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あれから一年、いろいろなことがあったような気もするし、なーんにもなかったような気もする。

とりあえず、あのページがきっかけで、あいつのファンだという人と言葉を交わしたり、2chに晒されたり(意図せずあの文章を読んでキモッ!と思った人に対しては素直にごめんなさいという気持ちがある)、あいつの親戚に特定されたりした(SNS社会すごい)。
あとは就活をやめたり、通院を再開してくすりを飲んだり、嫌だったことが大丈夫になったり、ミシンを買ったり、少しずつ自分の意思が分かってきたり、決闘……まあ、そうだな。
いろいろなことがあったんだと思う。

あのページに書いた夢や目標なんて所詮は居場所も親友もいっぺんに失って全力で現実から目を背けるしかやることがなかったメンヘラの妄言で、いくつかの幸運や成長とひきかえに、一年前の妄言はほとんどが過去のものとして押し流されていってしまった。
だから今はあのページがかなり恥ずかしい。正直、書き直したい。でも、それはそれで黒歴史としてそのままにしておこう。
今のわたしはそれなりに改善したことも、全然変われていなくていらいらすることもあるけど、たとえば六年越しの夢が叶ったり、総じて以前より楽しい生活が送れるようになっていて(なってるよね!?)、悪くない人生に向けてちょっとずつ進んでいると思う。少なくとも、その意思を持つことができている。
ただ、相変わらずふとした瞬間にあいつの死に疑問を持ってしまう(あのとき一緒にパフェを食べたのになんでいないんだ?)し、定期的にあいつの夢に苛まれている。わたしは思い人が素直に夢に出てくる性質らしい。
たとえば夢の中であいつと話しても、そこだけ夢と現実がごっちゃになって、あれ?こいつはいないんだっけ?死んだような、いやでも違うな?あ、このあと死んじゃうんだよな?みたいに混乱してしまう。
周りの人を巻き込んで大騒ぎしてあいつを探す夢や、あいつがもういないことをわたしだけが知っている夢。だんだん、夢の中でもあいつに会えなくなってきた。寝起きは大抵、頭がぼうっとして、あいつはもういないんだっけ?でもいないってどういう意味だろう?なんて考えている。
たぶん、そういうものなのだろう。何度も何度も形を変えて、その事実を復習しながら、残されたひとびとは彼の死に慣れていくのだ。

一張羅、というより、お前他に上着持ってないんじゃねえのといったほうが近い、それくらいあいつがよく着ていたライダースジャケットがあって(最後に会ったときあいつはチェスターコートを着ていたのでお前他の上着も持ってたのかと驚いたんだぞ)、あいつの家を訪ねた時に出してきてくれたので、他のおみや(通販のTシャツの在庫も形見分けというんだろうか?)と共に頂いてきた。

やわらかいラムレザーの右腕にはとんでもなく大きな鉤裂きがあったし、両のポケットにはガムのごみがたくさん入っていてふざけんなと思ったけど、まあいいかと思った。
サイズ感もへったくれもあったものではないこのぶかぶかで重たいジャケットを、だいたい三日に一度くらいのペースで着て、わたしは昨年の冬を過ごした。あいつのお気に入りのジャケットをわたしが常用しているという事実をあいつが知ったらそれこそ鳥肌ものだろうと思うが、それくらいの嫌がらせは許してほしい。この時期にちょうどいい上着持ってないからなんて言い訳をしても、僅かな繋がりも身につけたいし、ポケットの中のごみが捨てられない。たぶん、それがわたしの本音なのだ。

チビ(でかい)はとても懐っこくて、うちの狂犬(猫)とは比べ物にならないほど大人しかった。タビ(人見知り)もしばらくすると出てきてくれた。

↑うちの狂犬(猫)

DSM-Ⅳでは死別反応の目安は二ヶ月だったか。
どんなに大切な人が亡くなっても、わたしたちの毎日は続く。ごはんを作ったら洗い物をしなければならないし、資源ごみを出すために段ボールを畳んでまとめなければならない。好きな漫画の新刊が発売されるし、お仕事に行ってお金をもらって生きていく。誰かの死を、日常の中に取り込んで、薄めていかなければならない。
たぶんわたしも、あーたさんも、わたしよりもずっとあいつと付き合いの長い第一次産業に従事している彼も、そしてあなたも、みんなそうしているし、これからもそうしていくのだ。
どんなに薄まっても、消えちゃうことはないんだろうと思うけど、せっかくだから次の一年も、その先も、この重たくて面倒な荷物を、出したり仕舞ったり、ぼろぼろにしながら、大事に持っていこうと思う。

すっごい面白い漫画を見つけたよ。
自慢したいこともできたよ。
携帯買ってLINEが使えるようになったよ。
なーんてね。
今日はせっかくのお休みだから、大切な人に会おう。あいつの話をちょっとだけしよう。
ファンじゃないから音楽は聴かないけどね。

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