1.2.2 複数人で何かをつくることの意味 | さのかずや修士論文

メディアを通じてコミュニティを形成することは、そのコミュニティを通じて協力者を募り、複数人で何かを制作するということを目指しているものである。筆者は複数人で何かをつくることの意味について、3つの利点を提示する。

1つ目は、個人では思いつかなかったアイデアが生まれ、個人では難しかった高度なことができるようになるという点である。

アメリカの経営学者であるヘンリー・チェスブロウ(2006)は、「知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して社内イノベーションを加速するとともに、イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大する」ための「オープンイノベーション」という考え方を提唱している。日本でも大阪ガスなどを中心にこの考え方を取り入れてきた企業が数多くあり、社外と協力して開発した商品・サービスなどを社内で事業化するといった手法に有効性が見出され、企業や研究機関、大学や地方自治体など既に日本全国で様々な形で実施されている。これは企業組織の考え方として提唱されているものであるが、個人や非営利な組織にとっても同様のことがいえるだろう。

2010年代前半に、提示された課題に対し、決められた時間内で、自分たちのスキルを使って解決することを目指す「ハッカソン」という形態のイベントが流行したが、このハッカソンの特性について編集者・ライターの大内孝子(2015)は、さまざまなスキルを持つ人達が1つのチームを組むことにより、よりおもしろいもの、より有用なものを短い期間で開発し、世に出すことができる、新しい価値を生み出すために非常に効果的な手段であり、オープンイノベーションの動きとも呼応して注目されるようになったと述べている。

2つ目は、ものをつくりながら合意形成ができていくという点である。一般に、自由度の高い課題に対する制作物は、その形態を確定させるのが難しい。広告会社など多くの企業組織では、自由度の高い課題に対する制作物の決定権は1人の責任者(広告の場合はクリエイティブ・ディレクターと呼ばれる人であることが多い)に委ねられる。しかしこれはミンツバーグがいうところの「民間セクター」に限ったものであり、「行政セクター」や「多元セクター」においては(あるいは、責任者が不在の「民間セクター」においても)一般に1人の責任者に決定権が集中することが多くないため、合意形成が行われにくい。そうした合意形成が行われないままに、あるいは様々な主張が取り入れられた結果主張が不明瞭になってしまった状態で、制作物が世に出ていくことで、その制作物にが誰に向けられているどういうメッセージなのかわかりにくくなり、その効果は決定権者によって意思を持って設計された場合に比べて大幅に薄れる。しかし制作側の主張はすべて盛り込まれて形になっているので、全く効果がなくても制作した側は満足していることが多い。これは筆者の地元地域である北海道遠軽町において起こったことである(図)。遠軽町では、役場内でデザインが上手とされる保健福祉課の職員の方がポスターを制作し、およそ700万円をかけて電車広告として出稿を行った。このポスターによって得られた定量的な成果は、実際の取材には至らなかったテレビ局からの問い合わせと、研究で取り上げたいという医学系の学生からの2件の問い合わせのみであったという。

図 遠軽厚生病院の医師募集広告
(出典:facebookページ 遠軽町保健福祉課(げんき21)

例えばハッカソンのように複数人でアイデアを出し合い、期限までにチームとしてアウトプットを出す必要があれば、参加者のリソースが多く割かれ、参加者はアウトプットに熱意や責任を持たざるを得なくなる。そうすると多くの場合そのアウトプットは、なんとなく自分たちのやりたいことを実現し、やったこと・作ったことで満足するよりも、本当に効果がある形態を追求する方向に向かうと考えられる。そしてそのアウトプットを利用する人(たとえば地域課題に対するものの場合、そのアウトプットを利用する地域の人)も参加者(制作者)の熱意や責任を感じ取り、それがアウトプットそのものの説得力につながる。そのため、企業組織のように1人の責任者がいなかったとしても、そのアウトプットは熱意と責任の伴ったものになり、受容者にも受け入れられやすくなると筆者は考える。

3つ目は、制作物のアウトプットが特定のコミュニティに向けたものである場合、見知らぬ誰かが作ったものよりも友人や知人が作ったものであるほうが愛着が湧き、説得力が出るという点である。例えば、少しものづくりからは離れるが、2017年現在、1つのクラブイベントに20組近いDJが出演することがごく当たり前になっていたり、一日に複数会場を使って数十組のバンドが出演する「サーキット」と呼ばれる形式の音楽イベントが各地で行われたりなど、「友人」のコミュニティを無数につなぎ合わせることによってイベントを成立させることが多くある。これらは第二章でも詳しく述べるが、インターネットを介して無数のコミュニティが発生している現代において、このごく近しい人が作ったものに対する愛着の効果は無視できないものであると考える。

これらの利点は、インターネットを始めとする情報環境の変化により、情報が様々な形で流通するようになったこと、離れた場所に住んでいてもある程度の共同作業が可能になったことなどの要因と絡み合っており、2017年時点での環境において可能なことを語ることは十分な意義があると筆者は考えている。


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さのかずや

Freelance BizDev, Technologist / 新規事業と技術演出 http://sanokazuya0306.com

さのかずや 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修士論文

さのかずやの情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了時の修士論文「特定の地域にまつわるクリエイティブ・コミュニティ形成のためのメディアの可能性」(2017) を全文掲載しています。
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