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「日本軍兵士」を読んで

先週の月曜日の夜、激しい悪寒に襲われ、そのまま撃沈。1週間ほど流行の波てやつに乗ってきた。「インフルエンザ」初体験てやつ。
翌火曜日より戦国の武将真田信繁「真田丸」よろしく徳川(妻)から蟄居を命じられ、九度山(書斎)へ幽閉の身となり、真田紐を編んで(読書)数日を過ごしたのである。
今週初めより出社。初日などはインフル明けおじさん実にオドオドと、一応マスクなどして、職場友人への態度はまことに控えめ、「いやもうだいじょうぶですから、ほんと」。対する職場同僚からの厳し~いジョークを切り返すのがやっとという一日を送り、でもその翌日からは、現地人の面通しが終わった内地引き上げ直前の兵隊さんそのままに「天に代わりて不義を討つう~忠勇無双の我が兵は~」など変な軍歌を鼻歌に元気いっぱい、ついでに胸いっぱい呼吸などし、あー健康って、ほんと、いい。一片の曇りもないこの四肢、ヤッホー。
さて昼休みに友人と蟄居中の生活などひとしきり話したあと、その友人ポツリ曰わく
「でも文化的には充実していた1週間だったでしょ」

読みかけの「東京裁判」日暮吉延 をまず読了。その後新書を数冊読んだ。
「日本軍兵士」吉田裕
「日本のいちばん長い夏」半藤一利
「戦争を知らない人のための靖国問題」上坂冬子

中でも、隠れたベストセラー「日本軍兵士」吉田裕(中公新書)は、太平洋戦争、ガダルカナル島戦以降に南洋の島嶼へ置き去りにされた兵士や、補給のないまま行軍させられる打通作戦時の兵士の実態を可視化している。「皇国日本の兵士」とは名ばかり、劣悪と言うより悲惨な食住環境下にあった兵士の飢餓に倒れていく実態を、多くの証言引用と数値化から実体化させていて、読んでいる私を唸らせる。戦死、戦病死、合わせて230万余と言われる還らざる兵士の、正に6,7割は「餓死そのもの、または飢餓、栄養失調による病死、悲観による自決」、つまり「広義の餓死」であったといいう実態を知るにつけ、こうして飽食に腹をさすりつつチョコをかじりコーヒーすすりながら、寝床にゴロリと横になって読んでいる自分が恥ずかしくなるような、あまりに切ない気持ちになってしまう。

「戦争はいけない」と言うけれどその実、どうして戦争はいけないのかと問われると、即答できる一言は「人を殺すから」だけだった。でもこうしてわずか70と数年前、100万余の父や祖父が、徒手空拳、戦闘ではなくて、マラリアや赤痢に冒されながら飢餓の内に死んでいった事実をこうして読み、戦争が恐ろしいのは単に「殺し殺される構図」だけではない事を知って、私は愕然とする。靖国神社に眠る父祖の英霊たちは、本殿の奥の奥から、飽満な時代を謳歌している私達に向けて、「本当は」何を訴えているのだろう、ほんの少しだけれど聞こえて来るような気がする。

追伸  写真は、大人になって東京へ行ってしまった息子の部屋を占拠した、私の書斎。お子ちゃま勉強机をそのまま使っているのね。