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睡蓮

アンコールワットの西参道を修復している三輪悟さんの元をたずねたときのこと。

三輪さんが楽しそうに、「彼はとても器用でね、ちょっとした特技があるんです」と、スタッフのカンボジア人男性を紹介してくれた。

彼はとても優しく美しい声の持ち主で、ニコニコしながら睡蓮の花を持っていた。それから睡蓮の茎を裂いて、また裂いてを繰り返し、説明が難しいのだけれど、彼はつまり睡蓮の花のネックレスをつくったのだった。


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「ポル・ポトの時代によく作っていたそうですよ」とサラリと言う三輪さん。

ポル・ポトの、あの大虐殺の時代。その時代、幼い子どもだったであろう彼。湖に睡蓮を摘みに行き、無心で首飾りを作っている少年を想像した。

誰にあげる首飾りだったのか。完成までのあいだ、すべての嫌なことを忘れることができたのだろうか。いったいいくつ作ったのだろう。

どんな時でも、日々の中に楽しみを見つけられる子どもという生き物よ。

タイムスリップできるわけでもないくせに、ふいに子ども時代の彼を抱きしめたくてたまらなくなった。







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