素晴らしき哉、人生

基本的な和音の構成、および表記を解説する。
ある和音(コード)はその根音(ルート)の音名によって表記され、続く文字列がその構成音に加える変化をあらわす。場合によっては、音名ではなく度数を表すローマ数字によって表記されることもある。


・メジャーコード

根音、長3度、完全5度からなる。最も基本的な和音で、音名のみによって表記する。C、A、Ⅳなど。読み方は根音のアルファベットそのままか、メジャーをつけて読む。

・マイナーコード

根音、短3度、完全5度からなる。音名に小文字のm、あるいは-(マイナス)をつけて表記する。Cm、Ⅱm、B-など。実をいうと、-で書くと見づらいのでやめたほうがいい。いずれにしても、根音にマイナーをつけて読む。

・セブンスコード

根音、長3度、完全5度、短7度からなる。音名に7、あるいはヌをつけて表記するヌ。C7、Ⅴヌなど。ヌは嘘である。音名にセブン、セブンスをつけて読む。でもスは少数派で、時代はヌであるしちょっとフランス語っぽくもなる。セブンヌ。ヌは嘘である。

・メジャーセブンスコード

根音、長3度、完全5度、長7度からなる。音名にM7、あるいは△7をつけて表記する。FM7、ⅠM7など。音名にメジャーセブン、メジャーセブンスをつけて読む。こちらの場合、なぜかス派の勢力が強く、セブンにはスをつけないくせに、こちらをメジャーセブンスと呼ぶノンポリが観測される。

・マイナーセブンスコード

根音、短3度、完全5度、短7度からなる。音名にm7、あるいは-7をつけて表記する。Em7、Ⅵ-7など。メジャーセブンスが根音/メジャーセブンスの区切りであるのに対し、こちらは根音マイナー/セブンスの区切りであってややこしい。音名にマイナーセブン、マイナーセブンスをつけて読む。こちらもス派の勢力は弱く、マイナーセブンス派はセブンス以上メジャーセブンス以下である。

・マイナーメジャーセブンスコード

根音、短3度、完全5度、長7度からなる。音名にmM7、あるいはm△7をつけて表記する。CmM7、ⅥmM7など。これに触れるとき、マイナス表記派は居心地の悪い思いをする。おそらく誤読が相次いだためであろう。音名+マイナーメジャーセブン、あるいはスと読む。発音しているとバカみたいな気分になれること請け合いで、実際に鳴らす機会もあまりない。

・ディミニッシュコード、ディミニッシュセブンスコード

根音、短3度、減5度、6度からなる。実際にはこの6度は、構成的には重減7度である(減7度をさらに減じて重減というわけだ)が、こんな禅問答とはさっさと縁を切るに限る。厳密な意味では、ディミニッシュは3和音を、ディミニッシュセブンスは4和音をそれぞれ指し、6度の有無によって使い分ける仕組みにはなっているが、ディミニッシュを配置して6度を省略する意味はあまり大きくない。表記は音名にdim、あるいは○をつけて表記するが、○はめったに通じないしあまり格好良くないので、dimを使うほうがよろしい。厳密な意味ではdimとdim7を書き分けることになるが、以下同文。

・マイナーセブンフラッティドファイブ、ハーフディミニッシュ

根音、短3度、減5度、短7度からなる。音名にm7-5、あるいはφをつけて表記し、ここに至ってマイナス派は完全に沈黙する。-7-5などと書きたくはないのだろう。入力上はわかりづらいが、φもディミニッシュを意味する○を右斜め上から左斜め下に袈裟に斬るスタイリッシュ表記で、通じなくとも強弁させる魅力がある。声に出して読みたいコードネームの筆頭でもあり、フラッティドという受動形も通っぽいし、ハーフディミニッシュもいかにも"わかってる"感を出せて、しかもコード自体、ドミナントモーションを強力に後押しする、使いでのある機能を持っている。自信をもってお勧めする一皿である。

・オーギュメント、オーギュメントフィフス

根音、長3度、増5度からなる。音名にaug、あるいは+、+5をつけて表記する。augが一番通じ、次点で+5、一番嫌な顔をされるのがただの+だ。実のところ、わざわざオーギュメントと言って変化するのは5度くらいしか分類されていないので、フィフスをつけると逆に白ける(だいたい、なんでファイブじゃないのか。ス派の亡霊でも出たか)。何事もほどほどが肝心、という教訓を我々に与える以外の仕事があまりない。6に繋ぐくらいか。

・シックス

根音、長3度、完全5度、6度からなる。音名に6をつけて表記する。腰の定まらないス派による最大の犠牲者で、シクスィスなどと発音すれば以降、その件でずっとからかわれることになる。少なくともわたしは大いに笑う――実を言うと、まだ笑っている。

・ナインス一族

本来、根音からオクターヴを超えてコードに参加する音はテンション・ノートと呼ばれ、コードネームには含まれない。それらは機能に影響を与える度合いが小さいため、指定のない限り、使途に応じて演奏者がその場で自由に付け加えてよいものとされており、特別に指定する場合はコードネームの横にカッコで括って付記するのが通例となっている。C7(9,#11)というように。
だが、何事にも例外が存在する。9の一族はその使い方の明瞭さから、その一部が特別にコードネームを名乗ることを許された。ナインス、メジャーナインス、アドナインス、シックスナインスがそれだ(マイナーは響きがシケているので漏れた)。

ナインスは音名に9とだけ書き、セブンスコードに9度(≒2度)を加える。メジャーナインスはM9、△9と書き、メジャーセブンスコードに9度を加える。アドナインスはadd9と書き、メジャーコードに9度を加える(なお、非常にひねくれた人間がadd2と書くのを一度だけ目撃した)。シックスナインスは身長差があると首が疲れるし、そもそもあまり楽しくないが、69と書き、シックスに9度を加えたものになる。69においてのみ、ス派は沈黙しているが、他の9コードに関しては雄弁になる。


あまりにも気楽に列挙してしまったが、これがいつか役に立つかと言われれば微妙なところだ。特にマイナーメジャーセブンだのナインス関連だの、オーギュメントだのシックスだのはあとあとになってもろくに登場しないと思われる。

しかし、一部のピアノ出身の人がもつ、コードに関する苦手意識を解消する役には立つかもしれない。コードなんてこの程度のもんである。この世界に存在するコード表記は99%以上、これで読めるはずだ。どうか気長に、都度参照するなり、そのうち覚えてみるなりしてご活用いただきたい。


え、ギターの人のために度数じゃなくてインターバルで?世の中にはTab譜といういいものがあるので、どの弦のどのポジションが構成音のうちの何度にあたるのか数えてみるのはいかがだろうか。いかがですか?


(2017/5/26追記)

すっげえ完全に存在を失念していた。説明すべきコードがもう1種類ある。

・サスフォー、サスペンデッドフォー

根音、4度、5度からなる。音名にsus4をつけて表記する。これはsuspended、「吊るされた」の略で、その名の通り非常に座りの悪い、宙ぶらりんの感覚を与える。ぶっちゃけた話、トニックの前にこれを置き、そのままトニックに解決する使われ方が95%くらいを占める。あまりにも読めすぎるので、一度試したら赤面しつつ忘れ去ることになると思う。なお、これについてス派の存在は確認されていない。

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