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データから探る-東大女子はなぜ少ないのか-

2021年度の東大入試では、女子比率が過去最高の21.2%となったというニュースがありました。とはいえ過去最高でも、まだ20%です。World University Rankings 2021 での上位10大学での女性比率は最低でも36%です。まだまだ東大女子は少ないのではないでしょうか。

今回の三文会では、東大女子として過ごした経験のある発表者が

1)東大女子は本当に少ないのか
2)どの段階で東大女子は少なくなるのか
3)東大女子が少なくなる理由はなぜか
を探っていきます。
発表者はジェンダー論の専門家ではありませんが、統計などの情報をもとに論を展開していきたいと思います。

※以前三文会で行われた発表内容に加筆・修正を行ったものです。

この記事も有料設定していますが、全文無料で読むことができます。もしいいねと思っていただけた場合は、会の運営費用(Zoom代など)としてカンパいただけると大変うれしいです。

0 発表の背景

 発表者は東大女子として過ごした経験を持ちます。具体的には
 • 高校のときは男女同数でした(東大内ではめずらしい出自)
 • クラス35人中女子5人(これくらいは普通)
 • 学科では女子が多くてそれはそれで戸惑う
となり、東大内での実情はそれなりに把握しているかなと思います。東大で生活している分には特に嫌な思いをすることもなく過ごしていました。

ところが、卒業後、女子学生比率にする攻撃的な議論を目にすることがしばしばあります。例えば下記のような例です。

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このような言説はデータ=ファクトを見ていないで書いてあり、かつ「女はこう」という思い込みありきで論を展開していることが多いように見えます。こんな状況ですので何かしらデータに基づいて議論を整理したいと考えて、一事例として私にとって身近な東大女子を扱ってみようと考えました。

この分野についての厳格なアカデミックな手法を知っているわけではないので、今回は大雑把な仮説を立てて調べ学習を行い、事実はどんなところなんだろ?そこからどんな仮説が出てくるのだろう?という探索的なアプローチを行っています。

まず、最初に①東大女子はどこで少なくなるのかを東大を受験するまでのプロセスを定義した上で、男子と比較します。このプロセスごとの人員を比較することでどこで東大女子が減るのかをデータに基づいて認識しようと試みました。
次に①の結果と既往の研究から、それがなぜ発生するのかを調べ学習してみました。

また、今回の発表に関しての大事な前提としてなぜ少ないとだめなのか?という善悪については論じません。あくまで女性の居づらさや、より女性が活躍できるには何が必要なのか?という示唆を出せないかという視点で、データに基づいて議論したいなと考えています。女性はXXXだからといった推測に基づく話は今回はしないようにしたいです。

1 東大女子はどこで少なくなるのか

まずは事実を確認しようということで、いろいろと比較して本当に東大女子が少ないのかを確認します。2018-2020年の東大入学者の比率を確認すると女子比率は2割程度です。(出典: 東京大学「学生数の詳細について」


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この女性が少ないというのが東大固有の事象なのか、地理的な傾向なのかといったことを調べるため、色々と比較してみました。

旧帝大との比較
例えば旧帝大固有の事象なのかを調べるためにそれぞれの旧帝大の女性比率を確認しました。すると旧帝大が全体として女性の比率が少ないものの、特に東大・京大は女性比率が低いことが分かりました。

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関東内の他大学との比較
何らかの地理的な要因があるのかと思い、関東の他有名大学と比べてみました。総合大学よりも外語大や東工大のような大学で男女比率が1:1からかけ離れていることから、学部選好による偏りがあるのかもしれません。ですがそれを考慮しても東大の女子比率は低いように見えます。

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国際比較
知られていることではありますが、国際的にも東大の女子比率は低いです。留学支援などを行っている先生がMITとの交換留学を行うとMITからは5名中2,3名は女子の留学生がくるが、東大からは毎回男子しか留学に行かないので驚かれる。という話を思い出しました。

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学科ごとによる比較
Twitterにこんなことが書いてあったので本当かどうか確かめてみます。

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全国の入学者をむりやり東大の科類に当てはめて比較します。(出典: 文部科学省「学校基本調査」

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大分無理やりな比較方法ですが、これでも傾向はなんとなく見え、どこか特定の科類が足を引っ張っているわけではなく、どの科類でも東大は女性比率が低いようです。

ここまでのまとめ-本当に東大女子は少ないのか?
• 東大の女子比率は他旧帝大、海外の大学と比較しても低そう
• 関東内の大学内でも低そう(ただし東工大より高い)
• 全国の学科と比較しても女子比率は全体的に低い

1-1 東大合格までのプロセス定義

色んな点で比較しても東大は女子がやっぱり少ないという点を確認できました。この朝日新聞の記事にも書いてある通り、そもそも東大を受験する女子の数が少ないので東大の女子比率が少ないのは当然です。なぜ東大を受験する女子が少ないのか?という原因を考えたくなる所ですが、今のままでは手がかりがなさすぎます。ですので、まずは「なぜ」ではなく、進路選択時の「どこで」少なくなるのかを整理したいと思います。

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大学に進学するときの大きなプロセスですが下記のように中学⇒高校⇒大学というのがメインのルートです。ちなみにですが大学進学を選ぶ学生の数は東大とか関係なく男子>女子のようです。

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これをベースに東大を狙える子の進路決定のプロセスを下記のように想定します。
①東大が選択肢になるような偏差値の高い高校に進む(=東大を進学先として選ぶことがおかしくない環境へ進学する)
②東大を選択肢として選択する
③受験をして合格する

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1-2 プロセスごとの数字を出して比較する

1-1で決めたプロセスについて、それぞれのプロセスにおけるコンバージョン率を比較することでいつ女子の進路から東大がなくなるのかを同定したいと思います。今回は

①偏差値の高い高校への進学率(=東大を進学先として選ぶことがおかしくない環境へ進学する割合)
②東大受験選択率(=東大を受験先として決める割合)
③東大合格率

の3つの数字を追いかけます。

1-3 ①偏差値の高い高校への進学率

①は東大進学を自分の身近な選択肢として環境に進学する割合を調べます。今回は東大進学を身近に感じる環境を「東大・京大への進学実績がある高校」と定義してその男女の数を比較します。

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というのも偏差値の高い高校の男女比をHPを一つ一つ読んで確認するのは骨が折れるので......
今回のように定義するとたまたま東洋経済の記事にあった画像データに値が使えて検証が楽にできました。(共学は男女比が1:1を想定)

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進学実績をどのように定義するのかは結構難しいので、いったん東大と京大進学者が合わせて6名以上いる高校への進学率を確認してみます(ただ、合格者に浪人生が含まれるか否かはわかりません…。)。すると、男子6.2%、女子4.9%です。有意差までは確認していませんが、女子の方が進学実績のある学校に入りにくいようです。

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もう少し対象を広げて、東大進学実績が2名以上の高校でも見てみるとやはり女子の方が進学割合が低いです。

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もう少し東大への進学実績に注目して、10人以上の進学実績のある学校・2~9名の進学実績のある学校で分けてみます。2~9名での進学実績は大きく変わりませんが、10名以上進学するような高校への進学実績は低そうです。

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簡単に見てみましたが、①を見るに

①偏差値の高い高校への進学率=東大進学を自分の身近な選択肢として考えられる環境への進学率
⇒東大への合格実績がある高校へは、女子のほうがやや入りづらい

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といえそうです。ただいずれの数字も男女差はそこまで大きくはないので高校進学時点での進路選択はあまり大きな要因ではなさそうですね。

1-4 ②東大受験選択率

では高校進学してからの次のプロセスを見てみましょう。この②で調べたいのは①で見ていた偏差値の高い高校で女子は東大受験を選択できているのか?ということです。これも具体的に計算するのは難しいので下記の男女数の傾向に関する仮定を置いてます。
仮定: 東大の合格者が2名以上いる高校の男女数の傾向と全体の傾向が一致する。
※東大進学者全体に占める、東大への合格者が2名以上いる高校出身者の割合は86%

この仮定のもと、受験者の男女数と比較して東大を受験する可能性のある高校生たりの男女の中で東大受験を行った比率を試算します。

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A・・・東大合格者が2名以上いる高校の出身者の数
B・・・Aの傾向が他の合格者にも当てはまるとして、全体の人数に補正した値(1.16=1/0.86倍した値)
C・・・実際の受験者数(出典: 高校生新聞ONLINE「東大入試2020 3010人の合格発表 女子は18.5%、現役は67.2% 合格最低点は低下」
としてB/Cを比較します。すると男子は21%に対して女子は7%と大きな差異が確認できました。

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というわけで、仮定を置いての試算ですが

②東大受験選択率(東大受験を身近に感じられる高校の中で東大を進路として実際に選ぶ割合)
⇒東大受験の選択率は男子が女子の3倍

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といえそうです。男女で3倍も選択率が異なるのは驚きですね。


1-5 ③東大合格率

ここはすごいシンプルですね。受験者数と合格者数から合格率を出しています。有意差に比較には検定ツールを使用しましたが、あまりこの方法に自信がありません。

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2020年、2021年いずれも比較してみますが、男女での有意差はほぼないようです。年や科類によって若干の差異はあるものの概して有意差はない=男女で合格率に差はない。といえそうです。

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③東大合格率
⇒男女の合格率の差に有意差はない

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1-6 ここまでのまとめ

東大合格までのプロセスで比較すると、①、③では大きな差異がない以上、どうやら東大を女子が選択しないことが主な要因になってそうです。
東大の実際の男女比が4:1であることを考えるとすべての要因がここにあるというわけではないですが、東大女子が”減る”原因は進学高に進学した後から進路選択までの間に発生していると考えられそうです。

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2.東大女子はなぜ少ないのか

東大女子が減る段階が分かったので、次は高校進学後、女子が東大受験を選択しない理由はなにか?を考えていきます。これだ!という案があるわけではないので成績要因と成績以外の要因という仮説を設定し、入手できる情報から検証してみます。ここからは直接検証できるデータがないので、関連する記事や論文からそれっぽいことが言えないかを確かめていきます。

H1は簡単に言えば、成績が上がらないので進学先として東大を選ばなくなる(=高校進学後の成績の分布が男女で異なりそれが進路選択に影響を与えているのでは?)という仮説です。
H2は、成績に大きな差異はないけども別の要因で東大を選択しなくなるのでは?という仮説です。

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2-1 仮説検証 H1:大学受験時に女子のほうが成績が悪くなっている

センター試験とか駿台模試のデータがあれば評価できるのではと思ったのですが、入手できるデータがなく、既往の論文を紹介しつつ、こうなのでは?という話をします。

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今回参考にした論文は、Gigazine「科学や数学の分野において男女に成績の差があるのか、160万人の高校生のデータから判明したこととは?」で紹介されている下記の論文です。
【論文】 Gender differences in individual variation in academic grades fail to
fit expected patterns for STEM | Nature Communications 

ちなみに、この論文を紹介した記事として下記もあります。
 Study of 1.6 million grades shows little gender difference in maths
and science at school

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この論文での調査対象は北米のデータで、日本にも同様に当てはまるのか?は怪しいですが、メタ分析も行われているので信頼性は高いです。

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結果だけ要約すると
●STEM教科、非STEM教科ともに平均点は女子のほうが高く、分散は
女子のほうが小さい

ということだそうです。男女で成績の分布が違うというのは確からしいです。

一方で、この論文では、シミュレーションを行っており、男子のほうが分散が大きいことが、女子が大学でSTEMクラスで過小評価されている理由を説
明できるかを確かめました。
結果はNOです。シミュレーションの結果、STEMクラスのトップ10%は男女半々になるそうです。このことから言えることは、STEM分野にいる女性は何かしら自分の能力と関係ないところで過小評価されているということです。

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では日本ではどうなの?というところでいくつか関連する情報を紹介します。


PISAの結果
すごいざっくり説明すると、決して女子の方が成績が低いとは言えなさそうです。

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ちなみに大学4年生時点での男女の成績差を調べた研究でも、女子の方が成績が悪いという結果は観察されなかったようです。むしろ女子の方が成績がいい傾向があるそうです。

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これらを総合するとH1は正しいとは言えなさそうです。

H1:大学受験時に女子のほうが成績が悪くなっている
⇒棄却されそう...?

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2-2 仮説検証 H2:成績に男女差はないものの、何らかの理由で東大受験を選択しない

恐らくこれが原因だと思います。ただ厳密にこちらを調べるには結構大掛かりな追跡研究が必要だと思われますので、例のごとく関連する研究からH2が棄却されるかを探っていきます。

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東大にフォーカスした話でなく一般的にどうか、という話ですが、「進路の男女差の実態とその規定要因」というワーキングペーパーを読んでみましょう。このペーパーでは、中3時点と高1,2年時点の成績と、進学希望や進学状況の様子の関連を見ています。

すると下記のようなことが分かります。
●第一に、女子の場合、成績上位者ですら、男子と比べて四年制大学
への進学率が低いという事実である。
●第二に、女子では中学校 3 年時の成績、すなわち高校ランクに相
当する指標によって、進学先が大きく分かれる傾向にあるのに対
し、男子では成績中下位でも四大進学がもっともメジャーな選択肢
であり、4~5 割 がそうした進路を選択するという事実である。

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つまりどういうことかというと
●成績の良い子の間でも性別が異なることで、違う進学先を選択する
ことがある。
●男子は成績下位でも4大進学希望が半数程度、女子は成績上位でも
短大進学希望者がいる

という傾向があるそうです。また「はじめに」から見ると女子の傾向として
●浪人を忌避する
●自宅からの進学を希望する
が経験的にあるそうです。(ここはデータとしては出てない?)

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またこのペーパーによれば
(1)男女の進路の差は、高 1~2 というかなり早い時期から生じている
こと
(2)女子の中でも、進学選択の仕方が男子に似る高所得家計グループ
と、短大・専各への流出層が多く現れるその他グループという 2 種類
があること
(3)女子により強く現れる進路選択への家庭背景の影響に、学校の進路
指導が一定程度の影響を及ぼし得る可能性

 が言えるそうです。あくまで一般的な話なので(2)がどれだけ進学校に当てはまるのかはわかりません。(3)のように女子を取り囲む環境要因も指摘されています。

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「高校生の進路選択の要因分析」という別のワーキングペーパーに記載されている。男女別進路を決定する際に考慮する点を見てみると、女子の方が男子より
●自宅通学の可能性
●家庭の経済的状況
を気にするそうです。またこのペーパーでは女子の方が、期待収益など大学の価値を高く見ていないことが指摘されています。

ワーキングペーパー「高校生の進路選択の要因分析」より引用
高卒より大卒の方が収入は5から9割以上、さらに2倍以上高いと答
えた者は、男子 24.9% に対して女子は 19.8%とやや少なく、同じ
くらいか4割以下と答えた者は女子の方が多い。また、「大学を出
てもたいして得にならない」と考える者も女子の方がやや多い。これらのことも、女子の進路決定に影響していると見られる。こうした要因が複雑に絡み合って、女子の大学進学率を男子より低くしていると見られる。

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まとめると
●自宅進学の可能性
●家庭の経済的状況
●大学への期待価値
といった一般的な要因から、東大受験を選択しなくなっているのかもしれません。

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H2:成績に男女差はないものの、何らかの理由で東大受験を選択しない
⇒多分これ

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3 まとめ

ずいぶん長くなりました、ここまでで発表は終わりです。まとめると
●東大女子を減らす何かは高校進学から大学の進路選択時までに発生している。
●女子が東大を選ばない要因は学力以外の、要因(経済的状況や、自宅から通えるか、大学への期待価値のようなもの)による。。。かな?

ということです。

4 参考にした記事

発表にあたり下記の記事を参考にさせていただきました。ありがとうございました。

shoko: 東大女子率20%の壁をなぜ突破できないのか
 舞田敏彦: でーたえっせい「大学の選抜度と女子学生比率」

5.最後に

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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