2.3 研究課題 | さのかずや修士論文

こうした先行事例をもとに、本研究の主張と取り組みをより具体的に提示するため、2つの研究課題を設定する。

・インターネット上(オンライン)からメディアを通じて場を形成し、オンラインでクリエイティブ・コミュニティを形成することにより、既存(オフライン)の何らかのテーマに紐付いたコミュニティに意図的な影響を及ぼすことは可能か?
・この「何らかのテーマ」、つまり既存のコミュニティを「特定の地域」(今回は北海道オホーツク海側地域)に関するものとして設定し、この課題の実践を通して、地域に「第三の柱」形成に向かう影響を及ぼすことが可能か?

まず1つ目の研究課題は、オンラインでクリエイティブ・コミュニティを形成することにより、既存のコミュニティに影響を与えていくことが可能なのかを考察することである。これは主に2.2.2で触れた、オンラインのコミュニティとオフラインのコミュニティが交わり合うより、その活動がより活性化される、という点に関係する。前述の「東京だけが加速している」という現象は、インターネットを活用するデジタルレジデントたちが東京に集合していることによって起こるものであり、自然発生的なものである。しかしクリエイティブな場にクリエイティブな人たちが集まる、というフロリダの考え方に則ると、オンライン・オフラインに関わらず、クリエイティブな場を形成することができれば、そのテーマに興味を持ったクリエイティブ・クラスたちが集合するのではないかと考えられる。もちろん、オンラインの場の場合はデジタルレジデントたちを中心にその場に関係的に・日常的に使用するメディア的に近い人から、オフラインの場の場合はそこに地理的に近い人たちから集合することになるだろう。またフロリダの論はクリエイティブ・クラスがクリエイティブな都市に集合する、という既に起こった現象の説明であり、どのように起こすかという方法を説明しているわけではない。その点で、クリエイティブな場をつくることによってクリエイティブ・クラスを人為的に集合させることを目指す取り組みは新規性のあるものだといえる。また、従来オフラインで行われていたような取り組みをオンラインで行うことに関する研究は既に多く行われているが、オンラインでつくられたコミュニティがオフラインのコミュニティに影響を与えるということは、2017年1月現在、研究として体系的に行われているものではない。そうした点でも、本研究はこの研究課題を通して今後に向けた可能性を提示できるものであると考える。

2つ目の課題は、こうした取り組みを特定の地域に関するものとして行うことが可能なのか考察することである。こうした「特定のテーマに沿ったクリエイティブな場をつくる」という取り組みは、あらゆるコミュニティがあらゆる場所・あらゆるテーマに関して形成されるように、あらゆるテーマに対して適応可能であり、オンライン/オフラインのどちらに関しても適応可能であると考えられる。今回はこれを「特定の地域」に関して、特に筆者の故郷である北海道オホーツク海側地域について設定するものとする。特定の地域としてこの地域を選ぶ理由は、2.2.2で述べたように、東京には既に音楽など多くの形でオンラインとオフラインが絡み合うコミュニティが形成されていること、それが地方都市にも広がりつつあることなどを踏まえ、さらにローカルな土地ではどのような可能性があるのかを検証することには新規性があると考えたこと、そして筆者が関わりが深く、現時点でもある程度の人脈があり、未だに実家があることなどから活動が比較的容易であること、客観的に見てこの地域が非常に絶望的な状況であること、それにもかかわらずこの地域で暮らす人々には何も打つ手がないこと、そして何より、筆者が「この地域をなんとかしたい」と根源的なモチベーションを持つことができる場所であることなどが挙げられる。

インターネット上に形成するクリエイティブな場、そしてクリエイティブ・コミュニティを通して地域に与える「第三の柱」形成に向かう影響に関して、筆者が期待することは、この地域に関して「弱い絆」で繋がったクリエイティブ・コミュニティが形成されることにより、お互いに必要な時に手を貸しあう関係が生まれ、地域全体のクリエイティビティが向上することである。

具体的には、第一章で述べたような、地域に「産婦人科医が足りない」という課題があるとして、良質なデザインができる人がいるとすると、本当にターゲットにアプローチできる良質な求人広告を出すことができる可能性が高まる。更に広告やマーケティングのノウハウがある人、産婦人科医や医局の内情に詳しい人、などがコミュニティにいれば、これまでできなかった本質的な課題解決に近づく多くのことができるようになると考えられる。

こうした関係は通常、必要に応じてそれぞれの「業者」を探し、お金を払って受発注の関係が生まれることにより形成されるものであるが、共通の意志を持ったコミュニティ、ある程度顔の知れた関係、ある程度信頼のおける関係がある人が相手である方が、制作がスムーズに進み、モチベーション高く、より良いものが生まれる可能性が高いと考える。これは特に知見が少なく、都会の人に騙されることに怯えている地方においては特に重要な点であると考えられる。

またこうした直近の課題、狭い意味での地域課題のみならず、「地域の産業を育てていく」といった広い意味での地域課題に関してもこれは有効であると考えられる。地域に良質なデザインができる人がいて、良質な産品を作っている人がいるとすると、良質なパッケージデザインをした良質な産品を地域から販売することが可能になるだろう。更に国内外に販路を持っている人、販売戦略を立てられる人、ウェブサイトを制作できる人、などがコミュニティにいれば、これまでできなかった多くのことができるようになると考えられる。

つまりこれは、地域が抱えている問題に対応する能力が向上するということでもあり、地域のクリエイティビティを向上させることでもある。まさに川喜田が述べた通り、創造=問題解決となるのである。

このように本研究では、北海道オホーツク海側地域に関して、インターネット上を中心にクリエイティブ・コミュニティを形成することを目指し、そのための場としてウェブメディア「オホーツク島」の制作を行った。メディア制作とコミュニティ形成を通して、実際にオフラインのコミュニティ——ここでは北海道オホーツク海側地域に既に存在する、あるいはこれから生まれる地域コミュニティ——にどのように影響を与えていくか、それが「第三の柱」、つまり企業でも行政でもないセクターとなり、企業や行政と同等の影響力を持ちうるものになるか、その兆しがあるかどうかを検証していく。第3章は事前調査、および「オホーツク島」の具体的な制作課程について説明する。第4章では「オホーツク島」公開後の具体的な運営状況、その反響などを踏まえ、参与観察と事後調査をもとに研究課題を検証し、今後どのようなアプローチが可能なのかを考察する。


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さのかずや

Freelance BizDev, Technologist / 新規事業と技術演出 http://sanokazuya0306.com

さのかずや 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修士論文

さのかずやの情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了時の修士論文「特定の地域にまつわるクリエイティブ・コミュニティ形成のためのメディアの可能性」(2017) を全文掲載しています。
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