見出し画像

森の生活と美しい文章

前に、友達から「できるできないとか、全部とっぱらって、どんな生活がしたい?」と聞かれたときに、「森のなかで、サリンジャーみたいに誰にも会わずに、小説をひたすら書いて街に送る。街からは手紙と豊富な物資が届けられて、何不自由ない生活をしている。ときどきなら、遊びに来てもいいよ」と言った。そのとき、隠遁生活をしているというサリンジャーのことと、堀辰雄の「風立ちぬ」を思い出していた。(ジブリじゃなくて。)

その後、ロハスの提唱者として有名なヘンリー・D・ソローの「森の生活」を読んだ。今では世間での響きとしては、だいぶロハスの意味合いが変わってしまったけど、「森の生活」は刺激的で面白かった。森でどういう風に生活するか、という内容ではなくて、「生活」を見直すための一種の実験として「森で生活してみた」という感じが強い。(がっかりしたのは、森の生活を3年ぐらいしたら、ソローは街に戻ってきているのだ)「人の暮らしとは」「より良い暮らしとは」を客観的に考えてみたい、というソローの若き日の模索の日々です。新訳の今泉吉晴さんをおすすめします。

そこで、一度感化されてしまったので、私の「森の生活」の妄想がスタートする。

もちろん、この時代なので、インターネットは整備されている。家はロッジ風だよね。でも簡素。冷暖房設備もある。トイレも水洗。だけどとにかく簡素で、物はほとんどない。本さえもない。(なぜなら全て電子書籍化しているから)週に3回は物資が届く。誰にも会わないで、夜寝ているときに玄関の前にポン、と置かれている。野菜(そこは自作じゃないんだ)、肉、魚、卵、チーズ、米、パン。食事は毎回。週に1回水曜は、手紙と歯磨き粉などの生活必需品が届く。

手紙は友達からで、そのほかの連絡は全てインターネット上だ。

インターネット上で私は10代のお悩み相談を適当にしている。そして毎日、小説を書いている。ファンから熱烈なファンレター(メール)が届く。それにエンデくらいの長い返答を送る。食事はほとんど朝ご飯でお腹がいっぱいになる。フルーツや、シリアル、卵料理、スパムやウインナー、パスタにパン。野菜スープに、ホットケーキも。
全部、アカシアの木の器で食べる。昼は掃除や散歩をして薪を集め、夜は暖かくして焚き火にあたって、何もしない。小説を書くのは、朝、起きて朝ごはんを食べる前までなのだ。

パッチワークのつぎはぎだらけのワンピースをいつも着ている。魔女みたいだが、でもびっくりするほど若々しい。(妄想だから。)

たまに、友達や恋人が遊びにくる。遊びにきてくれたときは、大歓迎して、一ヶ月くらいは四六時中ずっとおしゃべりしたり、恋人ならいちゃいちゃしたりしている。でも、あ、飽きるかも、あと1日一緒にいたらもう喧嘩するかも、という手前で、その人たちは去ってくれる。そしてまた、孤独と一緒に生活をするんだ。

堀辰雄の「風立ちぬ」は、最後がすばらしくて、自分が光のなかにいると、そこが光のなかだってわからないんだって主人公が思うところで涙が止まらなくなる。生きることの美しさ、人を愛することのいとしさを強く思う。文章自体が光のなかにあるようで、しかもそれは、太陽の光じゃなくて、電球の人工の光。暖かくて、一生懸命で、いとおしい。希望、のような気持ちがあふれてくる。そういう小説が書きたいな、と思う。でもそれだけじゃなくて、昔から私は、そういう森での一人暮らしに少し憧れがあるのだ。「魔女の宅急便」のあの絵描きのお姉さんのように(こちらは、ジブリのほう)。世捨て人ほどかっこよくなくて、何もかも自分でやるっていうのでもなくて、でも孤独とずっと寄り添っている。強くて美しい女性に憧れる。

今の社会なら、遠隔で稼ぐ方法を身につければ、きっとそんな生活は夢ではないんだろう。でも、やっぱり夢の一つとしてとっておきたい。私にとって夢は、叶えたくないキラキラした宝物だ。それがあれば生きていけるということは同じでも、夢を叶えるために生きてはいけない。

「どんなに好きなものも

 手に入ると

 手に入ったというそのことで

 ほんの少しうんざりするな

 どんなに好きなものも

 手に入らないと

 手に入らないというそのことで

 ほんの少しきらいになるんだよ     」

谷川俊太郎「My Favotite Things」ー「夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった」青土社

いやもう、谷川俊太郎先生、すばらしすぎる!!

谷川先生のような詩も書きたい。一字一句、無駄がなくて、全部食べてしまいたいくらい、でももったいない、と思う高級な一粒何千円も何万円もする苺のような美しい詩。

私の胸のなかには、憧れがたくさんあって、それらがチリチリ光って、今日もベッドから起き上がれる。それは幸せと呼んでもいいような、美しい感覚だ。今日も明日も憧れを探しに行こう。

それでは、また明日。明日こそ美しい文章を目指してがんばる!ライフワークについてのエッセイを予定しています。


#森の生活 #ソロー #谷川俊太郎 #堀辰雄

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?