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アンコールワット

完成までに途方もない歳月がかかる壮大なもの、たとえばサグラダファミリアだったりピラミッドだったり、自分が生きている間に完成には決して立ち会えないと知りながら、その建築に携わる人たちの気持ちはどんなものだろうと思いを馳せたことがある。

切なさや虚しさを感じることがあるんじゃなかろうかとか思っていたけれど、三輪悟さんを見ていると、その答えがわかる気がするのだ。

三輪悟さん。上智大学アジア人材養成研究センターのフィールド所長として、暑いカンボジアの地で、アンコールワットの西参道の調査と修復に携わっている。

文化も価値観も違うカンボジア人たちと、ゼロから関係を築きあげ共に歩んできた。

カンボジア人との時間感覚の違いだとか、給料の値上げに応じずに刺されそうになったことだとか、笑いながら何でもないことのように三輪さんは話すけれど、異国の地で、日本人たったひとりでチームを率いてきた苦労ははかり知れない。

それも一年やニ年ではなく、かれこれもう二十年だ。

幸いなことに、三輪さんの生きている間に西参道の修復は終わるのだけれど、それでも途方もない歳月だ。それに完成までに百年かかると言われていても、三輪さんはその仕事に臨んだだろう。たぶんそういう人なのだ。


現地に寄り添いながら、時に悩みながら、時にデング熱にかかりながらミッションを貫き続ける三輪さんが教えてくれた、「夢に向かって進む時の3つの心得。あせらない、あてにしない、あきらめない」には、だから随分と説得力がある。


時折カンボジア人と食べている牛の丸焼きやらネズミやらの写真を(恐らくこちらに「ぎゃー」と言わせる目的で)メッセンジャーで送ってきたりするお茶目な三輪さんは、アンコールワットにのぼる朝日や夕焼けや星空、そして奥様のゆかさんを深く愛している。

三輪さんを見ていると、12世紀にアンコールワットを作ってきた先人たちもきっと、日々の楽しみ方を知っていて、夫婦愛に満ちていて、お茶目で、ロマンチックで雄大な人たちだったのだろうと思う。

偉大で愛すべき人たちの、日々の積み重ねの上に存在しているアンコールワット。なんだかますます壮大に見えてきた。


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