リンゴ産人事件

「どちらか聞きたいですか?」

私のお腹にエコーを当てながら、助産婦は言った。"どちらか"というのは赤ちゃんの性別のことだ。

妊娠24週を過ぎると、赤ちゃんの性別がエコー検査で確認できるようになる。今日の検診で、性別が判明するかもしれないことは承知の助だ。
知りたいような知りたくないような、なんとも言えない気持ちもあったが、それも昨日吹き飛ばして覚悟して来た。

「聞きます!」

すると助産婦は、エコーを当てる部位をぐねりと微妙に変えながら、ある位置を見つけ出して言った。

「女の子...かなぁ...?」

なんだかスッキリしない言い方が気になったが、股の部分にワレメが確認できたので、どうやら女の子らしかった。

助産婦は、カーソルでワレメを指しながら、赤ちゃんの体についてあれやこれやと親切に説明してくれた。
しかし、私はモニターに映し出されるワレメにギョッとしてしまい、助産婦の話があまり頭に入ってこなかった。

わが子とは言え、まだ赤ちゃんとは言え、直視してはなんだか悪い気がした。産後、おしめを替える度に見るのだし、親だし、そんなことも言ってられないのだが、わが子が恥ずかしい想いをしているのではと思うと気が気じゃなかった。

まだちんちんの方が見れた。ちんちんは、はなから出てるものだし、弟のおしめもよく替えていたし、見ることに少しは免疫がある。それに、なんかポップで笑える。
それに比べて、ワレメは自分の以外あまり見る機会がないし、そもそも自分のだって見ないし、触れてはいけないものという気がする。全然ポップじゃないし、笑えない。

そんなものを今、人に見られていることに、どうかわが子が気づきませんように。どうかわが子にまだ羞恥心がありませんように。

とそこへ、「どうですか〜?」と言いながら、隣の診察室から先生が様子を見に来た。ちなみに先生は男である。

待って!今、わが子のワレメが・・・!という私の心の焦りも甲斐なく、先生はモニターをじっくり見てから「女の子だね〜!順調だね!いいねいいね〜」と言った。
本来なら喜ばしいことなのかもしれないが、わが子の操(?)を守ってやれなかった無念を演歌にのせて唄いあげたい気分であった。

しかし、よく考えてみれば、内診の度に、散々自分のワレメを見せているのだ。というかよく考えなくても、先生は医者である。

ノーカウント!

と、私の頭の中のワレメ騒動が落ち着いたと思ったら、先生が隣の診察室に戻っていった。しかしその去り際に気になる一言を残したのである。

「これから生えてくるかもよ〜」

えっ!?ちょっと待ってどういうこと!?生えてくる?そんなことがあるの?ていうかそれ言って行っちゃうの?

先生の言葉が私の中で木霊する。

「生えてくるかもよ〜」
「「生えてくるかもよ〜」」
「「「生えてくるかもよ〜」」」
「「「生えてくるかもよ〜」」」」

そういえば、ちんちんが劣化してワレメになるのではなく、あとからちんちんが付くのだと聞いたことがある。もしかして、わが子もこれからちんちんが生えて、男の子になるのかもしれない。

そうでなくても、赤ちゃんの体勢や角度だったりで、エコーで見えづらかったり見間違えたりすることもあるらしい。ずっと女の子だと思っていたら、産んでビックリ男の子ということも、その逆もあると聞く。

その夜。

「どっちか聞いた?」

ゲゲはワクワクと待ち構えていた。今日の検診で、赤ちゃんの性別を聞いてくると約束していたのだ。

「女の子...かなぁ...?」

私はハッキリしない言い方で答えると、貰ったエコー写真をゲゲに手渡した。写真だとワレメはよくわからなかった。

一応ここが股の部分で、これがワレメなんだけど、と、助産婦から聞いたことをうろ覚えで説明をした。
ゲゲはわかったようなわからないようなというヘンテコな顔で、しばらくエコー写真とにらめっこした。

それから、「女の子かぁ〜!へへへ!女の子かぁ〜!」と大変喜んだ。そんなゲゲを見て私は、「きっとこの人は、男の子でも同じように喜んぶんだろう」と思った。

1ヶ月後。

次の検診でも、わが子の股にはワレメが見られた。どうやらちんちんが生えてくる気配はなさそうである。

このワレメ、モンローリップだのコーヒー豆だのと呼ばれるらしい。セックスシンボルとは言え、自分の唇をワレメに例えられるとはマリリンモンローも思ってもみなかっただろう。赤ちゃんのワレメなんて綺麗でかわいいものだが、他になかったのかと思う。

ワレメ以外に、足や顔もハッキリと確認できるようになってきた。300ミリ程度の小さな体だが、ちゃんとヒトっぽい。
ついこの間までは、まんじゅうのような形をしていたのに、いつの間にかこんなに成長をしている。
お腹の中にいるはずなのに、そんな気配など微塵も感じないが、こっそりやることはやっているらしい。

赤ちゃんの成長や動きを感じる度に、私はだんだんと自分が母になっていくことを実感する。それはとても喜ばしいことだ。だけど不安が顔を覗かせる時もある。
そんな時はエコー写真を見るのがいい。私たちの小さなモンローはいつだって、口紅もつけないで微笑んでくれる。

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リリス

十月十日道中膝栗毛

妊娠発覚から出産まで 山あり谷あり 十月十日の旅記録
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