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#18 南房総で停電になったときのこと②

買い物に出ようと、息子と一緒に階段で1階に降りると、管理人さんの奥さまが割れた瓦の片付けをしている。「買い物に行く」と話すと、「コンビニもスーパーもドラッグストアも、お店はほぼ閉まっているみたいよ。館山の大きな店ならやってるかも」とのこと。1日中、マンションを出入りする人と会話を交わしている管理人さん家族は、いろんな人から地域の最新情報を得ているためか、情報のハブのようになっていて、マンション住民の安否はもちろん、あの道路が通行止めとか、周囲の情報にやたら詳しい。その後もいろいろ教えてもらえて心強かった。私たちは、教えてもらった通り、とりあえず館山方面を目指してみることにした。

近所の人と連携し、情報交換しよう!情報のハブになる人を見つけるといいかも。

ちょっと車で走ってみたら、車は結構走っているのに、信号が全て止まっていることにまずびっくり。交差点ではあうんの呼吸で右折したり左折したり。不思議とあまり混乱はせず、スピードもゆっくりで、交差点では「どーぞどーぞ」と丁寧な譲り合いが生まれていて、運転はそれほど怖くなかった。

ただ、あちこちで屋根の瓦が崩れていたり、ガラスが割れていたり、看板が吹き飛ばされていたり、ビニールハウスが骨組みだけになっていたりするのが目に入り、台風の凄まじさに恐怖を覚えた。「全く無傷だった」という家は、ほとんど無かったのじゃないかと思う。営業しているお店はなく、コンビニも閉まっていた。が、なぜかコメリというホームセンターの前に車が数台止まっているのを発見。行ってみると、店の前で数人が行列している。「レジも動かず、電球もつかないから、人数制限して少しずつ店に入れている」とのことで、私と息子も列に並んでみることに。

私の前に並んでいた人は、屋根が飛ばされたからとブルーシートとトタンを買いにきていた。農家の方のようで、ビニールハウスがめちゃめちゃになり、「もう、百姓やめるっぺ」と力なく笑って話していた。私の後ろのおばさまは、私と一緒で「停電だから、カセットコンロとボンベを買いに来た」と話していた。みんな、列に並びながら、「●●さんの家の屋根が飛ばされた」「●●さんの家は木が倒れてつぶれたらしい」など、台風被害の話をしていた。

いよいよ私の番が来て、店内に。電気がついてないので、薄暗く、奥の方は懐中電灯が欲しいくらい。店員さんがついてくれて、「カセットコンロが欲しいです」というと、売り場に案内してくれる。とりあえず、カセットコンロとボンベと電池式のランタンと電池、カップラーメン数個とトイレットペーパーをかごに入れてレジへ。レジでは、一つ一つ店員さんが商品のJANコードを読み上げ、それをもう一人のレジ係の人が手書きでメモし、値段は電卓でポチポチ計算。開きっぱなしのレジからお釣りをもらう、というアナログ状態。一人の会計にも結構時間と手間がかかり、こんな時に息子が「ぷっちょ」などをついで買いしているのを、申し訳なく思った。

★大規模停電のときは、クレジットカードも電子マネーも使えない!コンビニでお金をおろすこともできない。非常用に現金を用意しておこう!

運良く必要なものを買えたので、ほっとして家に帰り、手に入れたばかりのカセットコンロを使って、お昼ご飯を用意。まずは冷蔵庫の生ものを消費しなきゃ!と、鶏肉をガーリックソテーにし、冷凍ご飯を自然解凍し、炒めてガーリックライスにし、作り置きしていたサラダなどと一緒に食べる。いつものランチよりも豪華で、ちょっとしたキャンプ気分。クーラーがつけられないので、室内がものすごく暑かったが、朝のうちに冷凍庫の氷を家にある断熱のマイボトルに移しておき、お茶を入れておいたので、1日目はちびちびと冷たい飲み物を飲むことができた。

★(暑い時の停電では)氷が解ける前にマイボトル(魔法瓶)に入れておこう!でも、冷蔵庫・冷凍庫はなるべく開けないのが正解

午後には義父母から「暑くて家にいられないので、ずっと車の中で涼んでいる。せっかくだから、いただいた梅干しとらっきょうを届けにそちらに行くわ」と、災害時とは思えないのんびりした電話がかかってきた。実際、「家の中は暑いしテレビも見れないし暇だから…」と車に避難していた高齢者は多かったと思う。昼過ぎに訪ねてきてくれたものの、10階まで階段で上がってもらうわけにはいかないので、1階ロビーで「どこがどうなってた」など、台風被害のことをあれこれ話した。

不思議なのは、初日の時点では、不安や危機感がそこまで大きくなかったこと。他の地域は分からないが、少なくとも私の周りはそうだった。停電でテレビも見られないうえ、ネットニュースでも特に報道されないので、被害の深刻さがよく分かっていなかったこともあるが、初日は、みんな自分のことでいっぱいいっぱいだったのだと思う。自分の家や車の壊れたところの応急処置をしたり、散乱した瓦や飛んできたゴミを片付けたり、離れたところにいる家族や知人の安否を確かめたり、停電の中、お昼ご飯、夜ご飯、お風呂をどうするかを考えたりしていて、これから先のことや、他の地域のことや被害の大きさについて気にかける余裕すらなかったのだと思う。

また、「停電はそう長くは続かないだろう」という思い込みみたいなのもあった。私自身、これまで、何日も続くような停電なんて経験したことがなかったし、なぜ停電になっているのかも、被害の深刻さもわからなかったので、「まあそのうち復旧するだろう」と楽観的に考えていたのだ。

というわけで、窓もドアも開けっぱなしにしていてもまだ蒸し暑い家の中で、電気を待ちわびながら、パソコンを使わずできる仕事を少ししていたら、いつの間にか夕方に…

「やばい!日が暮れる!暗くなる前に夜ご飯つくらなきゃ!」


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