見出し画像

空目(そらめ)

妻「あんた、夕方になったら洗濯物、とりこんでおいてよ!」
私「ふゎーーい(はーい)」
会社に出勤する妻に仕事を言いつけられて、自宅謹慎中の私は、イヤそうな返事を返す。
妻はなおも、「あんた、ついでに○○病院に行って診断書を書いて貰う申請出してきてよ」
私「えー、やだお」
妻「なにそれ? 申請の紙を書いて総合受付に出せといってるだけじゃん」
妻の目は、既にソフトバンクCMの高嶋ちさ子となっている。
対して私と言えば、心の中で「このばかあま、ちょうしこきやがって」と汚い言葉を吐いてみるが、所詮ヒモ野郎。私の口から出てくる言葉は、あらあら不思議、
私「うん、がんばる」
妻「取り込んだ洗濯物、たたんでおいてよ」
私「もっと言いつけてぇ」
私「だから昼飯代置いてってぇ、カネないんだよ」
言っているうちに何だかガチなヒモ男に成り下がってきて、日頃の亭主関白ドSがあれよあれよという間に、急速に萎んでしまって、完全に主従が入れ替わり、そうなると私は女に支配され喜びを見いだすという、こっそりと社会に潜在するドM男たちの心情も、わからんではない気分になってくる。

さて私はそうは言っても昼間、十分にヒマなのと天気も良く春の息吹も感じられる今日なので、もっと言うと他にすることもないので、散歩に出てみた。
いつもは自家用車で走り去る近くの住宅や商店街も、こうして歩いて路上観察などしてみると、いろんな事がわかるのである。こんな田舎町でも最近の女子は洗濯物を外に干さなくなったのか、いや別に洗濯物ウォッチングを楽しんでいる訳じゃあないけどね、アパートの軒下の物干し場も、野暮ったいおっさんの作業衣がだらしなく並べてあるだけで、3月終わりの町は極めて殺風景。

そういえば以前、独身の頃、ひとり寂しくアパート住まいをしていた、夏のある日の情景が思い出される。
ふと窓を開けると、隣の夫婦が住む部屋の外に洗濯物が干されてあったのだが、そこにはダンナのワイシャツに奥さんのパンストが絡み合っていて、風が吹く度に絡み具合を変え、ワイシャツの首にパンストの股が押し付けられていた。若い男女がくりなすイヤらしい行為を象徴するかのようなその光景に、私はぐらぐらとめまいがしてしまったのだ。そんな激しく嫉妬した覚えが、今も私の脳裏に強烈に焼き付いているのである。

じいさんばあさんの集会が毎日開かれているファストフード店、スーパーマーケットの駐車場にはもみじマークの車が溢れ、介護施設の送迎車が行き交う、そんな昼の田舎町。
などと、そんななかで薬局の前を過ぎたとき、そこのガラス戸に貼り付けてあるポスターに目を奪われた。ハッとしたのだ。

「大人のビキニ専門店」

あやしい、極めてあやしいのだ。
もしかしてハワイのワイキキや湘南の娘さんたちが、最近こぞって着用しているとかいないとかの、お尻に少し食い込んでいるブラジリアンビキニというものか!えっ?まさかもっとすごいビキニ?なんと言っても「オ、ト、ナ」ですから。
気になる。おじさんは激しく鼻の穴を広げてしまうのだ。
いや、よく見よう。よーく見ると

大人のニキビ専門店

空耳ならぬ「空目(そらめ)」という現象。ああ、びっくりした。安心しました。あらぬ想像をしてしまうところでした。

同じように、以前だけど、とあるお米屋さんの前を通ったときのこと。
店の前には立て看板が置かれている。長方形のパイプでできた枠の中に、縦長の看板がはめ込まれていて、風に吹かれてくるくるとわまっているのだ。しかもこの看板は縦ににひらがなで「おこめ」と書かれていた。この時も看板が回っているせいか「空目」をしてしまったのだが、

、、、やめておこう。これ以上は、よくない!

路上観察は面白いけれど、空耳ならぬ空目を、頻繁に発症してしまっていて、自分、最近やばい。赤瀬川原平先生!私はどうかしているんでしょうか。