その男チャーリイ

だいたい、チャーリイってやつについて町の連中みんなが言ってることときたら、てんで、ばらばらだった。

かんかん照りの暑い日に、帽子もなしでやってきた。からっからに乾いた風のなかを、よろめくみたいに歩いてた。ジョージの店にころがりこんで、ケニーのピアノをこきおろした。教会のオルガン弾きも、やつを見るなり逃げ出すしまつ――。

それもそのはず。

ほんとのとこ、チャーリイがどこの生まれの何者なのか、知ってるやつはひとりもいやしなかった。いつからかこの町で、毎日かわるがわるにどっかで、きらきら光るサキソフォンを吹いてる男。それがチャーリイさ。


そしてその、チャーリイのサキソフォンから飛び出す音楽についてだって、町の連中はみんな、くちぐちに勝手なことを言ったものさ。

うきうきと楽しくて、踊りだしたくなっちまうような。胸がつまって、せつなくなっちまうような。日曜の教会で、いつも歌うような。どこの町でも、聞いたことのないような――。

それもそのはず。

チャーリイの音楽は、どこでもそのつど、一回こっきり。同じことを、二度とはやらない。前の日にあっちの店で、次の日にはこっちの通りで、やつの吹くのはそれぞれ、ぜんぜんちがう音楽ってこと。

たぶん、チャーリイだって、きのう自分がどんなのを吹いたか、覚えてないんだと思うな。とんでもなく入り組んで、上がったり下がったり。も一度上がって、こんどは下がらない。そんなふうだけど、毎度毎度、最後にはきちんとおさまっちまう。そんなの、いちいち覚えちゃいられるかい?

だから、チャーリイの音楽について言うときは、それをどこでいつ聞いたのかってこと、最初に言わなきゃだめだ。それだけ守れば、町のだれでも、そいつの話をちゃんと聞くのさ。うまい、へたは関係なしだ。

きのうのチャーリイがどんなだったかは、町のあいさつのひとつになった。チャーリイはこの町に魔法をかけたんだ。ビ・バップって魔法さ。

【つづく】

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