精悍な刑事役よりチンピラが100倍似合ってるブラピという男

前々頁でダイアトニック・コードについて解説したが、いくつもの補足がある。まず、根音・3度・5度の「根音から3度ずつ重ねた」3音からなる和音のことを三和音と呼ぶ(根音-3度間が3度であることと同様、3度-5度間の音程も3度である)。三和音は英語でtriadと言うのだが、ポピュラー音楽の現場においては、「三和音」と言うよりは「トライアド」と(カタカナで)呼ぶことが多い。

そして、和音には転回という要素がある。これは和音の構成音の高低を入れ替えるもので、例えば低い順に3度・5度・根音や、5度・根音・3度と置くなどのほか、オクターブを超えて配置することも含まれる(根音・5度・オクターブ上の3度など)。通常、トライアドと言うときに、この転回形は含まない。


今回、新しくご説明差し上げるのは四和音である。これは3度ずつ重ねたトライアドに1音を加えた、4つの音からなる和音を指す。やはり、四和音と言うときに転回形を含むことは少ない。横文字だとtetradと呼ぶわけだが、これもほとんど聞かれない。というか、本当のところ、四和音などと口に出す機会は滅多にない(説明には便利なので、ここでは使う)。そして、トライアドに加えて四和音とする1音は、だいたいにおいて7度である。

まず、根音に対して短7度を加えたものをセブンス・コードという。表記上は音名(覚えておられるだろうか?CDEFGABだ)に、あるいは和音を意味する度数であるところのローマ数字に、7を加える(C7、Ⅰ7など)。その最大の役割は、ドミナント・モーションを強化するものであり、ドミナントの場合は特に属七の和音、などというが、別にどうでもよい。

どういうことになるか見てみよう。まず、最も基本的なドミナント・モーションはⅤ→Ⅰである。このⅤを属七の和音にすると、構成音はソから数えた短7度、つまりファを加えたソ、シ、レ、ファの四和音となる。ドミナントはその不安定性により、トニックへ解決する動力を持っているが、追加されたファはさらに効き、Ⅰの構成音の中の3度、ミへと特に強い解決を促す。

ドミナント・モーションにおけるセブンスは、機能的に非常に重要であり、省略されることはあまりない。逆に、セブンスが鳴っていることを聴き取ったときは、次はドミナント・モーションによって解決するのでは、とアタリをつけておくこともでき、ポピュラー音楽においてはそうそう外れない小技となる。

さて、セブンスにはもう一つ効果(機能とは呼びづらい)があり、それは特にトニックに属する和音をセブンスにした際に顕著だが、いわゆる泥臭い、イナタい、垢抜けないながらも独特の存在感のある響きになる。この使い方の基本的なものはブルースで、最もシンプルなブルースはⅠ7・Ⅳ7・Ⅴ7の三つの和音からなる、12小節の形式をとる。

  Ⅰ7 - Ⅰ7 - Ⅰ7 - Ⅰ7

  Ⅳ7 - Ⅳ7 - Ⅰ7 - Ⅰ7

  Ⅴ7 - Ⅳ7 - Ⅰ7 - Ⅰ7

という和音進行だ。なにしろ基本中の基本であり、バリエーションは無数にあるのだが、ここで紹介することは差し控える。なお、このようにやけくそじみた7の連打とまではいかずとも、ジャズやファンクなどで7は多用される。要するに、トニックを7とすることは「黒い」のだ。


さて、四和音の代表格のもう一つはメジャー・セブンス・コードというもので、これはトライアドに短7ではなく長7度を足すものである。これには解決に影響を及ぼす機能をさほど持っておらず、トニックの装飾に使われる場合が多い。

長7度は根音から見て半音差であるから、これは基本的に濁る。しかし、トライアドに素直に足した場合は、根音から1オクターブ近くの距離があり、また3度からみて完全5度、5度からみて長3度の配置となるため、不安定感は抑えられる。結果として、多少の苦みを加えるスパイスとして、あるいは3・5・7度のトライアドとして浮遊感と透明感をもたらす。

スパイスであるから、これは好みで振りかけてしまって構わないものだ。殊にその和音がトニック(あるいは、トニック的に使用されたサブドミナント)であり、7の指定がないときには有効にはたらく。


重要なことだが、四和音といえどもセブンス・コードとメジャー・セブンス・コードの間の互換性はとても低い。ドミナント・モーションの補強にメジャー・セブンスでは物足りないし、ブルージーな響きも持っていない。逆に、トニックを漫然とセブンスに置き換えるのも、装飾としては機能が強すぎる。

またもう一つ、マイナーに属するコード(ダイアトニックで言えばⅡ・Ⅲ・Ⅵ・Ⅶの、根音に対して短3度の鳴っている和音)に足す際に、メジャー・セブンスは鬼門である。マイナー・メジャー・セブンス・コードは使い道が非常に限られるのだ(だいたい、命名が適当すぎる。たぶん長い間、だれも使おうと考えたりはしなかったのだ)。

メジャー・セブンスと互換性があるのは、シックスというコードである。これはトライアドに長6度を加えたもので、ほとんどメジャー・セブンス・コードと同じ効果が得られる(やや濁りが薄く、透明感が強い)。雑に使い分けて特に問題ないが、やはりマイナー・コードに加える際は注意が必要になる。

メジャー・セブンス・コードは音名・度数にM7、あるいは△7と表記する。シックスはそのまま6と書けばよい。CM7、Ⅰ△7、A6といった具合だ。なお手書きの際、数字の7をあたかもカタカナの「ヌ」のごとく、交差する斜線を加えて書くとなんだか玄人っぽくてちょっとかっこういい。何かの区別のためにされていた文化かとも思うが、数字の7と誤読しそうな記号に思い当たるものがないので、たぶんオシャレの一環だったのだ。おそらく。

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