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パフォーマンスいわれ14 サディスティックサーカス7<娘道成寺>

2012年のサディスカ。いよいよ私がやりたかった「道成寺」の登場である。これをやるには大道具が必要となり、ストリップ劇場でも特定の小屋でしかやっていない(鶴見新世界、大宮ショーアップ、若松劇場)。この演目が大掛かりになったのは、初めの演出ありきである。

初めて作ったのは1989年。私は「オサダゼミナール」から離れて自縛の踊り子となった。この時から演出として関わってくれたのが舞踏家滑川五郎氏であった。この演目の大道具をこだわって作ってくれた。釣鐘は外せない大道具だが、氏の知り合いの真鍮作家に作ってもらい、大蛇に変化した際の衣装は滑川氏が公演で使った造形を利用した。パラシュート用の生地で筒を作り、送風機で空気を送ると筒はグッと伸びていく。つまり大蛇の胴体のような感じになる、というものだ。

おっと。ストーリー説明をする前に解説してしまった。和歌山県の「道成寺」にまつわるこの「安珍清姫」の物語。修行僧安珍に恋をしてしまった清姫。どうしても逢いたいとお寺まで追って行くが、安珍は釣鐘の中に隠れてしまう。そうまでして避けられたことに清姫は腹が立ち、釣鐘ごと女の業で燃やしてしまった。というお話。しかしこれは歌舞伎では「京鹿子娘道成寺」として早替りを含めた舞踊で構成され、華やかな演目として人気が高い。

さて、話を戻して2012年。制作や舞監と話し合いの中、釣鐘は舞監が作ってくれることになったが、大蛇の衣装でもめた。筒状の布。私は鱗に見えるように布を縫い付けるつもりでいたが、「本当にそれで大蛇っぽく見えるのか。チンケなもの作ってもらっては困る」というような意見で、しばらく保留となっていた。そこへ制作側から届いたのが立派な「鯉のぼり」であった。そしてこんなアイディアも。「中国の龍舞のように操りにしたら面白いんじゃないか」

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つまりその衣装に早替りして、吊りあげ、蛇体の尾の部分を黒子が持ち、操ろう、ということだ。それはそれで面白い絵になりそうだ。制作もなかなか刺激的な意見を出してくれるので、私はやりがいがある。ダメかどうかはやって見なくてはわからない。私は新しい意見にはすぐ賛成する。

早速蛇体の制作に入る。最後に操り棒を取り付けるのだが、まずは私の腰から下に装着する蛇体。鯉のぼりのままではのっぺりしたままである。そこで筒状を保つため、何かの芯を縫い込まなければならない。本当なら竹などがいいかと思ったが、丸くするには技術がいる。そこで簡単に手に入り、円になるもの、細いホースを縫い込むことにした。空き時間にチクチクと、手縫いである。でも自分の衣装、全く苦にならない。そして上半身は、古着の着物を使い、鯉のぼりのあまりを縫い付け、下と雰囲気を合わせる。あとは黒子との稽古でタイミングを合わせて行くことが大事だ。

そして出だし、物語のはじめの衣装であるが、道成寺仕様の引きずり衣装を持っているのだ。これは縁あって出会った女剣戟の座長、水島さなえ様に譲っていただいたもの。水島様からは何着かの引きずりを譲り受けた。女剣戟全盛期の頃、負けん気の強い水島様は、誰よりも衣装にこだわっていた。「踊りや剣戟の技術は勉強すればいいけど、やっぱり女ですからね。パッと舞台に出てきた時の華、豪華さ。これは勉強して身につくものではない。身銭を切って、センスを磨いていないと。衣装は誰にも負けない気で新調していました」初めてお逢いした時、水島様は70代後半であった。どうしても処分できなかったという、思い出の衣装を、ついに手放す決心をしたのだった。そして偶然にも水島様の現役時代の体型と私の体型がほぼ同じであった。なので直しも必要ない。私は「心意気」を背負ったのである。

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このステージは大道具だけでなく、黒子の登場など予想外に大きくなってしまった。なので細かい所作などは9月に入ってからの集中稽古にかかっている。それまでに私は曲や、自分の所作の流れを全て決めておかなければならない。大蛇への変身時に使う曲は、昔から変えていない。シンセサイザーのジャンミッシェルジャールの「磁界」から抜粋している。アップテンポで色彩豊かな曲。大蛇=女の業が燃えているさまを感じる曲だ。この曲がわかりやすい曲なので、後半は切腹に持って行く為に重い感じにしていく。曲構成というのは、パフォーマンスでは重要なポイントであるが、ストリップ劇場で培った感覚があるので、私は楽しんで構成している。

この演目で一番の見せ場、私のやりたいことは、釣鐘の上でのハラキリである。歌舞伎では最後、鐘の上に乗った清姫が見得を切って終わる。私はこの上でハラキリをしたい、と思ったのだ。ハラキリをし、釣鐘から転がって落ち、地面で絶命する。この絵が浮かんで離れない。これは初めからこの絵がラストであった。だからいい加減な釣鐘ではダメなのだ。上に乗ってひと演技し、降りる、という所作ができなければならない。そこで大きめな釣鐘となり、やる場所を選ぶことになったのだ。

さぁ9月に入り、蛇体を操る黒子の稽古となった。衣装を変え、吊る装置をつけ、吊られていく。黒子は二人。蛇体はくねくねと天を泳ぐように、執念を燃やすように舞って行く。二人とも意図を組んでくれ、いい動きをしてくれる。サディスカの凄いところは、スタッフ全てが、このイベントに対し情熱を持っていることだ。誰がどんな役割を振られても「ちっ!」「めんどくさ」といった感情は持たず、積極的にこなしてくれる。この仲間意識の高さが演者を支えてくれているのだ。

そして本番。釣鐘のふちは朱塗り。中が見えるようにビニール張りとなっている。内側は天井から花が釣り下がっている。これは舞監のアイディア。この釣鐘の中で私は「変身」の所作をしなければならない。足袋を脱いで、襦袢を脱ぎ、吊り用のハーネスをつける。もちろんこれらは段取りに見えてはならないのだから、地味な頑張りどころである。そして私の悪い癖であるが、稽古の通りではなく、全ての所作が1分近く遅れていた。私は音楽をいいだけ聞いてギリギリのところをみているのだが、周りのスタッフは、1分違えばかなりの狂いだ。終わったあと「ヒヤヒヤだったよ」と注意された。いや本当にすまなかった。今、記録ビデオを見たが、あまりのギリギリ時間に、今でもつい肩に力が入る次第だ。そしてこの団結のステージは私の中で忘れられない演目となった。

シーン1
 VJと共に曲流し、その中、清姫花道から登場
VJ「鐘に恨みは数々ござる 諸行無常と響くなり
  恋しいあの方は出家の身
  なれど、とても諦めきれぬ
  この想いなんとしよう
  乱れ心に乱れ髪
  恋しさ憎くさ
  うら、おもて」

 ステージ中央、舞

 鐘を見つけ惹かれて行く
 妖しく、脱ぎ
 襦袢姿で鐘の下へ
 鐘、降りてくる

シーン2
 鐘の中。妄念から蛇の化身へと変化していく
 鐘から出る
 蛇衣着ていく
 カラビナ装着(黒子)
 吊り。黒子蛇体操り
 曲のよき所で下ろし、蛇衣脱ぎ
 清姫倒れる

シーン3
 ナレーション
 「女の執念の恐ろしさ
  なーまくさんまんだ ばさらだせんだ
  まかろしゃな そわたや うんたらたかんまん
  我が身を恥じる
  どうか どうか
  哀れんでくだされ」

 ナレーション後、ゆっくり起き
 我を懺悔し合掌
シーン3
 刀を取る。鞘を払う
 刀を持ち、鐘の上へ。
 鐘上での腹切り
 下へ転がる

 とどめ
 絶命
           暗転






 
   


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