っているときこえにくい学生が近くにいることを意識するから、ゆっくり話すようになった

のような感想が教授や学生からもらえる、お互いが使いやすいツールとして重宝していました。

わたしは、この「ロジャー」を

比較的音声がきき取りやすい教授の講義

で使用していました。

ちなみに「ロジャー」は大学に送受信機を購入してもらい、大学からのレンタルという形で使用していました。

2.手書きノートテイク

(PEPNet-Japan HPより)

「手書きノートテイク」は、前回の記事でも紹介した方法です。

細かいやり方は大学によって違うようですが、わたしの在籍していた大学では

・白い紙に黒の水性マーカーで書く
・支援者は、1講義につき2人
・支援者のうち1人がメインで先生の話を書き続け、もう1人が書き漏れたところを補完したり教授が読んでいる箇所を指さす(だいたい10-15分で交代)

というやり方でした。

わたしは、手書きノートテイクを

・「ロジャー」ではきき取りが難しい教授の講義
・英語や数学などパソコンでは打ちにくい文字記号が多用される講義
・ワークショップ形式で動きの多い講義

で利用していました。

この方法には、
・両隣りに支援者が座ること
・支援者が聞き取りやすいように前方の席に座る必要があること
などの制限がありますが、講義の内容がぐっとわかるようになりました。

ちなみに、「手書きノートテイク」で使用する白い紙は大学のキャンパスに裏紙ボックスを設置して、教授や学生から寄付を募っていました。

3.パソコンノートテイク

(PEPNet-Japan HPより)

「手書きノートテイク」は、紙にペンで文字を書いていましたが、「パソコンノートテイク」はパソコンに文字を打ち込む情報保障です。タイピングの得意な支援者だと、手書きよりもぐっと情報量が増えます。

この方法も各大学によって細かいやり方が変わってきますが、わたしの在籍していた大学では、

・支援者は一講義につき2人
・休憩はなく、一文ずつ文字を打つ
・使用ソフトは

というやり方で進めていました。

わたしは、パソコンノートテイクを

・「ロジャー」ではきき取りが難しい教授の講義
・教授が一方的に話し続けることが多い講義

で利用していました。

この方法も
・両隣りに支援者が座ること
・支援者が聞き取りやすいように前方の席に座る必要があること
・コンセントの近くの席に座る必要があること
・講義前にパソコンの接続が必要なこと
などの制限がありますが、講義内容の8割を理解することができるようになります。

ちなみに、パソコンは大学が用意をしてくれていて、支援者は実践の前に講習を受けます。また、定期的に練習会も行っていました。

4.音声認識アプリ「UDトーク」

「UDトーク」は、「手書きノートテイク」と「パソコンノートテイク」とは異なり、音声を文字に変換してくれます。ちょうど大学院に進学するタイミングで、大学に導入をお願いしました。

わたしが大学院生の頃はまだ使われ始めたばかりだったため、使い方は試行錯誤しました。

・「ロジャーペン」とiPadをBluetoothで接続して併用
・文字の誤変換を訂正する支援者が一講義に一人
・誤変換の状況を、教授にも見てもらえるようにiPadを教授用にも用意。認識できていない専門用語は再度解説してもらう

というやり方で進めていました。

「UDトーク」は、zoomとも連携しているため、昨今のzoom会議でも活躍しています。

この方法も
・支援者が聞き取りやすいように前方の席に座る必要があること
・講義の前に接続をする必要があること
などの制限がありますが、支援者は一人で良くなり、誤変換はあるものの9割近くの情報が入ってくるようになります。

ちなみに、「UDトーク」の法人契約料やiPadは、大学側が負担してくれました。

5.映像字幕

大学になると、講義の中で映像を見る機会も多々あります。しかし、補聴器機は機械音声をきき取ることを苦手としています。

そこで、聴覚障害学生が受講する講義で映像を見るときには

・あらかじめ字幕の設定をお願いする
・字幕がついていない映像には字幕の文字起こしを依頼する
(支援者にお願いしたり教授がやってくれたり、人それぞれでした)

の方法をお願いしていました。

もちろん、UDCastで「マチネの終わりに」を観てきたよ。のように、日常生活でも情報保障として利用することの多い方法です。

6.手話通訳

ここまでは、「日本語」による情報保障でしたが、最後は「手話」による情報保障です。

わたしの在籍する大学には、手話通訳士や手話通訳者の資格を持つ支援者がいました。そのため、
・聴覚障害のある教授の講義
・議論が活発になることが予想される講義
・講演会

では、手話通訳をお願いしていました。

大学院にはそのような支援者がいなかったため、地域の手話通訳者派遣センターから手話通訳者を派遣してもらっていました。(派遣については、各自治体によって異なります)

この方法は、聴覚障害学生自身に手話の読み取りができることが必要になりますが
・手話通訳者が見えれば、どこに座っても良い
・手話で考えをまとめても、通訳者さんが日本語に通訳してくれる
・話者が頻繁に変わっても対応できる

という利点があります。

わたしは、手話を日常的なコミュニケーション方法として使えるようになった、大学2年生の後期ごろから利用していました。

現在も、「一人の夢では叶わないが、みんなの夢になれば実現する。」のように、イベントに参加する際や職場の会議場面で利用しています。

情報保障を担ってくれる支援者へ感謝を伝えよう

ここまで紹介したように、聴覚障害学生への情報保障を担っているのはまだまだ人間です。特にわたしの在籍していた大学は、この情報保障を学生が無償ボランティアで行っていました。

相手が自分のために時間を使っていることへの感謝の気持ちを、言葉にして伝えられるとお互いが気持ちよくその時間を過ごすことができます。

わたし自身も情報保障を通して仲良くなった他専攻の友人がいますし、支援学生と聴覚障害学生の恋愛……なんてエピソードもあったりなかったりしました。

情報保障で使用した紙やデータのその後

情報保障はあくまで障害のある人が情報を入手するために必要なサポート、です。つまり、きこえる人と同じ土俵に立つためのものであって、特別扱いではありません。

きこえる学生が講義の録音だったり録画データをもらっているわけではない場合は、原則として情報保障で使用していた紙やデータは廃棄していました。

また、聴覚障害学生が講義中に寝てしまっていたときも、原則として情報保障は止めてもらっていました。きこえる学生も、寝ている間は講義の内容なんて聞こえていない(ハズ)なので、そこは平等になるようにしていました。

元聴覚障害学生の、アコガレ

情報保障のおかげで講義に参加できるようになったわたしですが、ひとつ不満があるとすれば「後ろの方の席に座って、友達とおしゃべりがしたかった」が挙げられます。

講義中なのだから、講義に集中することは当然ですが、他の学生が「この講義、つまらないから」なんて言って後ろの方でおしゃべりをしたりお菓子を食べたりしている様子、実は羨ましくて仕方がなかったです笑。

もちろん、支援者の時間を頂いて情報保障をしてもらっているからそんなことはできないのですが、情報保障を全てAIが担うようになったら、そんな野望も叶うのかな、なんて思っています。

最近では、講義の音声を別室に飛ばして、無線LANで聴覚障害学生の手元にあるiPad に文字情報を飛ばす方法を採用している大学もあるそうです。席、選び放題なのかな……なんて羨んでいます笑

まとめ

このように、わたしは
・補聴援助システム「ロジャー」
・手書きノートテイク
・パソコンノートテイク
・音声認識アプリ「UDトーク」
・映像字幕
・手話通訳
場面に合わせて利用していました。

また、聴覚障害学生や聴覚障害学生を受け入れる高等教育機関をサポートする機関として、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)があります。

わたし自身も、学生時代に大変お世話になった機関です。情報保障でお困りの方は、ぜひ問い合わせてみてください。

✂︎聴覚障害のあるわたしと情報保障に関するエピソードは、こちら✂︎
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言語は世界を広げていく。
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わたしは、わたしたちは、「かけはし」を必要としていて〜玉城デニー沖縄県知事の会見動画から〜

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