実録 ドラキュラ菜園に立つ 4

バンリュー族のアンニュイ

時は来た。4月1日、ついに菜園に入れる日となった。陽光うららかちょっと風の強い午後遅く。さっそく市民農園に向かうは、わたし、助太刀の夫と近所に住んでいる母である(全員農作未経験)。

ところで、この市民農園であるが、住宅街のど真ん中に唐突に存在している。話はここでぐぐっと横道に逸れる。わたしは神奈川県在住で、打ち合わせやパーティなど仕事関係の人と名刺交換をすると、だいたい十中八九相手の方に「まァ、ずいぶん遠くからいらっしゃってるのですねえ...」と長い道中への労いの言葉をかけられ、その方がどこか遠いぼんやりと興味索然たる街を頭にほんの一瞬描いているのが伝わって来る(そしてわたしはと言えばなんとなくバツが悪いので「いやー、あのう、でも1時間ぐらいで都心に来られるので、大丈夫ですよ!」とか何が大丈夫なのか分からない冴えない返答をするのが常である)のだが、まあ、その相手の方々の想像はまったく間違っておらず、すごく田舎っぽい良さはないが都会的な良さも当然持ち合わせていないという、まったく身も蓋もない郊外に住んでいる。現実はこうである。まず、のどけき麗しの田園風景では、ない。郊外型巨大ショッピングモールが車で20分ぐらいのところにある。しかし駅前は大変ゴミゴミしており、駅周辺は高層マンションだらけである(そのマンションのひとつに自分も住んでいる)。駅から10分ぐらいになると、びっしり住宅街だ。フォローすると、おしゃれなお店はあんまりないがちょっと行けば大きな自然公園があったり、近隣駅にはでっかい図書館もあるし、ホームセンターも世界堂も豊富にあり、生活インフラは便利だし、たまに世間を騒がす殺人事件なども起こるし上空は米軍機がごうごう飛んでいるが基本的にはのどかで、住めば都である。書いていたら不本意ながらますますネガキャンになっているような気もする。(いやでもええ、好きですよ自分の町)。さて、この長くて要領を得ず若干いじけた話の帰結点は「やや田舎と言えど家の周りにそんなに畑はない」ということなのであった。つまり、畑のプロもそんなにいないのではないか。

さて、徒歩数分、畑に到着である。今回この畑は全て整地して全区画更地になっているはずである。まずは偵察、と思っていたが、行ってみるともう何人かが作業しているのが見える。というか、もう畝なんか作っちゃったりしてある区画もある。出遅れた。どこから湧いてきたのだろうかこの畑のプロたちは。周囲の人々が皆「はえぬきの家庭菜園達人」と言った風情に見え、いきなり気遅れする。いや、別に競争ではない。はやる心を抑えながら、自分に割り振られた区画に到着する。6m×3mほどだろうか。さあてここに天地創造と参ろうか。

ただの地面である。前の人の使用したマルチング用のビニールや雑草などがチラホラ見える。

が、見に来てはみたが、道具も堆肥もなければ何も始まらぬ。我々はくるりと踵を返して一路、車で20分ぐらいのところにあるホームセンター(ああ便利、郊外ライフ)に向かったのである。(続く)


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