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パフォーマンスいわれ22 サディスティックサーカス15 2016「安達ヶ原 黒塚」

 春サディスカ終了後(いや途中から)、この秋のサディスカに向けての打ち合わせが始まる。制作側から「百物語的な怪談ものはどうだろう」という意見がでる。
 そこで小泉八雲の短編など、いくつか提案する。そうすると先方から他の案件資料が送られてくる、というメールのやり取りが続く。やがて話は、能の演目がいいんじゃないか、ということになり、怪談的な物語を選考する。

いくつかの演目の検討を経て「安達が原 黒塚」にたどり着いた。残酷な殺戮シーンや、鬼女登場で、ショーとして作りやすいと思ったからだ。

ざっとストーリーを追うと、山伏二人が福島県の安達が原にたどり着いた。日も暮れて、一夜の宿を探すとあばら家にたどり着く。そこには貧しい老婆が一人住んでいた。老婆は山伏を歓迎し、また自分の辛い人生も吐露した。老婆は山伏たちに温まってもらおうと夜、薪拾いに出るが、その際「決して私の寝室を覗くな」と注意する。そう言われると覗きたくなるのがヒトである。こっそり覗いて見ると、そこには死体が累々と重なっていた。さては鬼女か、と慌てて逃げ出すと、そこへ老婆が帰ってくる。さては見たな、と老婆は鬼女に変わっていき、山伏たちを追い込んでいく。山伏は呪文を唱え祈り出すと、鬼女は自分の正体を恥じ、呪いつつ退散していく。
 こんなストーリーである。

しかしこのストーリーを一人で展開するのは無理がある。やはりストーリーテーラーがいないと、お客様にも伝わらない。私はある人を思い浮かべた。ずっと以前から知り合いなのだが、私のパフォーマンスをきちんと話したことがない人物。浪曲師玉川奈々福氏だ。浪曲というより、講談調に弾き語りしてくれたら、この演目はいけるだろう、と思った。
 懐の深い奈々福氏。きっと理解してくれるだろうと、出演交渉を進めていくと、快諾をいただいた。しかし持ち時間15分の演出をどうするか。これがなかなか厳しい。

7月に入り制作と奈々福氏らと打ち合わせ。ここで面白いと思ってもらわなければ、このパフォーマンスは乗り切れない。ましてや公演活動が忙しい奈々福氏である。私は自分なりに能台本を基に、構成案を書いてアプローチした。具体例があればそこは演者の奈々福氏。アイディアが次々と出て、1時間程度の打ち合わせで内容が随分詰められた。台本は奈々福氏が語りやすいようご自身でお書きになる、と決まった。この打ち合わせが本番までに最初で最期となる。

台本が上がるまで私は、能台本を何度も読み衣装などイメージ作り。般若面がいるな、どこで買うか。衣装は派手にするか、地味めで怖さを出すか等々頭の中で浮かんでは消え、と繰り返していた。
 そうしているうちに台本を書き進めている奈々福氏から「鬼女登場まで一人語りは厳しい。小屋の女としても登場してはどうか」と連絡があった。もちろん構わないが、そうなると鬼女への早替えが必要となり、あまりきっちりした衣装は着れない。簡単に着れてそれらしいもの、、、。
 
そして思いついたのは、海老色の「千早(ちはや)」。巫女装束の上に羽織るものだ。これを水色の襦袢の上に羽織る。本来の着方とは全く違うが、舞台ではありがちなこと。舞台ではビジュアルだけを求めるから。
 小屋の女はごく普通の着物にし杖をつく、ゆっくりとした動き。そして早替えで鬼女となり、緩急をつける。

さてハラキリ刀は何にするか。人喰い鬼女の持つ刀。「なた」のような物もアリだろうが、色気がない。迷い込んだ男を殺戮してきた鬼女である。ならば男の持っていた刀を取ってある、というのも考えられる。殺戮した男の刀で自らの腹を割いて、これまでの悪行を詫びる。こういった意味を含め、鐔付きの短刀でのハラキリとした。

般若面は浅草の仲見世通りに心当たりの店がある。探しに行くと、まさしく私の欲しい手頃な面が売っていた。しかし迫力に欠けるので、少し色付けしようと思っていると、制作スタッフの一人が手を上げて「私が色付けします」と申し出てくれた。全くありがたい。

9月24日本番当日。私たちは早めに会場入りし、打ち合わせをする。この会場のスタッフルームは広く、鏡も付いているので、稽古場としてもうってつけだ。
 スタッフが色付けしてくれた般若面と初対面。いい!いい顔色となって迫力満点だ。早速かぶりながら鬼女舞をまとめて行く。その様子を見ながら奈々福氏も音を探って行く。そして切腹シーンの音。雰囲気を伝えながら「間を持って」と伝え、最後の決め音ジャン!という感じで、とお願いする。
 ショーイベントでコラボレーションするとき、私は演技を詰めて行くタイプではない。方向性が一致すれば、あとはステージでの一発勝負。相手の技量を信頼しているので、それでよし、と思っている。お互いのエネルギーが舞台で爆発する。これが楽しみなのだ。

さぁ、本番の時間までテンションを上げてステージを楽しもう!
(出番は深夜ですが、、待ち時間が長い)

安達ケ原  構成表

前者の転換中、奈々福、ステージ下手へ板付き
(場位置は当日確認)
司会者紹介後、良き空気でスタート

照明:奈々福、ピン、背景夕暮れ~徐々に夜へ

節{シテ げに侘び人の習いほど 悲しきものはよもあらじ~}
で、女(早乙女)上手より杖をついて出てくる
花道からステージ後方、前へは出ない
マイム振りのよう

語り、薪取りの話、
{シテ さらばやがて帰り候べし}
で女、下手へ去っていく

語り{~無我夢中で逃げてゆく、無我夢中で逃げてゆく}
語り終り、CD流し
雷、夕立効果音(ずっと流している)
照明:フラッシュなど不気味さ

早替えで早乙女、鬼女(般若面)となりセンターより登場
激しい動き、三味も激しく
ステージ全面

祐慶の{東方に降三世明王~}のお経により
鬼女の激しさ弱まり、ステージ中央に倒れ込む

奈々福、倒れ込むのをみて
{…今までは~}の語り

鬼女、般若面を取り、もとの姿へ戻り、
よろよろと立ち上がり、身を恥じる腹切りとなる

奈々福、雰囲気の三味
絶命後、奈々福、三味バン!の決め音で照明、カットアウト、CD音残っていたらフェードアウト

三拍ほどおいて、再び照明、奈々福、早乙女お辞儀


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