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「新しい」#シロクマ文芸部


「新しいお母さんだよ」
父が私に継母を紹介したのは、私がまだ4歳にも満たない頃だったと思う。
新しい母は美しい人だった。

父がお見合いをする前に私に聞いた。
「どんな人がいい?」
幼かった私は考えた挙げ句に
「うーん、髪の毛をおだんごヘアにしてる人」
と答えた。
何故、そんな答えを出したのか、何故、そんな事を未だに覚えているのか分からない。
ただ継母がお見合いで我が家に初めて来た時

「sanngoちゃんが好きだって言うから、お団子にして来たわよ」

そう言った継母の自信ありげな仕草が、最初から鼻についた。

でも私はまだまだ親の手が必要な幼子で、相手は女盛りの二十代の成人女性だった。どんなに父に
「あの人は嫌!」
と言っても根拠のない私の否定が通るはずがなかった。とんとん拍子に事は運び、父とその人の結婚が決まった。
大好きで観ていたテレビドラマ「義母と娘のブルース」の小さな頃のみゆきの気持ちが痛いほど分かる。私にとっては実母が絶対で、誰が父の妻の座に収まったとしても、反対をして嫌がったと思う。おまけにみゆきと違っていたのは、みゆきの実母は亡くなっていたが、私の実母は生きていて会おうと思えば会える距離に居たことだ。

それでも4歳だった私は継母を嫌々ながら受け入れるしか生きて育っていく術がなかった。
ある日、なかなか懐かない私を連れて継母はバスに乗った。
「隣の市の大きな公園に遊びに行こうね」
あの頃からヲタクで子供らしい遊びをしない娘を気付かったのかもしれないが、4歳の子供が友達も居ない公園で、いつまでも一人で遊べるはずがなかった。私は直ぐに飽きて
「ママ、帰ろうよ」
と駄々をこねた。
家には一人遊びが出来る玩具や大好きな絵本が沢山ある。
「ダメ!こんなに早く帰ったら、私が困るわ」
当時、家には私の祖父母も一緒に住んでいた。継母は義両親の手前を気にしたのだろう。継母は遊び飽きた私とベンチに座って、今度は大きなバッグから色々なお菓子を取り出した。

「sanngoちゃん、お菓子美味しいわよ~」
「いらない!」

ママは、私の本当のママは虫歯になるからって、あんまりお菓子はくれなかった。
無理矢理、口の中に押し込まれたクッキーを私は実母を思い出しながら継母の事も気遣って、泣きながら一枚だけ食べた。

こうして拷問のような公園デビューは、一度きりで幕を閉じた。家に帰ってから、継母が私の悪口を祖父母にしていたが、気にしなかった。
あの日から私は「我が儘で言うことを利かない子」のレッテルを貼られた。

今思えば、私も変わった子供だったが、継母も実は子供の扱いに慣れていなかったのだと思う。
「取り扱い注意」
のレッテルを貼られたまま私は幼稚園に入園した。
誰とも遊ばない。

「だって、みんなこどもでバカだもん」

一人ポツンとジャングルジムや滑り台の上に座って空を眺めているような子供だった。
当時はまだ「自閉症児」や「適応障害」のような言葉さえなかったが、明らかにコミュニケーション能力に欠ける子供だった。
継母は、そんな手をやく娘をだんだんと姑息な手段で意地悪するようになっていった。
私を守ってくれていた祖父母が幼稚園の時に相次いで亡くなった事が要因の一つだが、主な原因は私にあったと今なら理解する事が出来る。

それは継母も私も同じ「女」だったからだ。
父は私自身が感じる程に一人娘の私を溺愛していた。だからだろう、私が成長し「女」に近づくに連れて継母の虐めはエスカレートしていった。
継母は父の愛情を一人占めしたかったのだと思う。
綺麗に装う継母の傍らで私はいつも親戚の「おさがり」や古い同じ服ばかりを着せられていた。



以前にも私は継母の虐めを小説仕立てで書いている。


この中に出てくる甘やかされて育った私の腹違いの弟は覚醒剤所持で逮捕された。種違いの妹は統合失調症で現在も闘病中だ(こちらもまだ執筆途中だが書いている)
そんな絶望的な私を救ってくれたのが、亡くなった主人だった。
継母の事を話すと主人は笑って言った。

「sannちゃんが、愛してあげればいい」
「はぁ?」
「sannちゃんが愛さなかったら、向こうも愛してくれないよ」
答えはシンプルで簡単だったのかもしれない。

私が結婚して家を出たのも手伝ったとは思うが、それ以来、継母と私の関係は徐々に変わっていった。今では、継母は私の事を「自慢の娘」だと人に話すようになった。私も継母が居てくれたから、ここまで大きくなれたと心から感謝している。


「新しいお母さん」は長い長い時を経て、今では私の良き理解者で味方になってくれている。かなりくたびれた「古いお母さん」になっちゃったから、もっともっと愛して労らなきゃね、お母さん。


「義母と娘のブルース」のように分かり合って親娘になるには時間がかかる。でも一度築いた親娘の信頼関係という絆は絶対だと私は信じている。






こちらの企画に参加させて頂きました。
小牧幸助さん、よろしくお願いします。

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