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京大院試物語 ~当日②~

家に着いた瞬間シャワーを浴び、放心状態のまま一旦布団に入った。アラームは20時にセットして、起きてからも若干頭はフラフラしていたので布団に入りながら出そうなところをまとめたノートを見返していた。

京大理学部の専門科目は、研究室ごとに問題が異なり、その研究室の先生の研究テーマに沿った出題となることが多い。この日はもうガツガツ勉強する気にはならなかったので、「そう言えば...」と思い、希望する研究室の先生が書いた本を読んでみた。今更オブ今更。(※4月のやる気に満ち溢れていた頃に勢いでポチってそれ以来の積ん読本)

すると論文を読んでいただけではよく分からなかったあんなことやこんなことについても、非常に丁寧かつ詳しいことが書いてあるではないか。なんで今まで読まなかったんだろう!これを求めてたんです!!!日本語サイコー!!!

とりあえず本の内容はあらかた頭に入れて、重要用語はWordで簡易的な用語集を作って印刷した。間違っても前日の夜にやることではない。

ちなみに口頭試問は、専門科目の後4時間ほど待機時間があるのでその間に対策を練るかと考えて最後まで何もせず寝ました。うんこ。


試験2日目の朝。

1日目の朝よりは気分的に楽だったが、起きると猛烈に首が痛かった。昨日は力の入れどころを間違えたようである。またやっぱり熟睡はできなかったので、頭も重いし目の下にはクマができていた。心身ともにガタガタすぎて、自分の中の悟空が「ぐっ....もってくれよオラのカラダ.....ッ!!!」と叫んでいた(上裸で肩で息をしながら宙に浮く絵文字) 。

全く就活をしていなかったのでこの日のためだけに買った就活スーツに着替える。家を出て2分で靴擦れした。就活パンプス無能。高かったのに。



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専門科目

会場に着くとやはり8割の学生がスーツだった。昨日つくったやっつけの用語集をギリギリまで見直し、試験に挑んだ。

時間は90分間もあったが、私が希望する研究室の問題数は長めの説明問題が2問と、比較的簡単な語句説明問題が3問。例年ならどちらもそれぞれ6問ほどある中から2,3問を選択して解くのだが、今年は選択できる候補が少なかった。そのため多少専門外な問題にも手をつけざるを得なかった。専門科目とは。

ここでまたミラクルが起きる。初見で「え〜分からんねんけどきつ~」と思った問題を何回も読み返していると、なんだか昨晩読んだ本の内容に似ている気がする。まさか本当に出るとは思っていなかったので、多少うろ覚えな内容を思い起こし、がんばってそれらしくなるように書いた。

解答には30分ほどしかかからなかったので、残り1時間はボケ〜っとしていた。隣の子は最後までずっと解答を書き続けていたようだったので、やはり研究室によって問題の数も難易度も違うのかな?と思った。

この90分間を終えて、ようやく筆記試験の全てを終えた。残りは口頭試問のみ。忘れていた靴擦れの痛みが酷かったので、会場係員の方に絆創膏を3枚貰った。


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口頭試問

昼食を食べる1時間を除いても待機時間は3時間半もあった。暇すぎて京大の中を探検しようにも足が痛くてあまり遠くまで行く気にはならなかった。内部生は一旦家に帰れていいなと思った。

口頭試問で聞かれそうなことをまとめていたが、30分で飽きてしまい本当にひたすら暇だった。ゲームくらいもってくればよかった。


4時間半後ようやく口頭試問の受付が始まり、私は受験番号が早かったので直ぐに呼ばれた。

どきどきしながら指定された部屋に向かうと、その研究室の先生方4人───の後ろに知らない先生方がさらに10人ほど椅子を並べて座っていた。

恐らく不正防止なのだろうが、合計14人のおじさんの圧に私はすっかりビビってしまった。中には外国人の先生も座っている。聞いてないぞ。


散歩と聞かされ動物病院に連れてこられた犬のような顔をしている私に、研究室の先生方は和やかに笑いかけてくれ、口頭試問が始まった。

──「研究室の志望動機を聞かせてください。」

来たぞ。どこでも絶対聞かれるやつ。

「私は現在イネのトランスポゾンについて研究しており、勉強していくうちにトランスポゾンのような転移因子や反復配列、つまりゲノムの非コード領域は、進化においてとても重要な役割を果たしていることを知りました。我々ヒトとサルの決定的な違いもここにあると言うことで、遺伝子を通して進化についてもっと研究してみたいと思────」

と、言えたらよかった。

しかし緊張のあまり声が震えて全く出てこなかった。

元々感情が高ぶると吃音気味になってしまうのに加えて、極度のあがり症のため「ト、トラン....トランスポゾン.....は、」と言うのに必死だった。

不慮の事故に感情がオーバーヒートし、喉でつかえて出てこない言葉の代わりに目から水を出してしまった。おい脳、仕事しろや。泣きたいわけじゃない。むしろ私はこの不甲斐ない状況に怒っている。

「落ち着いて、大丈夫だよ!」と励まされながらやっとこさ支離滅裂な言葉を絞り出すと、次は別の先生から次の質問。

──「あなたは専門科目の問〇で、発生学的な視点から解答をしていますが、進化学的な視点から考えられることは何かありますか?」


バグり散らかした脳はついにフリーズした。

知らん。 分からん。 Help me。


これが私の犯した院試最大級のミスだった。

これは家に帰って気がついたことだが、「なんであの先生はそんなこと聞いたのかなあ」と思って専門科目の問題を見返していると、その問題には「発生進化学的な視点から述べよ」と書いてあり、私はこの進化学の3文字を見過ごして発生学的な視点からしか述べていなかった。自分が進化学の研究室を希望しているにも関わらず。

その先生はその解答に疑問を抱いて、単なる見過ごしならば....と救いの手を差し伸べてくれたのかもしれない。馬鹿な私は全く気づかず、「すみません、分かりません。」と答えてしまった。

ジ・エンド。 救済の余地なし。

専門科目で余った60分間私は何をしていた???口頭試問までの4時間半は????
だいたい問題をちゃんと読んでないなんてことは院試以前の問題だ。小学校からやり直せ。


この時点では死んだ方がマシなマヌケっぷりにもまだ気がついてはいないので「そうですか、分かりました。」と言われてもまだなんとか息をしていた。

続けてその先生から

──「うちみたいな細胞レベルの研究するところだと、本当になかなか結果が出ないこともあるんだけど、そういうときに研究へのモチベーションを保つために何か心がけていることはありますか?」

と聞かれた。これは答えられる。

私は小さい頃からポケモンやDQ、FFのようなRPGゲームが大好きで、研究にも似たような面白さを感じていた。毎日少しずつ自分が主人公として物語を進めていくところだったり、謎ときがあったり、魔王やボスが初見で倒せなくてひたすらレベル上げに勤しんだり、一見無駄では?と思うイベントにもちゃんと意味があったり。

自分1人ではうまくいかないことも多いが、そんなときは攻略本である(教授)。経験豊富な先生方のアドバイスやヒントを糧にリトライしてみると、案外すんなり切り抜けられることがある。

しかし攻略本は代わりに敵を殴ってはくれない。これは自分が主人公のストーリーだ。いつだって自分が勇者として決着をつける必要がある。

上手くいかないことは多々あれど、だからこそRPGは面白いしやり甲斐がある。この先には何があるのだろう、とまだ見ぬ世界を思い浮かべることで上手くいかないことへの苛立ちは少なからずワクワクへと変わる。


だいたいそのようなことを話したら、先生方は皆笑っていた。「その気持ち、とてもよく分かります」と言って貰えて、ようやく緊張がとけた。

そのあとは卒業研究の進捗であったり、今の研究をしていて今後の研究に役立ちそうなことはあるかといった質問であったり、合格していた場合、愛知で一人暮らしをすることになるが両親の了承は得ているかといった質問が続いた。
(※私は霊長類学・野生動物系を志願していたので、合格していた場合京都ではなく、愛知県犬山市の霊長類研究所に通うことなる)

最後に「何か聞いておきたいことはありますか?」と聞かれたが、特に何も無かったので、このまま口頭試問は終了した。10分もかからなかったと思う。緊張しすぎて最後に終了のサインをもらってくるのを忘れていて、再度慌てて1階から4階まで靴擦れしたヒールで駆け上がる羽目になった。


ところで、書くタイミングを逃したが、口頭試問中4人の先生方の手元には私の解答済の全答案が置かれていた。何やら赤ペンで点数のようなものも書かれていたが、私は目が悪いのでよく見えなかった。待機させられていたあの4時間の間に採点が終わり、だいたいの合否は分かった状態で質問されているのだろう。あまり試験の出来が良くなかった受験生にとってはなぶり殺しにあうような時間である。


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帰りの電車でこの2日間をゆっくり思い返していた。我ながら精一杯はやれたと思う。悔いはない。生物学の出来なかったところは、もう一生懸命勉強したEssentialに載っていなかったのだからあと1週間あったって1ヶ月あったって出来は今日と変わらないだろう。これで落ちたらもう運が悪かったんだ。

そう思っていたが、その晩親に出来を聞かれ、試験問題を見返していると上述の専門科目のありえないミスに気が付き、これはさすがに悔しくて情けなくてこっそり布団で大泣きした。

専門科目は研究室ごとに問題も難易度も違うので、全体の合否に直接は影響しないらしいが(それを合否の基準に含めると不公平になる)、自分がボーダーであった場合その出来が合否を分ける可能性はある。
2日間を通してお世辞にもよく出来たとは言えなかったので、専門科目と口頭試問での二重のミスが本当に痛かった。あれは回避できたはず。

ということなので、皆さん本当に問題はよく読みましょう。このクソ暑い8月から就活はしたくないよね?お願いします。


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以上で、京大院試物語 当日編の終了です。
はぁ、書き始めたのをちょっと後悔した。
なんでこんな長いねん(逆ギレ)。

次回、ようやく合否が出ます。
もうちょっとや、頑張って書ききれ私。

それでは。

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